「……」


結局行き着いた先は、ファミレスではなく私の住む部屋だった。
少年が『大切な話』というから、騒がしい店より静かに二人きりで話せる場所を選んだら、自然とこうなった。

少年は妙に落ち着き払った態度で、私の家に入るなり深呼吸をしてリビングのソファに腰掛けた。


「えっと、何か飲む?」

「ああ、……なんでもいいぞ」


ぐるりと部屋を見回した少年が、テレビの隣に飾ってある一枚の写真に目を止める。何の変哲もない、友人と旅先で撮影した写真だ。私も友人も、笑顔でピースサインをしている。


「しゃしん」

「ん?」

「俺も、なまえのしゃしんが欲しい」


その、強い口ぶりに背筋がなぜだか粟立った。意思の強い声だ。

冷蔵庫から取り出したオレンジジュースを二つのコップに注ぎ、プラスチックのトレイに乗せてリビングへ向かう。
少年はそんな私を下から見上げ、何か考える仕草で腕を組んだ。


「なまえ、ごめん」

「なに、」


コップをテーブルに置いたまさにその瞬間のことだった。

少年は私の腕を引き、その柔らかい唇を私のそれに押し当てた。あまりに瞬間的なことだったから何をすることも出来ず、真っ白な頭でされるがままになっていた私は、自分の視界が天井と少年の悲痛な表情だけになっていることに、まだ気付かなかった。


*


「ゆ、まっ」


伸ばした指先が触れたのは、冷えた背中だ。きれいな肌をさらして、少年がその手のひらで私の胸を下着ごと包む。


「うまくできなかったらごめん」


何をとは聞かなくてもわかる。何しろ10歳も離れているのだ。

少年はぎこちない動きで下着の背後にあるホックに両手を伸ばす。自然と密着した態勢になり、胸元に少年の生ぬるい息遣いをダイレクトに感じる。


「ごめん。嫌だったら言っていいから」


胸元がくつろいで、下着を上にずらした少年がその先端にそっと唇を寄せた。

何度かごめんと口にした少年は、とても歯がゆそうに一度歯を食いしばって目を伏せる。


「だめ」

「…嘘だね」


赤い舌先がちろりとそこを弾くように舐めとる光景に、思わず少年の肩口を引っかく。それでも少年は痛みに表情を歪めることなく、挑戦的な眼差しで私のスカートを簡単に捲りあげた。


「遊真!」

「触りたい」


なんて直截なんだろう。

私より小さなはずの体は、どんなに押してもびくともしない。年齢差があっても確かにこの体は男のものなのだということに、またここにきてようやく気づく。

そうこうしてる内にも少年はシャツを脱ぎ捨て、Tシャツをがばりと脱いだ。見た目より引き締まった体躯に、思わずこれから自分の身に起こることをまざまざと見せつけられた気がして、思わず喉がごくりと鳴った。


「遊真、なんで」

「…好きなんだよ。なまえはいつでもなまえのままで、俺に向き合う」

「……どういうこと?」

「俺は、人の嘘がわかるから」


素肌が寒々しいのに体の奥が熱い。

悲しげに歪んだ表情は、ともすれば今にも涙がこぼれそうにも見える。それがとても悲しくて、私は少年が言う『嘘がわかる』ということが感覚的なものではなく、確かに事実であったことを知る。


「遊真」

「うん」

「…抱きしめさせて」


この、私に大切なことを何も教えてくれない小さな体が、必死に何かを伝えようと、何かをつかもうとしている。そのさまに私の方がとうとう感極まって、私を組敷くその体を、返事を聞く前に抱きしめた。年なのかもしれない。

会って数回の少年に振り回されて、理由もわからず好きだと言われ、そしてこんな呆気なく組み敷かれて、それでも私はこの少年がこんなに愛おしくなってしまったのだ。


「…腰あげてくれ」


小さく頷いて腰を浮かせれば、少年はショーツをするりと脱がしにかかった。リビングのソファの周りに散乱した衣服と制服を脳裏に浮かべて、すごく背徳的だなと、場違いなことを漠然と思う。

背中に回した私の腕をそっと解いて膝立ちになった少年が、自らのボクサータイプのパンツを下ろす。

白い肌、白いふわふわの髪の毛、私をまっすぐに見つめる赤い瞳が、確かに揺れた。




よろしい、ならば 戦争






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