「すきなんです」

「…ありがとう」


なんて不毛な関係なんだろう。同じ屋敷で同じ生活をしていればそこに恋愛感情が生まれるのも頷けるってものだ。ただそれが少しだけ歪んだものであったために、その行為は生産性のないものにすり変わってしまった。


「バジルちゃん」

「…いい加減に"ちゃん"付けはやめていただけると有難いのですが、」

「例えば境界線が目に見えるものだったなら、私はこんな気持ちを抱かないで済んだのかな」

「…、」

「…なんて、バジルちゃんは沢田家の味方だもん、ね」

「……もしも境界線が目に見えるものであったなら、あなたの罪が明るみに出てしまう……だから拙者は境界線が目に見えなくてよかったと、…そう思います」

「…言っていることは優しいのに、バジルちゃんはやっぱり私を悪人にするのね」


彼女が買い揃えた日本製の湯呑み。陶器はじわりと温かく、彼女の剥き出しの肩に酷く不釣り合いだった。白いシーツにくるまってベッドの上に腰かけるその細い腕が微かに震えている。


「…そんなつもりでは、」

「いいの。そうだよね、私は妻子のある男性を誘った、最低な女だよ」

「そんなこと、」

「そんな女を慰めてくれるバジルちゃんも、同罪?」

「拙者は、…それでもかまいません」

「それでも私は親方様を愛しているの」

「…それでも拙者はあなたを愛しているのです」


白いベッド、彼女を押し倒すように口付ける。彼女は拙者とふれ合うとき、必ず目を開けている。
それは今目の前にいるのは他でもない拙者なのだと、その事実を見つめようとしているからなのだと、そんな彼女が愛しくてたまらない、


「拙者が…"親方様を好きなあなたが好きです"とそう言えたなら、あなたをこんなに傷つけることはないのに」


彼女がひたすらに、温かく拙者を包んでくれるから。






夜は融けて雫となる
しかしその雫はきっと、

形にはならないのだ







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