バタン、
夜の闇と静寂に一際大きく響いた音に、知らぬ間に船を漕いでいた体がはっと息を吹き返した。開け放したままの窓から容赦なく吹き込む風にぶるりと体を震わせて、もう一度バン、と低い音を聞く。
車のハッチバックをしめた音だろうと認識するや否や、出迎えようと背を向けた窓から静かな声が。
「…どこ行くんだぁ?」
「え、」
窓の横ではカーテンが揺らめいている。そんな当たり前の光景に異物が混ざる。
「…わざわざ窓から、」
「早くお前の顔が見たかった」
「……は」
「…これで満足かぁ?」
不遜な物言いで、更に物憂げな表情を浮かべて勝手にあたしの部屋へ足を踏み入れる。
「…何それ」
「…怒るなよ、本気だ」
ポンポン、とあたしの頭を優しく叩くように撫でて、スクアーロはジャケットを乱暴に脱ぎ捨てた。
「…それにしたって」
「んな嬉しそうに文句言っても説得力ないぜぇ」
溜め息を吐いてそのジャケットを拾うべく伸ばした手は、スクアーロの冷たい手に絡めとられてしまった。
絡めとられた手首を伝って、スクアーロの義手も温かさを知る。一度目配せをするようにあたしを見たスクアーロは目を細めて、絡めたあたしの手の甲に、唇を寄せる。
「な、なに…」
「仕事の後だからな、感覚が鋭くなっちまって正直、たまんねぇんだ」
「え…わ!」
ボスン!柔らかいベッドが悲鳴をあげる。スクアーロの指があたしの頬を撫でる。そのまま首筋を辿り、鎖骨まで滑ったところで唇が寄せられた。
「スク、スクアーロ、血のにおいが」
「…気になるかぁ?」
「そりゃあ…」
それよりもなんかいろいろ気にするところはあるのに、例えば開けたままの窓とか、かけられていない鍵とか、風に揺れるカーテンとか、それでもスクアーロは全く気にしていないし、あたしがそれを言ったところで何かが変わるとも思えない。
「…そろそろガキでも作っとくかぁ?」
「は?」
「……よっしゃ」
「ちょ、待って待って!もしかして今のがプロポーズのつもり?!」
「あ"ぁ?プロポーズは改めてしてやるよ」
至極簡単そうに、けれども真面目な顔で言い放ったスクアーロ。窓の外からは下っ端隊員がスクアーロを呼ぶ声がする。
薬指で心中
「指輪くれるの?」
「当たり前ぇだ。もう用意してあるぜぇ」