「あのね、単刀直入に言うけど」

「なに?」


引きずられるように入った先は、なんの変哲もないハンバーガーのチェーン店だった。

ざわざわと落ち着かない店内の、隅のテーブル席。ハンバーガーのセットを二つ挟んで向かい側に座る少年は、あまりにも堂々としている。


「私、ショタコンじゃないの」

「しょたこん?」

「えっと、少年を愛でるとか、なんか、そういう」

「...そうか」


そういう訳で私は堂々とできず、周囲の会話に耳をそばだてる。
私は社会人で、目の前の少年は小学生か中学生くらいに見える。
もし警察でも呼ばれたら、仮にこの少年が私を庇ってくれたとしても社会的に致命的だろう。


「いや、姉弟にでも、見えるか...?」

「おれは、見るつもりないけど」


しれっとそう言った少年が、また唇を尖らせてストローを齧る。紙コップのそこから、ずごご、と空気を吸う音がする。


「...えっと」

「でも、興味があるだけだよ」

「きょうみ」

「まだ」


まだ、まだ?まだってどういう意味だったっけ?

もそもそとバーガーの最後の一口を口に放り込んだ少年が、私のポテトに手を伸ばした。


「...わたしの」

「食べないならもらうよ」

「……」


頭がうまく回転してくれない。もともと頭の出来も回転も良くないのに、それでもそれなりに問題なく日常を送っていたのに。


「オサムが」

「おさむ?」

「そう、今日一緒に道聞いたやつ」

「ああ、あのメガネの」


思い浮かんだメガネの少年は、おさむという名前のようだ。目の前の少年が私のポテトを食べながら、なにやら思い出す仕草でうむうむと頷く。


「なまえのことが気になるって言ったら、何かあるのかって言うから、なんかわかんないけどまた会いたいって」

「そう言ったの」

「そう」


少年くらいの年代は、普通どんな女の子を好きになるのだろう。一緒にいた黒髪の、背の低いかわいらしいあの子じゃなくて、どうしてだろう。

でも、年上に惹かれる年代もあると聞いたことがある。この少年が、そうなのだろうか。


「そしたら、行ってこいよって」

「随分思い切った人ね」

「面倒見の鬼だから」


面倒見の鬼って、なんだろう。

そう聞きたかったけど、少年があまりにも優しく微笑むものだから、口を挟む気がそがれてしまった。
他にも会話をしたのかもしれない。そのうえで、少年は私に会いに来たのかもしれない。

だとしたら。だとしたら?


「...遊真、何歳?」

「15歳。なまえは?」

「25歳」


あまりにも普通に返されたその年齢に、随分幼い見た目なんだな、と漠然と思う。
けれど時々見せる真剣な眼差しが、自分が15の時よりも大人びているように思えた。


「...遊真の期待に添えるかわからないけど」

「うん?」

「どうぞよろしく」


周囲のざわめきが気にならないといえばウソになる。でも、まっすぐに見つめられることも、手をひかれることも、私に向けられる笑顔も、何故だかとても手放し難い。


「ふむ」


満足げに腕を組んだ遊真の唇のはしに、赤いケチャップがついている。
少年の様相で、大人びた雰囲気で、そのアンバランスさに、思わず口元がゆるむ。


「遊真、ケチャップついてる」

「とって」


ごく自然に、少年が私の方へ身を乗り出した。手にとったペーパーナプキンを私に押し付けるという周到さで、逃げ道を奪うように。

もう少し近づいても、もう少し話をしても、もう少しだけ一緒にいてもいいだろうか、と過ぎったのは嘘ではないけど、さすがにここで、こんな展開は望んでいない。


「...キスしてもいいよ」

「しないよ!」

「なんだ、残念」


少年が席に背中を押し付けて自分で唇の横を拭く姿に、私は10歳も下の少年相手に自分の顔が熱くなっていることに、ようやく気づいてしまった。そして、少年の軽はずみな挑発に、頭を抱えるばかりである。



よろしい、ならば 挑発







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