「陽太郎くんは?」


乱雑な室内をぐるりと見回して、背中の方でコーヒーを淹れる林藤さんに声を掛けた。

今朝方突然舞い込んだお誘いに舞い上がって、意気揚々と準備して息を弾ませ向かった先の、この玉狛支部の一室。


「今日は桐絵と宇佐美んとこ」

「二人とも泊まり?」

「そう。だから静かにね」


振り向いた先でニヤニヤと笑いながら、マグカップを二つ持ってきたこの眼鏡のおっさんの脛を、一発蹴りたい気持ちになる。


「……下品」

「まあまあ」


陽太郎くんを邪険にしたいわけでなく、むしろ仲良くなれたらいいなとは思うけど、林藤さんはいつも陽太郎くんがいない隙を見計らうように私を呼ぶ。

林藤さんは自分の中のボーダーラインを持っていて、私をそのラインの内側に入れるつもりはないんだろう。きっとそのラインの向こう側は、家族という名前がついている。


「玉狛は、いつも通り?」

「おー。本部は...忙しそうだな」


成人し、トリオンの成長が止まってから私は本部勤務を余儀なくされた。年3回、若くて能力の成長著しい若者たちがボーダーへやってくるのだから、それは当然のことだった。


「...前線に、戻りたいな」


林藤さんが二つのマグカップをテーブルの上に置き、見計らったように私がそう言うと、林藤さんはタバコをくわえて困ったように、私の頭に大きな手のひらをポンと乗せて、微笑んだ。


*


「...っん、」

「声、我慢しろよー」


広い背中に腕を回して、口元を林藤さんの肩口に押し付けてどうにか耐えようとするが、それを面白がるように林藤さんの親指が陰核をやさしく押し潰す。

根元まで穿たれた下半身に息苦しさを感じて、どうにか中心でじくじくと痛む快楽を逃そうとするけど、林藤さんはそうさせてはくれない。


「顔見せて」

「いや、むり...っ、」


小刻みに揺れる林藤さんの下半身に、粘着質な水音が続く。めいっぱいの力を込めてきゅうきゅうと締め付けているにもかかわらず、林藤さんの声は嬉しそうに弾んで、そしていまなお陰核を弄ぶ指先の、その余裕っぷりにいらだちを感じる。


「なんで、っ林藤さん、気持ちよくないの」

「ん?気持ちいいよ?」

「ぜったい、うそよ...だって、よゆっ」


ひときわ大きく視界が揺れて、子宮の奥が甘く滲むように痛んだ。林藤さんによってもたらされた痛みというよりは、単に私が欲情しているために感じた痛みだ。


「余裕に、見えるくらいには、大人だからね」


それでも徐々に熱をおびて切れ切れになっていく息遣いと、私の頬に触れる手のひらの熱さが嬉しい。


「林藤さん、林藤さ、」

「うん、もう、イくか」


タバコの味の苦い舌が口内に差し込まれて、好き勝手に蹂躙される。飲みきれない唾液がだらしなく口角からこぼれて、激しく揺さぶられるまま唇を噛んだ。


「ん、うっ……っ!」

「っ、……は、あ」


*


「陽太郎くん、もう、寝たかな」


酸欠のせいかぼんやりとする頭と、まだ何かを期待しているのかじわじわとした感覚に支配される下半身を引きずりながら、下着を身につけて寝間着がわりの服を身に付ける。

林藤さんは上半身を晒して、タバコを一本吸い終えたところで、ふと扉を見やってほんの少し驚いたようにこちらをちらっと見た。


「、ああ、いや、」


歯切れの悪い返事に首をかしげたら、扉の下の方から控えめなノックが聞こえた。


「どうした、陽太郎」


まるでわかりきっていたかのように扉をあけた林藤さんが、大きな枕を抱え横に雷神丸を従えた陽太郎くんに笑いかけた。


「きょう、なまえちゃんがくるって」


眠そうにまぶたを瞬かせ、よたよたと室内に入ってくる陽太郎くん。林藤さんはそれを咎めるでなく、ただ優しく招き入れた。


「なまえちゃんと、ねる」

「おー、おいで」


林藤さんが簡単にそう投げかけたら、陽太郎くんはおぼつかない足取りで真っ直ぐにこちらへ歩いてくる。

陽太郎くんがベッドに上がりたそうに手をついて、足をばたつかせた。思わずその両脇に腕を差し入れて抱きかかえ、ベッドの上に乗せたらば、陽太郎くんは私の胸元に抱きついて額を押し付けた。


「...さみしかったのかな」

「陽太郎、なまえのこと好きだからな」

「...そうなの?」


胸元で、小さな頭がこくんと頷く。


「そうなの...そっか、」


その小さな頭を抱いて、ふわふわの髪の毛に唇を埋めた。陽太郎くんがくすぐったそうに身じろぎして、ベッドの反対側に腰掛けた林藤さんの方に顔を向ける。


「きょうは、さんにんでねるぞ」

「うん、...そうだね、みんなで一緒に寝よう」


柔らかい、あたたかい。

さっきまでとは打って変わって穏やかなベッド。陽太郎くんには心の底から申し訳なくなる。

それでも家族と言う名のボーダーラインの内側に、図らずも陽太郎くんから招かれたような気持ちになって、途端に心が満たされる。

陽太郎くん越しに目が合った林藤さんは、ほんの少し困った顔で、「前線にいられちゃ困るんだよ」と、そう言ってわらった。

すぐに聞こえてきた寝息、小さな指先は私のシャツの胸元を握っている。




愛の散らかし






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