「……変なひとだね」
その日、見ず知らずの少年に不思議な笑い方でバカにされた。
一体なんだと言うのか。私はただ、少年たちに道を聞かれ、道案内をしただけなのに。純粋な親切心からの行動だったのに。それなのに別れ際、きれいな白い髪の毛の少年は、私に変な人だと言い放ったのだ。
*
「そして何故きみがここにいるの」
「きょうみがあったから」
簡潔な返事だった。簡潔過ぎるほど簡潔だった。
ここは会社の正面玄関の前で、そして時刻は20時を過ぎたところ。
そういえば道案内した時に、なんの仕事をしてるのかと聞かれ、なんの気なしに勤める会社名と業務内容を答えた気がする。
「ああ、そう……?」
簡潔ではあったけど些か反応に困る。小学生か中学生の、社会人に対する興味と言うには、少し雰囲気が違うように思った。
「帰るのか」
「うん、そう、」
当たり前のようにタメ口で、なんだか掴みどころのない空気をまとった少年がじっと私を見ている。
「そんなに、じっと見なくても」
少年に見つめられて喜ぶ趣味はない。そして一日の仕事を終えた私は、まっすぐな視線に耐えられる顔をしていない。
よれたファンデーション、消えかかった眉尻、テカテカした鼻先、荒れた唇。どれをとってもバッドコンディションである。
「迷惑だったか」
「ん?いや、別に」
「……変なやつ」
嬉しそうに弧を描いた口もと。少年はなぜだか私の手を取って、自分の指先を絡ませた。
一体全体、何だというのだろう。私に何が起こっているのだろう。
「おれは、遊真」
「ゆうま」
どういう字を書くのだろう。図らずも手を繋いだまま、反射的に復唱した。
名字を告げないのは、何か理由があるのだろうか。
「私はなまえ」
「そうか、なまえか」
なんだか素敵な笑顔を浮かべた遊真くんは、握った私の右手に力を込めて、そして親指で指先を撫で、足を踏み出す。
「腹へったな」
「……うん、はい、そう、ね?」
何故少年は私の手を握って、名を名乗ったのだろうか。いや、それ以前に何故ただ道案内をしただけの女の勤め先にわざわざ出向いたのだろうか。
「ねえ、遊真くん」
「呼び捨てでいいよ」
「...遊真、なんでここまで来たの」
遊真が口を尖らせて、私から視線をそらした。
私の手を握ったまま歩く。どこへ向かうのかもわからずに、ただ着いていく姿は傍からみたら犯罪にも見えないだろうか。
「興味があったからって言ったじゃん」
「...なんで?」
「……いっこも、ウソがなかった」
どういうことだろう。
首をかしげたけれど、なんだか久しぶりに他人に握られた手が温かくて、不思議と振り払う気持ちにもならない。
「嘘?」
「……ハンバーガー食べよう」
逸らされた顔の、僅かに覗いた耳が赤い。
「あれ、あの、えっと」
「腹へってないの?」
「空いてる、え、でも、」
訝しげにこっちを振り返ったこの少年は、一体わたしをどうしようというのだろうか。
よろしい、ならば 邂逅 だ