真選組屯所は、今日に限って平和だ。
普段ならそれでもなんだかんだと仕事はあるし、雑用だって溜まっているのに。
縁側に腰掛けて大きく息を吸った。目の前では女中さんが洗濯物を干している。
「平和だ」
しゃんと伸びた背中の女中さんが、薄く笑ってこちらを振り向いた。
「たまにはいいんじゃないですか。皆さん、なんやかんやと働きすぎなんですよ」
「そうでしょうかね」
思わず苦笑いが漏れた。
普段、なんやかんやと忙しいらしい我らが真選組局長は、今日もお妙さんという女性を追いかけているようだ。
「局長は、暇だと思うよ」
「皆さんが優秀だから、ついついフラフラしてしまうんでしょうねえ」
女中さんは流石年の功とでも言わんばかりの柔らかい声で、あのゴリラ風情ですら愛おしい我が子のように話す。
でも、きっとそろそろ泣きながら、ボロボロになって帰ってくるんだろう。
「そんなもんですかね」
「しょうもないけど、そんなものですよ」
でも、私はその項垂れた姿が、一番好きだ。
「好きな人が傷ついてるのが、好きなのかもしれないな」
「弱みに付け込むなんて器用なまね、 なまえさんには難しいと思いますけどね 」
「傷つける人がいるなら、癒す人も必要でしょ」
「…それでいいのかよ」
不意に、いつの間にか隣に立っていた土方さんが心底信じられないという表情で私を見やった。
いつからいたのだろう。
女中さんはいいおばちゃんだけれど、いい男を前に割烹着を整えて落ちた髪の毛をさっと撫で付けるあたり、まだまだ女を捨ててはいない。
「手当てをするのは私ですから」
よりにもよってこんな日に、わざわざ殴られ、蹴られ、散々な目にあって泣きながら帰ってくるなんて。
「今日はホワイトデーなのにな」
もっと傷ついて帰っておいで。そうしたら私は、きっとあなたに優しくできる。
沈殿した青空