コンコン、と控え目なノックの音が室内に響く。ベッドに突っ伏して携帯いじったり漫画読んだりと久々の休日を謳歌していたあたしは、習慣のように一度肩を震わせてから立ち上がる。

さすがに一人遊びにも飽きてきたところだ。遊んでもらおう。…まさか仕事じゃないよな。

扉の前で逡巡していれば、向こう側から声が聞こえた。


「う゛お"ぉい、開けろぉ」

「…スクアーロ?」


自分で開ければいいのに、と思いながらドアノブを回す。ガチャリと音がして、扉の向こうにはケーキとティーポットが乗ったトレイを持つスクアーロ。…どんな風の吹き回し?


「え、どうしたの」

「ケーキ好きだろぉ」

「うん、好きだけど、あれ?」

「……誕生日」

「………あぁ!」


カレンダーを確認すれば今日は確かにあたしの誕生日。スクアーロはそれを覚えててくれただけじゃなくて、ケーキまで用意してくれたらしい。


「わ!ありがとう…スクアーロ好き!」

「…俺もだぜぇ」


………一瞬の沈黙。あれ?こいつ今なんて言った?あたしの言った「好き」には冗談程度の気持ちしか込められていないのに、目の前のスクアーロの表情は至って真剣。…あれ?ドッキリ?


「………」

「何か言えぇ」

「え、あぁ…ありがとう、?」

「…おう」


さっきまで休日を体現した怠惰な空気が流れていたはずの室内に微妙な空気が流れる。


「…入る?」

「…おぅ」


ありがとう嬉しいわと笑えるような親密な間柄でなく、かと言ってスクアーロってば何言ってんのと笑い飛ばせるような関係でもない。…この部屋の空気と同じく、現在なんだか微妙な関係の二人だったりするわけだ。

とりあえずソファに並んで座る。そしておもむろにケーキを食べる。


「…うめぇかぁ?」

「…うん」

「…そりゃよかった」


普段なら騒がしくてもおかしくないこの男がいちいち言葉を選んでいる。珍しいと思うと同時、微妙な関係の終わりが見える。


「……あのさ、スクアーロ」

「…おう」

「…ケーキ、口の横についてる」

「………」


あたしが口を開けばスクアーロは一瞬ビクリと肩を揺らして、伺うようにこっちを見る。


「…どうしたの」

「…いや、まぁ、そうだよなぁ」

「…は?」

「……プレゼント、欲しい、かぁ?」

「…まぁ…くれるなら…」


そわそわそわそわ。どうしたんだスクアーロ。泣く子も黙る作戦隊長が挙動不審だ。そしてあたしはドキドキドキドキ。心臓がうるさい。こ、これはとうとうきたのか!これで指輪渡されて告白でもされたらあたし舞い上がってしまうよ!


ガバリ、スクアーロが上着を脱いだ。あつかったの…か…な………


そこにいたのは、リボンを巻いたスクアーロだった。


「プププレゼント、だ!」





恋愛崩壊




「……どうしちゃったの…」

「…………」


まぁある意味忘れられない誕生日になったわけだけど。ベッドの上に転がった漫画が風に吹かれてページをめくった。




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