口を開けば溜め息ばかり。週の頭が一番辛い。元より土日だって完全な休日とはいえないのだから、体内では休日という概念が欠如しているのではないだろうか。
…そんなことを考えながら自宅に入った。自宅、とは言っても同居人がいる為入ってすぐに服やらバッグやらをボロボロ脱ぎ散らかす訳にはいかない。
「あ、おかえり」
電気の点いたままのリビング。その扉を開けたらダイニングテーブルに肘をついている千種があたしに向かって声を掛けた。珍しい。
「…ただいま。どうしたの?」
時計を見れば時間は深夜2時過ぎ。千種はいつもなら寝てる時間だ。
千種はそんなあたしの意図を正確に把握したらしく、ソファを指差した。
ソファの上では今にも床に落ちそうな態勢で眠る犬の姿。
「…犬が、あんたが帰ってくるまで起きてるって聞かないから」
まるで小さい子だ。もう中学生でも高校生でもないというのに。犬は口をあけてなんとも呑気な寝姿を晒している。
「…犬、帰って来たよ」
千種が犬の元に近寄り、その体を揺さぶる。犬は眉間に皺を寄せて応える。
「…んあ、おかえりびょん」
「ただいま」
ソファの上でゆっくりと起き上がる犬。それを確認した千種が大きな欠伸をひとつ。そして「じゃあ俺、寝るから」とリビングを出て行った。
…かわいそうに。きっと犬にせがまれて仕方なく犬を起こすという役にさせられてしまったのだろう。クロームちゃんは寝ているようだ。以前「女の子に睡眠不足は大敵!」と怒ったのを覚えているのだろうか。
「…きょう、遅かったんら」
「うん。ごめんね」
「…あやまんなくていーびょん」
まだ半分寝ている状態らしい犬が、ソファからあたしに手を伸ばす。あぁ、今日は甘えたい日なのか。
バッグをテーブルの上においてソファに近寄る。犬はあたしの腰辺りに腕を回して、額を押しつけた。
「…先に寝ててよかったのに」
「…お前がいねーと寝れないびょん」
ぎゅう、と強くなった腕の力に気の抜けていたあたしは一瞬ぐえ、と声をあげたけど、犬の力は弱まらない。
「…どうしたの、淋しかった?」
頭を撫でてみたら、彼にしては驚くほど素直に頷く。
「…朝起きたらお前がいないんら」
「あぁ…仕事だから…。それに犬ってば寝坊するでしょ」
「らって、」
…これでは本当に小さい子供だ。それでもすっかり冷たくなった体と、冷たく微かに湿った髪の毛から感じるのは純粋な気持ち。
「ごめんね、今日は一緒に寝よっか」
「…その前に一緒に風呂入るびょん」
「はいはい」
灯ともる心
まるでトランキライザー
「今日はぎゅってして寝るんら」
「はいはい」