「どうしろって言うのよ!」


静かな部屋に響いた、甲高い文句。それを隣で聞いた鏑木はがっくりとうなだれて耳をふさぐ動作をした。それがますます彼女の不興を買う。


「なんで虎徹さんはそんなに普通にしてるの!」

「…いや、まあ、なあ…」


二人が押し込められた先はどうということはないとあるホテルの一室。ただ、ミニテーブルの上に整然と並べられたカタログには男性器を象った玩具やローション、ひいては手錠や猿ぐつわなどのラインナップが並ぶ。
ふかふかのベッドの枕元に置かれた小さな金属製のトレイの上では、いくつかの避妊具が待機している。

そう、ここはどうということはない、ただの、普通の、ラブホテルであった。


「虎徹さん!」

「いや、悪ぃ、俺が頼んだ」

「何のために?!」

「わかるだろ?なまえを抱きたかったんだよ」


激昂していた彼女が口をつぐむ。そして瞬間的に赤らんだ耳に、鏑木は手を伸ばす。
いささか卑怯な手だとは理解していたが、それでも尚彼が求めたのは、彼女と超える一線であった。


「虎徹さん、私を馬鹿にしてる?」

「してねえって」

「だって、こんな」


彼女は何度か、何度も外へ出るための唯一の通路を塞ぐ扉のノブを回した。しかしいくら押そうが引こうが扉が開くことはなく、彼女と鏑木とは扉のすぐ目の前で立ちすくんでいるのだ。

室内を見ずともこの部屋の目的を知る鏑木と、確認のためにと室内をぐるりと回ってようやくこの部屋の意味を知った彼女。

次いで、鏑木の次の動作は早かった。


「っきゃ!」

「なまえ、」


一向に扉の前から動こうとしない彼女を背後から扉に押さえつけたのだ。
鏑木と彼女は交際していない。ただし、恋愛関係にはある。彼女は鏑木から向けられる好意に、自らもまた鏑木に好意を持ちつつ受け入れることができずにいた。
その理由は例えば鏑木の左手薬指に輝く指輪であったり、目に入れても痛くないほどに可愛がる大切な娘の存在であったり、だ。ただ彼女がそれらを邪魔に思ったことはない。彼女の心を締め付けるのは、言いようのない背徳感だけである。


「虎徹さ…」


背後から彼女の柔らかな肢体を押し付けた鏑木は、その両手首を左手でまとめて拘束した。ワンピースの背中に揺れるファスナーを摘んだ右手の人差し指と親指が、それを一気に下げる。


「なまえ、愛してんだ」

「…だっ、て」


まとめた腕の下から差し込んだ手のひらで、彼女の乳房を包み込む。ふにゃりとかたちを変えるそれと、人差し指と中指の間に挟み込んだ乳首がみるみる固くなっていくのを楽しむように、少しずつ込める力を加えていく。


「…ん、ぅ」

「なあ、声聞かせてくれよ。…我慢しねえで…な?」


彼女のうなじにキスを落とし、耳の裏で囁く。肩が震えて、鏑木が乳首をきゅうと抓ればついさっきまで悪態を吐いてばかりいた唇から悲鳴にも似た声が上がった。
しかしそこに混じる確かな色に、鏑木の股間は膨れるばかりだ。


「だって、なんで、」

「違えんだ。…別物で、友恵とは別で、なまえを愛してる」


耳裏で囁き、耳たぶを唇で食む。舌先がピアスの周囲を舐め、指先は乳首を摘み、こね、引っ張り、引っかき、その度に彼女は素直な反応で鏑木の興奮を煽っていく。
頭上でまとめられた手首、指先が扉を引っかいて、それが合図だったかのように鏑木は乳房から下半身へと手を伸ばした。


「虎徹っさ、んっあ!」

「…良い声だな」


耳たぶを舐めながら囁けば、ダイレクトに彼女の鼓膜に響く低音。ショーツから手を差し入れて直接なぞった亀裂は既にとろとろに溶け、それを知られた彼女はもう口ばかりの拒否も否定もできない所まで追い詰められた。


「なまえは」

「も、こんなの…やだあ…っ」

「中とクリトリス、どっちが好きだ?」

「っや、あっ!」


親指の付け根で陰核を覆われ、ぐりぐりと押しつぶされる。彼女は首をそらして高い悲鳴を上げる。人差し指と中指とを亀裂に押し込んだ鏑木は、耳たぶを噛んで熱い息を吐いた。


「ほら、わかんだろ?…潰す度に、中が締まる」

「やっあ、…ん…っう」


じゅぷじゅぷと淫猥な音が彼女の体の芯を溶かしていく。時々その親指が陰核をわざと掠り、彼女はだらしなくも口の端から唾液を垂らしてあえぐ他ない。


「なまえ、なあ、頼むから」

「う、う……あ…」


彼女のそれとは全く違う、男の太い指。それが二本、彼女の中を手加減なしに蹂躙し続けた。鏑木の指を伝って、中から溢れる熱い液体が床にほたりほたりと落ちていく。


「俺のことが好きだって、そう言ってくれよ…」


ワンピースを腰まで捲り上げた鏑木は、ぐしゃぐしゃになったショーツを膝まで下ろし、そして自らの膨らむ股間を一度撫でた。
吐く息は自分でも驚くほどに熱く湿り気を帯びている。


「こ、て、」


チャックがおろされる音。彼女が不安げにちらと背後に視線をやったなら。


「…どうして、虎徹さんがそんな、顔、してるんですか……」

「…どんな顔だかわかんねえなあ」

「だって、そんな、つらそうな、う、ああっ!!」


彼女が言い終わらない内に、鏑木は高ぶったペニスを彼女の中へ押し入れた。叩きつけるように最奥へ押し込んだそこからは、指とはまた違う粘着質な音がする。


「は、あ…っ」

「ひゃ、ん…っ!あ、あ、う…!」


勢いを落とすことなく、鏑木はもうただ一心不乱に腰を前後に振り、回す。
じゅっじゅっ、耳をふさぎたくなるほどに卑猥な水音。彼女の内股をしっとりと流れるのは、彼女の体液かそれとも鏑木の体液か。わからないのは、それが混ざり合っているからか。


「なまえ、キス、してえからこっちに顔向けて」


彼女の口から次々に放り投げられる涙混じりの嬌声と、顎に伝う唾液。
鏑木は言葉を諦めた。そして実質、それを彼女から自分への返事にするつもりに切り替えたのだ。
彼女もそんなことにも気づかないような、バカな女ではない。


「ん、ふっ、う…あ、…あっ」


絶頂が近いのか、益々鏑木のペニスを締め付ける彼女。鏑木の指先は再度彼女の陰核へと伸び、丸めるように撫でる。


「なまえ…っ」


鏑木が彼女の首筋に額を押し付け、悲痛な声色で呼ぶ。視線で見上げれば、涙でぐしゃぐしゃの彼女の瞳と目が合った。
鏑木は泣きたいような気持ちで、彼女の唇を舐める。そして唇を重ね、とうとう繋がった唇の中で彼女のくぐもった悲鳴と鏑木の低い唸りが混ざって脳を揺さぶった。


「う、…っこてつさん、の、ばか…」

「、…は、あっ」


彼女の中に吐き出した白濁が、ベニスを抜くことでとろりと彼女の内股を汚す。肩で息をしながら、ずるりと床にへたりこむ彼女を鏑木はすんでのところで抱き留めた。


「、汚れっから…」

「ばか、!」

「愛してる」

「…ばか…愛してるに決まってる………っ!」


彼女を抱きかかえた鏑木。その表情は柔らかく、そして足が向けた先はバスルームではなくベッドルーム。彼女の体が強張った。


「…なあなまえ、話をしよう。これまでのことと、これからのことを」


この行為に込められた重大な意味。彼女がぐしゃぐしゃの顔を歪めて、鏑木の胸に額を押し付ける。


「は、い」


その汗ばんだ肩を撫で、鏑木は彼女の頭にキスを落とした。



レッド・ゾーン



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