女は床に正座する。男はソファで足を組む。
ちらと男の表情を伺った女は、ふだんちゃらけているその男の眉間に刻まれた深い皺と自分を視線だけで見下す鋭い視線に肩を震わせ、そして所在なく視線を泳がせた。


「…なまえ」

「はっはい」

「自分が何したかわかってるよな、ん?」


いや、何をしたかって言うより人として当然の…

女の表情が泣きそうに歪む。文句の一つでも言ってやりたいのに、女にはできなかった。代わりに揃えた膝の上で握る拳に力を込める。


「…まさかお前がバニーとなあ」

「いや、あの、誤解、で」

「まさか浮気するような女だと思わなかったぜ」

「…あの、本当に、ちが」


震える体にうなだれた首。見る見るうちに水の膜が張る女の瞳。
女はどうにか怒りを鎮めてもらいたい、冷静になって、話を聞いてほしい、と考えていた。けれど男は最初から、女に対して有無を言わさぬ空気を纏っているだけ。


「なまえ」

「は、い」

「脱げ」

「は、い?」


大きな大きなため息と共に女の耳に飛び込んだ、低く掠れた、そして少しの疲れを滲ませた声色。
その時になってようやく、女は理解した。男は怒っているのではない、傷ついているのだということを。


「…かぶらぎ、さん」

「息が止まるかと思った」


女はハッとする。男があまりにも寂しそうに切なそうに眉尻を下げたものだから、とうとう女の目尻からなみだがこぼれてしまった。


「鏑木さん、」

「証明してくれよ。なまえが、バニーのことが誤解っつーなら、それを俺に証明してくれ」


証明って

女がこぼれていくなみだをそのままに男に指先を伸ばす。男はその指先を捕らえ、そして女の指先を口に含んだ。


「…バーナビーさんはね、この前会社で迷子になってる時に案内してくれたの。それで、お礼に食事に行っただけなんだよ。だって、私がいちばん好きなのは鏑木さんだけなんだよ」


ぐずぐずに泣きながら、女は膝立ちで指先を舌で丹念に愛撫されながら伝える。男は、時折女の唇から漏れる小さな吐息まじりの嬌声やぴくんと揺れる肩に、もう一度大きくため息を吐いた。


「…証明してくれ」


二人の視線がまじわる。女は意を決したように腰を上げ、男の股間に唇を寄せた。右手の指先を捕らえられたままの体勢で、左手と唇だけでベルトをはずしボタンを弾きチャックを下ろす。
スラックスをくつろげた瞬間に女の鼻孔を刺激した、むわりとした雄の匂い。女は一度ぎゅっと唇をしめて、そしてゆっくりと口を開いて、薄い布越しのペニスに舌を這わせた。


「なあ、なまえがこんなことすんのは、俺だけだよなあ」

「う、ん」


女の唾液をたっぷりと含んだ口と舌がそれをなでる度に、布越しでも形がありありとわかるほど膨らんで、固くなっていく。「くわえて」男の熱っぽい要望に、女は素直に従った。左手でパンツをよけて、赤黒く張り詰め、先走りと唾液とでてらてらと濡れるペニスを直接舐めとる。
唇と鼻先でくしゃりとつぶれる陰毛にまじる、性の匂い。
舌の上でペニスの裏側を舐め、舌先で鈴口を抉るようにつつく。右手ではペニスの根元で膨張した袋を撫で、揉み、ようやっと口内へ招いたペニスのつるりとした亀頭を上顎のざらつきにこすり当てれば、男の腰がびくりと跳ねた。


「…っ、なまえ、なあ」

「ん、う」

「全部、俺だけだろ…?」

「ふ、う…」

男のペニスをしゃぶりながら、首を縦に振る女。その頭を男は撫で、そして女に対してはまだ前戯もしていないのに、男は唾液でふやけた右手を解放して口を開いた。


「…乗って」

「…え、でも」

「中に出させてくれ」


唇を離し手のひらで握る男のペニスは今にもはじけそうなほどに張り詰め、射精を耐えるように力をいれた腹筋はうすら割れて汗が滲む。


「で、も」

「…じゃあ、終わりにすっか」


まさか!

女が勢いよく顔を上げて、男の見下ろし視線を捉えた。中断してしまえば男も、男の方が辛いだろうに。男はそんな女の心情を理解してか、力を込めた腹筋のままにいたずらな、挑発的な笑みを浮かべた。


「おじさんなんてモンはさあ、風呂で抜くのも便所で抜くのも、抵抗はねえんだよ」


下半身を晒した男に、着衣に乱れのない女。辛いはずにも関わらずあくまで飄々とうそぶく男の膝の上、女が唇を噛んで跨った。


「…ぬがせて」


小さな懇願。
男はようやく少し笑って、女のスカートに手を伸ばす。



点滅するイエロー



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