暑い。既に残暑だと言うのに、日中外に出れば背筋をつうと汗が伝う。恨めしく目を細めて、苦々しく空を仰げば絵に描いたような晴天。
ゆっくりとウィンドウ・ショッピングでもしよう、と意気込んでいた心を軽く粉砕することすら容易な気温に小さく舌を打って真っ直ぐに自宅へ帰ることにした。


「ただいま」

「おかえり、すっげえ汗だな」

「うわあん…クーラー涼しい…」


汗で色が変わったシャツもそのままに、ソファに身体を投げ出す。一目惚れして買ってしまった下着ブランドのショップバックが音を立てて床に落ちた。


「濡れたまんまのシャツだと風邪ひくぞー」

「もうちょっとだけー」

「ったく、しょうがねえなあ」


少し長い髪の後ろ頭を手でがしがしと掻きながら、虎徹さんがのたりのたりとバスルームへ向かう。開けたままのバスルームの扉の中からは、お湯を溜めるがする。


「ほれ」

「…ん、なあに?」

「風邪ひくっつってんだろ。…脱がしてやっから体起こせ」
「やあだ、虎徹さんのえっち」

「もう一度言ったら本当にえっちなことしちゃうぞー」


投げ出した体の背に手のひらを差し入れた虎徹さんが、片腕で私の上半身を起こした。
もう片方の手に持った大きなバスタオルを私の肩から掛けて、指先が器用にシャツのボタンを弾いていく。


「…っくしゅ!」

「だーから言ったろ?ほら、腕抜け」

「…えー」


ボタンを全て外した虎徹さんが、さっさとシャツを脱げと私に指示する。思い切り嫌な顔をしてみせたけど、虎徹さんは気にならないようで小さな子供の着替えを手伝うように私の腕を取ってシャツを脱がし始めた。


「つーかなまえ、お前なあ…青い下着に白いシャツ一枚はやめとけって、透けるだろうがよ」

「…あんまり気にしてなかった」

「頼むから気にしてくれ」


よっと、と虎徹さんの掛け声と同時に抱きしめられるような体勢になる。
私の両脇から腕を回す虎徹さんの首筋の髪の毛が鼻を掠めて、思わずすんと鼻を鳴らした。
私の背中で、ブラジャーのホックをはずす虎徹さん。なすがままになって、そのがっしりした肩口に額を押し付ける。


「虎徹さんはあんま汗かいてないね」

「…おー、今日は部屋から出てねえからな」


ぷつん、と小さな音がすると同時に胸元が解放される。少し私から距離をとった虎徹さんが、ゆっくりとブラジャーの肩ひもをずらす。腕の付け根までずらせば、それは簡単にするりと落ちた。


「…虎徹さん」

「んー」

「見すぎだよ」

「しゃーねーだろ。見ねえ方が失礼ってもんだ」


乳房の谷間に滲む汗を、乱暴に肩から掛かるバスタオルで拭ってくれた虎徹さんが、いたずらな表情で私の顔を覗き込んだ。

そして左手の人差し指、その爪が私の左の乳房の頂を捕らえる。


「…っん」

「ふ、かーわいー」


破顔して、私の腕を引っ張る虎徹さん。次は立ち上がらせた私のジーンズに手を掛ける。
クーラーの効いた室内でバスタオル一枚。まだ汗も引いていない中で鳥肌が立つ。
虎徹さんはジーンズのボタンをはずしてチャックを下ろし、両端を持って一気に足元まで下げた。


「ねえ、虎徹さん」

「風呂ならもうすぐ溜まるぞ」

「ねえ、わたし、自分で脱ぐ…」

「させねえよ」


片足ずつ持ち上げてジーンズを脱がし、床に膝をついた状態でレースをあしらったショーツにかけられた、日焼けした無骨な指先。
ちりちりと鳥肌が酷くなっていくのは、冷房のせいだけじゃない。


「こ、虎徹さん」

「んー?」


ゆっくり、ゆっくりショーツを下ろす指先。のぞき始めた陰毛に虎徹さんが唇を舐めたのがわかる。
思わず目を背けたら、ショーツを膝まで下げたその指先が内股をなぞって上がってきた。


「…っや!」

「…濡らしてるくせに」


じくりと背筋から頭のてっぺんに走った痺れに恐る恐る下に目線だけやれば、挑むような表情で笑う虎徹さんと、私の股に指先を這わせる淫猥な光景が視界に入った。


「あっ!?」

「あーすげえ、な。きゅうきゅうんなっちまってよお…」


ちゅくっと小さく鳴いたかと思えばいきなり差し込まれた指先。肩のタオルを握りしめて、ぎゅうと目を閉じてじりじりと体を上ってくる快感をどうにか逃がそうとする。指先は出し入れをしない代わりに、中で曲げられて回されて引っ掻いて、足が震える。


「…ふ、んんっ」

「続きは、風呂でな」


私の腰骨あたりに柔らかい唇の感触。目を開けたら軽々とお姫様抱っこされて、向かう先はバスルーム。

ばらばらに好き勝手脱がされた服を見て、ほとんど溶けた頭で思う。

…なんでこうなったんだろう。



ロイヤル・ブルー



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