「僕はね、貴女の世界が欲しいのですよ」

「…?」


久々に私を簡単に飲み込んだ浅い夢の瀬。その淵で聞こえたのは恋い焦がれ懐かしい声だった。


「貴女は変わらない」

「骸も、変わらないわ」

「クフフ…褒め言葉ととっておきましょう」


一面の緑の絨毯。夢が浅いからかそれとも夢だからか、理由はわからないけれど空気は感じられない。もしかしたらこれは私が願う余り呼び起こした幻影に過ぎないのかもしれない。


「そうね、…褒め言葉よ」

「おや、珍しい」


走ればすぐに抱き締められる位置にいるというのに、私は走り出すことを躊躇う。その自信ありような姿は何一つ変わらないというのに。


「むく」

「訂正しましょう。貴女は、変わってしまった」


話題をどうにか明るいものにすり替えようとしたその呼び掛けた名前は、低い声に一瞬でかき消された。


「…変わってないわ」

「いいえ、変わりましたよ」


私の頬は、指は、足は風を感じないのに視界で捉える世界の木々は葉を揺らし、骸の髪を靡かせる。


「…どうして、そう思うの?」

「以前までの貴女なら、僕を抱き締めた」


骸は靡く髪をうっとおしそうに手で掻き上げたけれど、私の髪は靡かない。まるで私だけこの世界に存在していないかのよう。


「…骸は、今どこから私を見ているの?」

「あぁ…だから僕は言っているんです」

「何、を?」

「僕は、貴女の世界が欲しい」


一番最初に言われたセリフをもう一度ゆっくり、小さな子供に言い聞かせるようにして言う。


「私の、世界?」


柔らかく破顔した骸。その優しい表情は以前と何も変わらない。何も変わらない。


「僕は、貴女と同じものを見て同じものを聞き、同じものを香り、同じ場所を歩きたい」


骸は私を真直ぐ見つめる。ぼんやりと滲む視界は、夢から覚めよと告げる声かそれとも私の涙だったのか。


白いベッドに埋もれたあたしを見つめる3人の表情があまりにも心配そうな表情をしていたから、私は思わず吹き出してしまった。






浅き夢魅し
変わらないものを探しています




「…夢で、骸に会った気がするわ」





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