「もがなちゃん、新しい水着いらない?」

「……遠慮しておきます。なまえさんのオススメ水着ってなんか怖いので…」


僕はその日、屋上でそんな会話を聞いた。そのやりとりは僕の心に雷を落とし、そして僕はこの会話を最後まで聞こう、と固く心に誓った。


「タダであげるよ」

「…っ!一応、最後まで聞いてあげますけど!」

「えーと、まず色はピンクです」


ピンク!桃色!
僕はどうしようもない胸の高鳴りを感じていた。ピンクの水着なんて僕は写真集やテレビでしか見たことがない!ありったけの知識を総動員してピンクの水着を思い浮かべる。昨日見たAVは白だった。


「ピンク、ですか…かわいいですね」

「形はホルターネックタイプのビキニ」

「却下です」


ビキニ…!それはあの胸を隠す布と下を隠す布が別々のあの水着?!ホルターネックと言えば胸の寄せ上げに甚大な影響がある魅惑のタイプだったはず。しかもホルターネック。首の後ろは結ぶのだろうか。解けたらどうするのだろうか。
それを万年競泳水着の喜界島さんに着せる!口の中に満ちた唾を飲み込んだらゴクリとのどが鳴った。


「えー!なんで?」

「泳ぎにくいと思います」

「波打ち際でキャッキャウフフするのに支障はないよ!」


波打ち際でキャッキャウフフ!
僕は今すぐにでも彼女たちの会話に飛び込みたい衝動を必死に押さえつける。
ピンクのビキニで波打ち際でキャッキャウフフなんて、僕は妄想の中でしか見たことがない!白い砂浜、燃えさかる太陽、水着女子の洪水!
そうすると僕は一体どうすればいいんだろう。トランクスタイプ?それともビキニタイプ?
どうすればそのイベントに参加できるの?


「波打ち際で…」

「ちなみに私はねー、赤にしようか黒にしようか迷ってるの」

「『赤っ!赤がいいと思うよっ!』」


こっそり聞き耳をたてていた給水塔の陰から飛び出した先の二人は、揃って驚いた表情のあと気味の悪そうな色を浮かべた。
でも僕は今そんなことはどうでもいいんだ!


「『なまえちゃんには絶対赤がいいと思うなっ。ヒモだったら尚素晴らしいと思うよ!どうしよう僕は何を着ればいいかな!みんなビキニで、僕は誰とキャッキャウフフすればいいんだろう、迷っちゃうな。ところでいつ行くの?どこに行くの?僕も勿論誘ってくれるんでしょ?』」


畳みかけるように一息で語って、くるりと回ってみせる。そして、しかし、二人がいた場所へ顔を向けたら…あれ、誰もいない?


「『………全く、みんな僕が傷つかないとでも思ってるのかな』」


はろさま


#真顔の球磨川くんを想像していただけたら…



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