「仕事中にタバコですか」
学校。校舎の裏側。鬱蒼と茂った木。
その中で竹帚を杖に体重をかけながらタバコをくわえているサングラス姿の無精髭。
名前を長谷川泰三と言う。
「そーいうお前さんはサボりかい?」
煙を吐き出しながら口許だけで笑ってみせる。あぁ、その口に噛みつきたい。
「長谷川さんが一人で寂しいんじゃないかと思って」
「おーおーありがたいこって。オッサンは淋しい生きモンだよ」
銀校の用務員である長谷川さんは、毎日校舎の雑用を引き受けている。大体はタバコを吸いながらけだるく動いているけど、そののらりくらりとした動作がどうしようもなく、いとおしい。
「慰めてあげるから」
「オッサンが淋しいのは主に夜だからね、やめとけよ」
「制服、脱がして」
夏特有の生ぬるく湿った風があたしのスカートを巻き込んで、裾はふわりと揺れる。指先だけで裾を押さえたら、長谷川さんがタバコをくわえたまま固まっていた。
「………淋しいオッサンをからかうな。泣いちゃうよ」
「からかってないから、あたしも困ってるの。本気すぎて泣いちゃいそう」
長谷川さんが無精髭を指先でいじりながら眉間に皺を寄せる。あぁ、サングラスの奥の瞳が見たい。見つめられたい。
「…よく考えてから言え。こーんなオッサンにあちこち触られて撫でられて舐められて突っ込まれるんだからな、イヤだろ?」
「正直に言っていいよ。あたしなんかにはあちこち触られて撫でられて舐められたくない突っ込みたくもない、って」
「バカ、お前そんなんオッサンにとっちゃ昇天寸前のイベントじゃねーか」
「昇天するのはあたしに突っ込んでからにして」
下品!とため息を吐く長谷川さん。よれよれの作業着。汚れた軍手。くたびれたスニーカー。例えばそれらの行き着く場所が、あたしの帰る場所ならいい。
「白いセーラーに赤いリボン、青いスカート、俺を犯罪者にするつもりか?」
「じゃああと半年待ってよ」
「タイムリミットは半年後か」
「何バカなこと言ってんの?長谷川さんがあたしに本気になるのに、制限時間なんて必要ないでしょ」
無 制 限
「…試してんのか」
「毎日勝負下着のあたしの身にもなってよ」
「マジでか」
「マジだよ」
「…そりゃ、アレだ。お嬢さん、用務員室でお茶でもどーだい?」
「他に誰もいないなら」
「当たり前ぇだ、」
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