今朝からクラスは浮き足立ってる。小学生じゃあるまいし、なんて机に肘をついてぼんやり汚い黒板を見つめる。黒板には大きく走り書き。

『避難訓練』

いつ鳴るかわからない警報にソワソワしてるクラス内。勿論授業に身が入るわけもない。それでも、それすらいつも通りだなぁと思う。授業に真面目に取組む3Zなんて想像できないや。

教卓の前に座ってジャンプ読んでる銀八がチラチラ時計を気にして、神楽ちゃんは珍しく早弁してないし。あたしは未来を予言してるみたいな気持ちで日誌にペンを走らせる。

『今日は避難訓練がありました。みんな朝からソワソワしてて面白かったです。』


「…面白いってなんだ面白いって」

「盗み見?やらしーなー土方は」

「バカ、ちげーよ」


手元が暗くなったかと思ったら、前の席の土方がこっちを振り向いて日誌を見ている。


「早く終わればいいのに」

「あ?」

「避難訓練」

「あぁ…」


土方が日誌を見ながら「まだ終わってねーのに最後まで書くなよ」と呆れたような声で言う。避難訓練が終わったら学校は終わり。今日は帰ったら溜まってる映画観よう。

『あたしは避難マナーを守りました』

最後まで書き終わった日誌をパタンと閉じる。


「…お前さ」

「なに」

「今日ヒマ?」

「映画見る」

「……」

「なに?」

「…なんでもねー」


目の前の土方から視線を時計に移す。その瞬間、遠くから警報が響いた。


「やっとか、」


クラス中が騒がしくなる。校内放送がうるさい。「よーし校庭出んぞー」と銀八の間の抜けた声。ざわざわざわざわ。

窓の外は晴天。


「…何してんだよ」

「みんなと出ても先詰まってるでしょ」

階段から聞こえる声がなかなか進まない先を物語っている。机の上に日誌を置いたまま立ち上がる。校庭にはまだちらほらとしか生徒はいない。

廊下に出てみれば、声は聞こえど姿は見えない。


「そろそろ行こうか」

「…お前さ、」

「うん」

「なんで俺がいんのか聞かねーの」

「…そういえばそうだね、なんで?」

「…聞くなよ」


だいぶ静かになった廊下を並んで歩く。いつの間にか繋がれたあたしの右手と土方の左手。


「…学校終わったら一緒に映画みよっか」

「お前んちで?」

「うん」

「……」

「何やらしーこと考えてんの」

「バカ、考えてねーよ」


クラスメイトに追いつかないようにゆっくり歩く廊下は、新鮮な静けさだった。




避難訓練の基本マナー

おさない
はしらない
しゃべらない
もどらない






「あ、しゃべっちゃった」

「あ?」

「日誌書き直さなきゃ」




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