ソファの上に横になり、瞼を閉じて片腕で明るさを遮る。
電気を消すのも億劫で、カーテンを引くのも面倒だ。
堅苦しいスーツを脱ぎ捨てた室内で私は下着にキャミソールという格好で、寝に入る。
ここは事務所の一室である。

エアコンは程よく部屋を暖めて、加湿器は静かに私の体の乾きを防ぐ。
手元にはお守り程度のナイフとペットボトルの紅茶。
至福。

だったはず。


「…鍵くらい掛けておけ」


すぐさま襲ってきた睡魔に身を委ね、気持ち良くまどろんでいた私に降ってきた低い声はため息混じり。
重い瞼を薄く持ち上げ、腕をどかして扉を見ればそこには上司である四木さんが腕を組んで立っていた。


「…寒いんで閉めてください」


放たれた扉から入り込む冷気が私のサンクチュアリを侵す。
仕事は終わったんですよ、出ていけ、そんな言葉を奥歯で噛み潰す。

パタン、カチャリ。

扉が閉まる音、そして錠を掛ける音。
いいから出ていけよ。

四木さんの動向を伺いながら、それでも再び私を夢の世界に優しく誘う睡魔。
ちょっと待って私の睡魔、もしかしたら貞操の危機かもしれないの。

四木さんはネクタイを取り払い、ジャケットを脱ぎ捨てる。
所作がいちいちサマになるのが腹立たしい。
かと思えば目を見開いて、そして酷く疲れた表情を浮かべて、そして、黒く鈍く反射する銃口を真っ直ぐに窓の外へ向けた。


「…糞が。鍵を掛けるべきじゃなかったな」

「私にこんな格好で応戦しろって?!」


四木さんが引き金を引くと同時、私は脱ぎ捨てたスーツに埋もれた銃を拾い上げる。
窓に亀裂が広がり、向かいのマンションのベランダから人がゆっくりと、スローモーションのように落ちていく。


「…他にもいるかもしれねえ。確認するよう伝えろ」

「き、着替えを…!」


泥のように眠りたい身体が全てを拒否する。
私はゆっくりさっさと眠りたかっただけであって、別にこんなハードボイルド且つアクションな展開は求めていない。
永眠せずに済んだことには感謝するけど。


「今更誰か気にすんのか」

「あっちより先に四木さんの脳天ぶち抜きますよ」


響いた銃声に扉の奥から怒号が聞こえる。次の瞬間にはあっけなくドアノブが破壊された。
ここの連中は全く、短気で粗野で困る。


「どうした…んだい?」


緊急とは思えないほどゆるい口調で入り込んだ赤林さんが一瞬固まった。


「……痴話喧嘩で銃ぶっ放したのかい?」


そんなわけないだろう。


「周りを確認してくれ」

「はいはいっと。いやー眼福眼福」


ごちそうさまですと言わんばかりに胸の前で手を合わせた赤林さん。
その脳天もぶち抜いてやろうか。


「お前も行け」

「この格好で?!」

「…このビルの中だけでいい」

「妥協したつもりか!」


キャミソールに下着、裸足で銃を片手にビルを駆けるなんて聞いたことがない。

ちくしょう!

全員見つけてぶっ殺してやる!ついでに四木さんも殴ってやる!


「責任取って貰いますからねえ!!」

「わかった、嫁に貰うから泣くな」


…………ん?
引っ込んだ涙できっと私は間抜け顔。


「そうと決まりゃあその身体、見られんのはいいが触らせんなよ」


私の顎を掴んで乱暴に唇を押し付けた四木さんに、私は事態を把握できないまま部屋を追い出されることになる。





あなたと飛んでゼロの世界


#「Under Ground!」提出
lunora ; rokuhi



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