好きだとか嫌いだとか、なんかすごく面倒なんだよね。だってほら、ヤキモチやいたりやかれたり、他人を自分のものになんてできっこないのに束縛したりして。
だからあたしは、あたしより上位の男に魅力を感じる。あたしのくだらないヤキモチなんて気にしないような、くだらないワガママだっていちいち受け取らないような、それでもただぎゅっと抱きしめてキスしてくれるような、そんな人。
「家光さーん」
「んー?」
寒い玄関。なんで玄関には暖房がないんだろ。とかどうでもいいことを考えながら、家光さんを呼ぶ。家光さんがあたしに向ける背中はいつだって広くて大きくて、力強い。下から聞こえたトントン、という音と一緒に体が小さく揺れて、靴を履き終えた家光さんは腰に回ったあたしの腕を、たしなめるようにゆっくりほどいた。
彼は自分の家に帰るらしい。
何故か、それは日付が変わったら、彼の誕生日だから。
「こら、」
「だめ、もうちょっと」
「…仕方ねーなぁ、ほら」
ほどかれた腕をもう一度後ろから回そうとして掴まれた手首。思わず視線を上げたら、家光さんは体をこっちに向けて、あたしに両手を広げてくれた。
「…ん」
家光さんの胸も広くて大きくて力強い。あたしの体を抱き締める腕も。全部全部好きで、本当は全部全部あたしのものにしたい。でもそんなの物理的に無理だし、倫理的にも許されない。わかってても欲しいって思うのは、あたしが子供だって証拠なのかな。
「家光さんのにおいがする」
「ははっどんなんだ」
「やさしーにおい」
好きで好きで仕方なくてだからあたしだけのものにしたい、そして家光さんは大人だからそんなあたしの頭を撫でて、抱き締めてキスをして笑ってくれる。それで満たされちゃうんだよなぁ、あたし。
「…俺はお前のがいー匂いだと思うけどなー」
ぎゅ、と強くなった腕の力に体を任せて、さらに家光さんの胸に額を押し付けた。あたしより大きくてあたしより大人。あたしのあしらい方をわかってるから、だからあたしも安心して寄りかかれるのかも、なんて。
それでもやっぱりあたしは、彼に一番に「おめでとう」って言いたいし、「生まれてきてくれてありがとう」って言いたい。
「…すき」
「…よっしゃ、今日泊まってくか」
「…帰るんじゃないの?」
「ついちまった火はすぐ消さねーと」
軽々とあたしを抱っこする家光さん。その下では履いたばかりの靴がぽい、と脱ぎ捨てられて、その顔を下から見上げながら思う。面倒だけどそれでもやっぱり、家光さんを好きになってよかった。
世界色ラブレター
「いまは、家光さん、あたしのかな?」
「ははっ、そーだな、お前だけのもんだ」
でもやっぱり、あたしは子供だから家光さんが全部欲しい。それが無理でも、こんな気持ち全部知ってて欲しい。
どうしたらこの気持ち全部伝わるかなぁ。世界を巻き込んで、洪水みたいに溢れちゃいそうなんだよ。
「誕生日、おめでとう。そして、生まれてきてくれてありがとう」
「お前も、俺と出会ってくれて、愛してくれてありがとな」