今日は世界で一番好きな人の誕生日。
誕生日になったその日の0時ちょうどに、彼の好きなお酒をあけてお祝いするの。
苦手な料理も頑張って、意地悪な上司に負けず2日間だけ休みをもらうから。
だからその2日間だけは、あたしだけのあなたでいてね。
「…と、なるはずだったの」
「…知るかぁ」
「それなのにこれは何」
「ボンゴレ主催のパーティーだろぉ」
「それは知ってる」
よりにもよって誕生日のその日に開かれたパーティー。
絢爛豪華な装飾と、足元にまとわりつくロングドレス。
会場ではきれいなお嬢さん方がうちのボスにまとわりついて、名も知らないファミリーの連中がボンゴレを囲んでいる。
「…ボス、そろそろヤバいんじゃない?」
「そう思うならお前が助けろぉ」
あたしの隣では同僚であるスクアーロが、琥珀色の液体を揺らす。
会場内にその存在感をしめす年代ものの置時計は華やかな空気を浴びながら、確実に針を動かしていく。
「…あと、15分で15日なの」
「…あぁ」
置時計を背に、シャンパンの入ったグラスを口元に運ぶ。
こくり、と一口飲んだものの、それ以上は進まない。
代わりに口から零れたため息にめざとく気づいたスクアーロが、あたしの頭に温かい手のひらをのせて、困ったように笑う。
「…プレゼント、用意してあんだろぉ?」
「…当たり前じゃない」
「渡せばいい」
「この状況で?」
まぶしい位の照明の下、視界の隅で談笑するのはボンゴレが誇る門外顧問・沢田家光。
おそらく0時を過ぎたと同時、このパーティーの主役になるのだろう。
そして、傍らには奥様が微笑んでいる。
もちろん当たり前のように、奥様の腰には家光さんの腕が回っている。
「…どうしてヴァリアーがこんなパーティーに出席することになったの」
「…うちのボスはお前がかわいいんだろぉ」
背後の時計がカチカチと針を動かす。
いてもたってもいられなくなってスクアーロの腕を掴む、と同時にその手首の腕時計を見る。
あぁ、あと10分しかないのに。
「持ってんのか」
「えぇ?!」
その瞬間背後、頭の上から降ってきた不機嫌そうな声。
手に持っていたシャンパングラスが奪われたかと思えば、あたしに声をかけたその人は一気に口へと流し込んだ。
「あれ、ボス?」
「持ってんのか」
「え、何を?」
「あいつに渡すもんがあんだろ」
「え、あぁ、渡せるとは思ってなかったから、車に入れっぱなしなの」
普段から不機嫌そうな顔をしたボスが、更に不機嫌そうに眉根に皺を寄せて舌打ち。
「…」
「え、えぇと、ボス?」
「あと5分」
「…うん」
「あと5分で家光がトイレに行くために会場を出る」
ボスはそれだけ言い、そしてあたしたちに背を向けた。
何事かとスクアーロに目配せすれば、スクアーロはさも楽しそうに喉を鳴らした。
「だから言ってんだろぉ。ボスさんはお前がかわいくて仕方ねぇんだ」
カチ。
残り5分。
目の前の彼が奥様から離れて会場を出る。
交差した視線。
優しく細められたその瞳に、思わず涙が滲んだ。
『おめでとう、大好きです』
「悪ぃな」
「なんで謝るの?」
「ザンザスに言われた」
「なんて?」
「中途半端なことして泣かせるな、とよ」
「…あたし愛されてるでしょ?」
「…俺がお前を想うほどじゃねぇさ」