言うなれば幼馴染み。
家が近くて親同士仲良くて、自然とお互いの家を行き来する機会も多くて。
だからこそ、そんな関係に終止符を打つ方法を模索している。
2人とも。
「…今日一緒に帰るぞ」
「…うん」
何故だか意識してうまく目を合わせられない。
それは2人して同じこと。
わかってはいるのだ。
2人とも、お互いに抱いてる感情がもう「オサナナジミ」なんかじゃないこと。
わかってはいる。
でも、今更「オサナナジミ」を壊して自分たちがどうなるのか不安、だったりもするわけだ。
週に3日は一緒に下校する。
今日がその日。
人のいなくなった教室で明日提出の数学の課題を終わらせる。
窓から見下ろす剣道場はまだ明るい。
いつになったら、想いを伝えられるんだろう。
いつになったら、「恋人」になれるんだろう。
少しだけ痛んだ胸に、拳をギュッと握る。
「…悪ぃ、遅くなった」
教室の扉から聞こえた声に思わず勢い良く振り返る。
そこには、額に汗を滲ませたトシが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「え、あれ?剣道場、」
横目でもう一度道場を見下ろすが、やはりまだ明かりがついている。
「あぁ、お前待たせてるからって、」
出てきた、と呟くようにして、笑う。
どうしよう。
すごく嬉しい。
伝えられたら、そしたら今だってトシに抱き付くのに。
キュ。
リノリウムの床が音をたてる。
トシがあたしの側まで歩いてくる。
「待って、今準備する…」
机の上に広がったままのノートとかプリントに教科書、バラバラにちらばったペン。
それらに手を伸ばしかける。
でも、あたしの手がそれを掴むことはなかった。
「………」
「…ト、シ?」
あたしの手首を掴む、トシのゴツゴツした手のひら。
涙が出そうになって、うつむいた。
手のひらが熱くて、それでも掴まれた手首が解放を望んでなくて。
トシの肩に掛けられた学生バッグが、腕をすり抜けてドサリ、と床に叩き付けられる。
「……トシ、」
掴まれてない方の左手をトシの顔に伸ばす。
でも、指先は触れない。
触れられなかった。
もし、あたしが気持ちを告げてしまうことでこの関係が崩れてしまったら。
「恋人」にならなくたってできることはたくさんある。
でもきっと、「恋人」になることで失う物もあるだろう。
伸ばし掛けた指先を、自分に引き寄せようとした。
その時、俯いていて前髪で見えなかったトシの瞳が、顔をあげることであたしの瞳を捕らえてしまった。
「…なぁ、」
トシが、あたしを抱き締めた。
「好きすぎて、死にそうだ」
雷をむずぶ