滑り込んだ特急電車。冬だというのに遠慮なくあたしを照らす日差しから身を隠すように。生ぬるい電車内へと足を進めた。
黒いスタンドカラージャケットののポケットに入ったミュージックプレイヤー。伸びたイヤホンから音が漏れないようギリギリまで音量を下げる。
空いた座席に身を沈め書類の入ったバッグを膝の上に置くと同時、車窓の向こうに流れる青空に目を奪われた。
そこにいつもどおりの振動。バッグの中で震える携帯電話。一度こめかみをギュッと指先で押して、寝不足の頭に刺激を与え深呼吸。
携帯を手にとってサブウィンドウを見る。そこには予想通り「DINO」の文字が光る。折りたたみ式の携帯を開けば受信メールが呼び出され、その文章に視線を走らせれば思わず口元が緩んだ。
"明後日までの書類は全部終わった"
簡潔な文章。指示したどころか期待以上。
メーラーを起動して指先で返事を打ち込む。
"ご苦労様。次は財政体制を整える為の書計画書類を準備してあるから、それを。"
すぐに返ってきた"わかった"とのメールに、目的の駅名を視界の端に見つけた。
純愛という名の籠で飼い殺す
愛してる。
大切よ。
だから、ねぇ。
何の疑いもなく
平和な籠の中で
笑っていてよ。
愛してる。
ずっと傍にいて
俺を守っていた
大切なひと。
それでも、なぁ。
何時になったら
この檻から出れるんだ。
その為なら、何だってできるのに。