沈黙。
いやな空気だ。

この部屋にいるのはディーノとロマーリオとあたしの3人。

ロマーリオは扉の前に立ったまま動かないし、ディーノは持っているティーカップを傾けすぎて中身がデスクの上を汚してる。
あたしはと言えばそんな2人を見つめながらソファにゴロゴロ。


「なまえ嬢、」


ロマーリオの声は低くて渋い。かっこいい。
でもその声は少しだけ不安そう。
ディーノのほうを見れば、ぐちゃぐちゃのデスクもそのままにあたしの方を見つめている。


「…本気だよ。あたし、死のうと思うの」


もう一度言う。ディーノの表情が変わった。
あ、本気の顔だ。
いつもはあんまり見ない真剣な顔。
口元だけでも笑う余裕もないみたい。


「なまえ嬢、何があったんだ」


冷静になったらしいロマーリオの声が優しいものに変化した。
キャバッローネにきてから2年。
失敗続きだったあたしを宥めて励ましてくれたあの声と一緒だ。


「最近は何もないよ。ずっと前に、ちょっと」


へらり。
沈黙したままの空気に似つかわしくない崩れた笑顔で答える。


「ずっと前、か」


ディーノの声は淋しそう。


「お前、自分の過去を話そうとしなかっただろ」

「調べたんじゃないの?」


ガチャリ、後頭部に冷たくて硬い感触。
自分のよく知るそれだと、一瞬で理解する。


「…調べても、なまえ嬢の情報はどこにもなかった」

「だから自分で死のうと思ったんだよ」

「どうして、俺を殺さなかった。チャンスはあっただろう」

「なんでだろう。なんでかな」

「はぐらかすな」


いつの間にかあたしの後ろに立っていたロマーリオはあたしの頭に銃を突きつけて、ディーノは跳ね馬のムチを片手に口を開く。


「あたし、キャバッローネが好きだよ」


煙草をくわえる。
フィルターに仕込まれた毒が、鼻につんと痛い。

これを噛めば、あたしはおわり。

誰も裏切らずにこの世界とさよならできる。


「…気付くのが遅かったんだ」

「そうは見えないけど」

「もっと早く調べてたら、こんなにお前を好きにはならなかった」


ごめんね。だましててごめんね。
もらった愛情を返せなくてごめんね。
あたしにできるのは、みんなを守ることだけなんだ。


「ごめんね。…殺さなかったんじゃなくて、殺せなかったの」

「…ボスとなまえ嬢が想いあってるのは、ファミリー全員気付いてるぜ」

「…隠してたつもりだったんだけど」

「バレバレだな」

「ロマーリオはいつも意地悪だなぁ」


ライターを探す素振りをする。
時間稼ぎにしかならないのはわかってる。同時に、今更時間を稼いだところで何も変わらないこともわかってる。


「ごめんね、あたし、ディーノのことあいしてる、」






「…ちょっと待て、なまえ、お前煙草吸うっけ…」








反転する世界




なまえが死んだ。
気付くのが遅すぎた。ぜんぶ。ぜんぶ。


「ボス」


黒く染まった煙草のフィルター。
苦痛に歪む表情。

最初に気付いていれば、煙草を見逃さなければ。


「"ごめん"なんか、告白に必要ないだろ…」


これから先を一緒に生きる覚悟があったのは、俺だけだったんだ。




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