「あのさー、俺さー」

「んー?」

「いま、好きな奴いんだー」

「へー」

「でもさ、そいつ俺になんか興味ねーみたいでさー」

「あー」

「…まぁぶっちゃけお前なんだけどー」

「おー」


目の前ではなまえが自分の爪と格闘中。きれいな爪に淡いピンクを伸ばしていく指先は震えてる。それを見つめる目は真剣だ。


「…なぁ、なまえ聞いてる?」

「…」

「聞いてくれ!」


なまえはそれでも爪を見つめる。きれいにピンク色に染まった左手の指先は震えて、なまえは小さく「やっぱ左手は塗りづらいなぁ」と呟く。お、俺の告白は一体どこに…!


「…もー!またはみ出た!」

「…俺の話聞いて!」

「じゃあ、はい」

「何」

「塗って」


なまえに左手を差し出されて、見つめる。渡されたかわいらしい小瓶から、独特の匂いがする。


「…別にこんなん塗らなくたって指きれいじゃねーか」

「わかってないなー女の子はかわいくありたいものなの!」

「今のままで十分だって、」

「特に好きな人の前ではね」

「…」

「…」

「すきなひと?」

「すきなひと」


それって誰、言う前に小瓶が指先をすり抜けてリノリウムの床に落ちた。カトン、と重くて軽い音が響いて、とろりと床を小さく汚すピンク。告白を聞いてもらえないどころか失恋かよ!


「ちょ、ディーノ!マニキュアがぁぁぁ」


なまえは我に返って慌ててる。高かったのに、と眉をハの字にして抗議。でも俺は正直それどころじゃない。むしろ抗議したいのは俺の方だ。


「だって、お前、」

「もー、ディーノがピンク好きだって言ったんじゃんか!」

「…おれ?」

「ディーノ以外の為にこんなめんどくさいことしないよ」


なまえは床にこぼれたマニキュアを拭きながら俺を見上げる。


「…何泣きそうな顔してるの」


制服のリボンがゆれる。なまえはため息をついてカバンを持った。左手の指先はそのまま、ところどころはみ出てるしボコボコだ。


「今日はもう帰る」

「ちょ、待てって!」


思わず握ったのはなまえの右手。指先に触れた爪は、つるつるしてキラキラしている、きれいなピンクだった。







ピンクに染まるよ!




(なんでお前はそんなに余裕なんだ…)

(ディーノがあたしを好きなんて今更なの)

(……)

(ほらほら、ディーノの好きなピンクだよー)

(ピンクよりお前がすき)

(…わー)

(ごめんなまえ、)

(ん?)

(ぎゅってさせて)




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