部屋の中の、まあるい形状をしたデザイナーズのイス。そこがあたしの定位置で、あたしはいつもそこに座っている。辺りに散らかる本は全部読み終わったものだけど、片付けるのがめんどくさくてそのまんま。それなのに朝起きると乱雑に散らばっていたはずの本はきれいに元の本棚に収められている。…ここのメイドさんたちはみんな優秀らしい。だって本の並べ方があたしの理想通り。本の大きさ・シリーズ・分類ごとに整然と並べられる。毎朝本棚を見ながら感動するのが最早日課だ。


「あれ、なまえ起きてたのか」

「こんばんは、ディーノさん」


あたしは訳あってこのお屋敷に預けられている。この人はこのお屋敷の主人で、あたしに本とイスをくれた人。


「今日は何読んでたんだ」

「えぇと、いいなづけ」

「マンゾーニか」

「そう。素敵な言葉を使うのね、このひと」


ディーノはふ、と柔らかく笑ってあたしの頭を撫でた。さらさら。その細くて長くて骨張ったきれいな指はあたしの髪を掬う。くすぐったくて目を瞑ったら、今度はくすくすと押し殺すような笑いが聞こえた。


「…なぁに?」

「いや、なまえさ、最初は日本文学しか読まなかったのに、最近楽しいっていうのはイタリア文学だろ?」


それが嬉しくて、と目を伏せていうディーノ。何度か髪を掬うようにして頭を撫でたあと、ディーノは辺りに散乱する本を片手に積み上げ始めた。


「どうしたの?」

「もう夜の11時だ。早く寝ねーと明日朝メシ食いっぱぐれんぞ」

「…またそうやって子供扱いするんだから」


まあるいイスから立ち上がって、ベッドルームに入る。明日の朝ご飯はあたしのリクエストで純和風。このお屋敷に住む人達は気に入ってくれるだろうか?


「おやすみなさい、ディーノ」

「あぁ、おやすみ。いい夢を」


ディーノが眼鏡の向こうで目を細めて右手をあげた。左手には本が積み上げられている。






手探りロマン



朝、いい匂いで目を覚まして目をこすりながら本棚を見る。そこにはやっぱり昨日読み散らかした本が丁寧に収められていた。




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