深夜2時を回ったころ、広いダブルベッドの真ん中で、なかなか寝付けずに何度も寝返りを繰り返していた。
そんなときにタイミング良くカチャリ、と控えめな音と共に床に真っ直ぐ伸びる明かりを見る。
薄暗い部屋に慣れた瞳には少し眩しく、自然と目を細めて扉の方を見れば、扉を開けた張本人の足が、ゆっくりと部屋に入ってくるのが見えた。
「あ、起きてたの」
「寝れなかったんだ…にしても、今終わりか?」
彼女が抱えた仕事の量に溜息で抗議してみせる。
それに気づいた彼女は肩をすくめて苦笑いを浮かべて答えた。
「仕方ないでしょう?」
細くなっていく明かり。彼女が後ろ手に引き寄せた扉が音を立てて閉められ、部屋の中を照らすのはカーテンの隙間からのぞく月明かりだけに。
「じゃあ夜が明けたら、息抜きにどっか行くか」
彼女の細い手首を掴んで自分のほうへ引っ張れば、彼女の柔らかな身体は簡単に俺の胸へと収まった。
そのまま2人でベッドの上に横になる。
彼女の頭の下に腕を差し入れて、額にキス。
「ダメよ。仕事があるの」
悪戯な笑みを浮かべた彼女は、人差し指を俺の唇に当ててそれ以上言うなと瞳で告げる。
しかし、俺も男だ。
久々にやっとゆっくり恋人と一緒に過ごす夜、しかもベッドの上、とくれば、何も考えないわけじゃない。
早くもまどろみ始めた彼女の瞼に小さくをキスをして、片手で彼女の身体の線を撫でる。
彼女の身体がびくん、と震え、抗議の眼差し。
「…たまには2人で一緒に休もうぜ」
久々の時間を楽しみながら、彼女の胸に這わせた手の平でやわやわとその感触を楽しむ。
「っ、ダメだってば、」
抗議の眼差しは力なく、疲労を物語る。
俺は溜息一つ。
仕方ない、今日は諦めよう。
代わりにと彼女をすっぽり抱きしめて、せめてもの彼女の感触を身体全体で味わうことにする、と。
まどろみ始めた意識の中、彼女の唇が俺の鎖骨に寄せられる柔らかな感触。
舌先が窪みをなぞり、微かな痛みが身体の芯を甘く蕩かすようだ。
「…なまえ、?」
折角一度は諦めたのに、身体の熱も再び反応を見せる。
深海から引き揚げられるように重い瞼を持ち上げて、抗議と期待を込めた視線で彼女の顔を見下ろせば、俺の鎖骨に寄せていた唇が少しだけ不満そうに弧を描き、そしてその細い指先が俺のシャツのボタンをはじいた。
その夜はまるで麻薬だ。身体中の血液を沸騰させてしまう。
「…やっぱ一回だけ、なら」
小さく俺の唇に触れて離れたそれを求めて、彼女の後頭部を引き寄せる。
(当たり前だが一回で済ませる気はねぇ)