「好きだ」って言う。
何度も言うけど、彼女はいつだってニコニコしながら「ありがとう」って言うだけだ。


たとえそれまで「好き」って言ってもらいてーなーとか思ってても、そのニコニコした顔がめちゃくちゃかわいくて、当初の目的なんか一瞬でふっとんだりする。

手をつないでデートもするし、抱きしめさせてくれるし、抱きしめてもくれるし、キスだって、させてくれるし!
…キスはしてもらったこと、ないけど。

巷では恋人っていうかカモフラージュっぽいと評判の俺たちだけど、ちゃんと俺たちは恋人だ。
だから「好き」って、ちゃんと言ってもらいたい。

そしたらきっと、もっともっと好きになる。


「なーなまえ、」

「なに?」


ほら、またニコニコしてこっち見る!
ほんとにうれしそうに笑うんだぜこいつ!
そんな彼女に「俺のこと、好きか?」なんて情けないこと、言えるはずない!


「…ボス?」


彼女が決めたルール。
キャバッローネの屋敷の中では、あくまでも俺はボスであり、彼女は秘書だということ。

いくら物足りなくても、さすがに「ディーノって呼べよ」なんて言わない。
…言わねーからな。俺だってそこまで聞き分け悪くない。
それに!屋敷を出たら「ディーノ」って呼んでくれるし!


「…やっぱなんでもない」


部屋の隅で書類をまとめてるロマーリオが、口元になんかムカつく笑みを浮かべる。
なんだよ、と目で訴えれば、「ヘタレだな」みたいなニヤニヤした視線が返ってきた。考えすぎか?思い込み?
でもロマーリオはフッとやっぱりムカつく笑みを口元に浮かべて、なまえに「コーヒーもらえるか?」なんて言いやがった!
なまえは俺の秘書だって!

彼女が笑顔で返事をして簡易キッチンに入る。
そしたらロマーリオが口を開いた。


「ヘタレだな」


やっぱりか!
反論しようと口を開いたら、簡易キッチンからなまえが出てきた。
え、早くね?


「フィルターきらしちゃったから、インスタントにしちゃった」


申し訳なさそうに眉尻を下げて言う。
かわいい!
もういいよコーヒーなんか別にどんな味でも!
…とはやっぱり言えずに、かっこつけて「あぁ、別にいいぜ。手配しといてくれ」とか言ってしまう。
そんな俺を見てロマーリオがまたニヤニヤする。ちくしょう!


「はい、どうぞ」


コトンと控えめにデスクに置かれたコーヒー。
その上には、生クリーム。ウインナコーヒー?
と思いきや、そこにチョコレートでハートが書かれている。
え、なにこれ。なんのサービス?

ばっと顔をあげる。ロマーリオのコーヒーを盗み見る。
ロマーリオは「お、ウインナコーヒーか」と早速スプーンでかちゃかちゃとかきまぜてる。

え、なに。俺に対してのメッセージ?
いつもは素直になれないけどちゃんとあなたが好きよ的なアピール?

彼女の顔を伺ったら、彼女は俺に気づいて人差し指を唇の前で立てて笑った。









夕日に溶けて、見えなくなった





やべぇ、今絶対顔赤い!と焦る俺に、彼女は「夕日が、きれい」とやさしい声で呟いた。

「愛してる」なんて言葉もういらねぇよ!
だって彼女のすべてが、俺を好きだって言ってる!

ロマーリオが小さい声で「あんまりボスを甘やかすな」ってなまえに言ったのは、この際聞かなかったことにしよう。




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