目が覚めたら昼だった。屯所の朝は早いって自分で言ってなかったっけ。

ぼんやりしたまんま布団から上半身だけ起こす。着崩れた白い着物にぐしゃぐしゃの頭。でっかいあくびをしてふと顔を上げたら、襖の隙間から目が見えた。

「…こわっ!」

「俺は今のお前の方が怖いぞ」

殴ってやろうかこのクソゴリラ。

一回大きく伸びして窓の外を見る。天気いいな。

「入っていい?」

襖がちょっと開く。
上目遣いのゴリラと目が合う。

「別にいーけど」

あ、でも寝癖ひどいや。

「いや別に気にしないけど」

「人の思考を読むな」

「ごめんなさい」

全く。こんな人が上司じゃ大変だね。土方さんも。

でかい図体してるくせに正座してちっちゃくなってるゴリラを見て溜め息。

こんな日常がずっと続けばいいのに。ずっとみんなといられたらいいのに。ずっと刀を握ってみんなより1秒でも遅く死にたいよ。「…なんて顔してるの」

でも、目の前のゴリラは泣くだけで何も口にはしなかった。

屯所から先日の襲撃に殉死した隊士のための線香が香る。


「お前は、迷子と呼ぶには悲しすぎる」


近藤さんが腕を伸ばして、たぶん、私を抱きしめた。



迷子のわたし
落涙のあなた






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