愛してるよ。


これほど残酷な響きを聞いたことが無い。
恋人だった時、恋人になった時でさえ聞かなかったのだから。
そんなセリフを今言うのは、酷く酷く残酷で、そして滑稽だ。


電話の向こう側で囁くように呟かれた声。
あたしの目の前には彼の側近のロマーリオ。
そしてあたしの手元にはロマーリオから手渡された一枚の指令書。


ディーノは、もとい、ボスはわかっているんだ。


そう言えばあたしが意地でも生きて帰ってくると。
わかっていて、やっている。
あたしがまだ、ボスに、ディーノに未練たらたらだとわかっていて。


恋人としてのあたしをとるか、優秀な部下としてのあたしをとるか。
それはつまりディーノにとって、男としての自分をとるか、ボスとしての自分をとるか、という問いかけだった。
そしてディーノは、キャバッローネというファミリーをとったのだ。
あたしでなく、ボスとしての自分をとったのだ。


目の前ではロマーリオが複雑そうに表情をゆがめる。
手元の指令書はいつも通り過酷な任務。
何度も何度も死線を潜り抜けてきた。
それもひとえにディーノに会う為だった。


任務を完了させればディーノは笑ってくれる。
よくやったな、とあたしに笑いかけてくれる。
その笑顔が恋人だったあたしに向けられていた笑顔とは違うのが悲しかったけれど、それでも必要とされていること、それだけがあたしのギリギリのプライドだった。


それでも、もう限界だろう。


ディーノは、そして今目の前にいるロマーリオも気づいていない。
マフィアのくせに。
それとも、もうあたしには興味が無いの?


「…いいわ。今夜発つ」


受話器の向こうと、目の前のロマーリオに合わせてそう告げる。
任務を受ける。
今回の任務がどんな結果になったとしても後悔しないよう、あたしはディーノの声を鼓膜の奥に焼き付ける。


鼓膜の奥に焼きついた言葉はやっぱり、いつもの言葉だった。


「…なまえ、愛してる」











ロマーリオを見送る。
運転席に乗り込むロマーリオの瞳があたしを捉えて、揺れる。
なんだ、ロマーリオは気づいてるのか。


曖昧な笑みを浮かべて手を振るあたし。
車はいつまで経っても発進しない。


じわり、


腹部に滲んだ濃い赤を手で押さえ、車を降りようとしたロマーリオを制止して背を向けた。












神様、贖罪の時間をいただけませんか









あたしが死んだら、あなたは泣いてくれるでしょうか。


任務は成功。
そして腹部からの出血と胸を貫通した銃弾に視界は、


ホワイトアウトする。




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