チカチカ、ふわふわ、


目の端に映るきんいろを見ないフりして、お気に入りのボストンバッグを迎えの車のトランクに押し込んだ。


あたしは今日、このマフィア関係の子どもが通う物騒な学校を去る。
去る、と言っても勿論卒業するわけじゃない。
むしろ正規の手続きを経て入学したわけでもない。


金髪の少年と、その後ろに控える黒髪の側近が目の端に映る。


「…なまえ、」


情けない声に一瞬だけ、滞りなかった指先が止まってしまう。

携帯のデータを全て消去していた指先。でも、1つだけ消せない連絡先がある。

あたしはその連絡先を消せないままため息をついた。


少年に向き直る。

その姿の、左手の甲に隠れ見えるボスの証。それはつまりそういうことだ。
何度も、それを見る度に心が締め付けられる思いだった。

理性は事実を認めている。けれど感情はそれを許さない。

「ディ、…ボス」

ロマーリオが言いよどむ。
やっぱり慣れないらしい。

あたしたちにとってはまだ、ディーノは子どもで、坊ちゃんなんだ。
同じ年とは思えないほどへなちょこだったディーノは、今ボスであるべく自分を奮い立たせている真っ最中。

そうだ。あたしはディーノの傍にいちゃいけない。

危うくその金髪に手を伸ばしそうになって、自分を心の中で叱咤する。


「ディーノ、」


真正面から向き合うのは久し振りだ。
ディーノがボスになってから、あたしはディーノと距離をおいた。


「なんだ よ」


ディーノの顔が痛みに堪えるかのように歪む。


「あたしは、あんたを許さない」


ロマーリオが口許を歪めるのと同時、
あたしは9代目直属の証だった携帯電話と銃をディーノに突き返す。


ディーノが携帯の画面に残るただ1つの連絡先を見て、身体を強張らせた。


「あたしのボスは、ディーノじゃない」





その掌は何を掴んだ







あぁ、あんたに恋をしていた自分すら、思い出せないよ。




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