「恋人」という響きにうまく収まったのはほんの5日前のこと。


何度目かの愛の告白は既にファミリー全体の一つの娯楽と化して、連日のパーティーへの同行という仕事にイライラしていたあたしはついうっかり、本当にうっかり、これまで「くだらないこと言ってないで仕事してください」と笑う余裕をどこかに忘れてしまったのだ。


代わりに口から飛び出したセリフは、「胸糞悪いジジイ共に、"キャバッローネのボスは部下に手をつけるほど女性に恵まれてはいないようだ"なんて笑われるのはイヤ!あたしの大切な人をそんな奴らに笑われたくないの!」と、眉間に皺を寄せた怒鳴り声だった。


ポカンとしたファミリーの人間たち。


漸く思考が冷静になったと思えば、時既に遅し。


「大切な、人、って」


真っ赤な顔をしたわれ等がボスが、にやけているであろう口元を右手で隠して呟いていた。




そしてそれから5日間、あたし達は会話をするどころか顔すら合わせていない。


これはどういうことか。


答えは「仕事」の一言に尽きる。


それでもボスの側近であるロマーリオから伝言を聞くことは度々だ。


潜入調査の最中にロマーリオからかかってきた電話に何かあったのかと声を殺して通話ボタンを押せば、彼はボスからの伝言だと言って「体に傷はつけるな」だとか「できたら他の男には触らせないでくれ」だとか、とにかくしょうもないことを口早に告げた。


もう一度言うが、潜入調査の最中にだ。




5日前の、何か腑に落ちない気すらする恋人宣言の直後に舞い込んできた仕事は、キャバッローネの諜報部に所属するあたしをご丁寧に指名した新興勢力の情報。


それが水面下で何やら不穏な動きをしているらしい、つまりその新興勢力がどの程度の規模を持ち、何をしようとしているかを把握する、というのが今回のあたしの仕事だ。


あたしを指名してきたのは、この新興勢力のトップが女好きであることと、あたし自身の変装スキルを見込まれてのこと。失敗は許されない。


なのに。


ボスと会うことなく過ぎていくこの5日間、毎日毎日ロマーリオから伝言が届くのだ。


何度も言うが、仕事中だ。


新興勢力グループの屋敷で、メイド服に身を包むあたし。
潜入5日目。疲労はピーク。


大体の動きは把握済み。そしてそれがキャバッローネにとってよくない動きであることも。
しかし証拠はない。残念ながら。


と、ポケットの中で携帯電話が振動した。イヤな予感。周囲に人がいないことを確認する。
陰に隠れて携帯のディスプレイを覗けば、そこには「ロマーリオ」の文字が。


またか!


やってられない。付き合いきれない。あたしは息を吐いて携帯の電源を切った。





が。





2階にいたあたしの耳に届いた下階からの喧騒。銃声。そして、


「なまえ!どこだ!」


…あれ、ボスの声?


いやいや幻聴だ。ありえない。あってほしくない。毎日毎日くだらない伝言頼みやがってふざけるな。まさか、そんな、



吹き抜けから1階のロビーを見下ろす。
そこは既に新興勢力を潰した惨劇の舞台になっていた。






伝言は必要ない





「何しにきた糞ボス」

「ディーノ、って呼べよ」

「五月蝿い。なんで見切り発車してんだ。あたしの苦労が水の泡じゃねーか」

「だってさー」

「だっても何もありません!」

「だってなまえと5日も会えないとか、耐えられねーんだよ」


…だってじゃねーよ。何が「だって」だ。かわいくもなんともねーよ。


ロマーリオがあたしの肩を叩いて「さっきの電話はこのことだったんだが、」と苦笑した。

「あたしボンゴレに転職しようかな。」

「ンな赤い顔で言っても説得力ないぜ」

あぁもう!こいつ一発殴っていいかな!!!




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