私が我がままを言うと困ったように笑うのに、
私が我がままを言わないと淋しそうに笑うの。
「男の人ってわかんないよ」
「バーカ。んな簡単にわかってたまるかよ」
背の低いシングルベッドの隅っこに横になりながら、毛足の長いふかふかのラグに腰を落ち着けているトランクス姿の男の人の背中を見つめる。
「あ、傷みっけ」
「いてっ」
引っ掛けたのか斬られたのか破片でも掠めたのか。
そういうことは聞いても教えてくれないから、聞かない。
「消毒したげる」
「おー頼むわ」
狭いワンルームのいいところは、欲しいものにすぐ手が届くところだと思う。
ベッドから降りてほんの4歩。くらい。
救急セット、と呼ぶには少しだけ充実しすぎているケースを手に、またベッドの上に戻る。今度は正座。
消毒液、の前に一応確認。
舌を出してまだついたばかりと思われるその傷を舐める。
ふるりと震えた肩に、吐き出された小さな息。
「…毒の確認だよ?」
「わかってる」
「…だいじょうぶ?」
「ダメかもしんねぇ」
ぺろりと唇を舐めて、確認完了。うーん、毒物少量?
かるーく解毒剤塗って、一応抗生物質飲ませて?消毒、はあとで。
「薬飲んでね」
「なんか入ってたのか?」
「うん、ちょっとね」
まあ仕方ないといえば仕方ない。
だって銃に比べれば刃物なんてそんなに怖くないもの。
急所だけかわせばどうにかなるもの。
でも銃は違う。治療を受ける速度にもよるけど、銃創は死に至ることがほとんどだし、それでなくとも器官が壊死することもザラだ。
「なぁ、薬口移しで飲ませていいからよ、頼むから俺の視界に入んねぇとこで泣くなよ」
「泣いてないよ」
銃は専門じゃない。
だからお願い、家光さん。
刃物で傷をつけられたときには必ず、絶対、ここへきてね。
「…嘘つけ」
「あんまり意地悪すると、薬あげないよ」
「俺にとってのデメリットが見つからねぇな」
「それなら今夜は絶対安静」
「勘弁」
両手を挙げて降伏のポーズ。
鈍かったり図太かったり鋭かったり聡かったり、
ほんと、男の人って、わかんない。
浮上
「どこか痛くなったりしたら、言ってね」
「もう痛ぇよ」
「どこ?」
「お前の手とか舌でも治るとこ」
「じゃあ今日は帰らないでね」
ほら、また困ったみたいに笑うんだ。