人がいない場所でだけ、家光さんはあたしと手をつないでくれる。おっきくてゴツゴツした手のひら。あつくて、あたしの手をぎゅって握ってくれるその温度に、あたしはいつだって絶対的な信頼と安心をこめて力を込め返す。


「家光さん」

「おーどうした」


見上げれば家光さんはいつもとおんなじように柔らかく笑ってて、あたしがそれに見とれて黙ってたら「ん?」って続きを催促された。
もういい年なのにそんな仕草がいちいちかわいくて、なんであたしはこんな年なんだろうとか、なんで家光さんは38歳なんだろうとか、なんで家光さんは奥さんがいて子供がいるのかなとか、なんであたしはこんな淋しい気持ちになるのかな、とか、とにかくよくわからないことを考えてしまった。


例えばあたしたちが普通の恋人同士だったら、こんな路地裏とかじゃなくて明るい街をこんな風に歩けたのかな。
ハルちゃんオススメのケーキ屋さんに2人で入って、ケーキあーんとかしちゃったりして、人目を気にせず歩けたのかな。

…なんて、考えるのはやめよう。
あたしはこの人を好きになったとき、強くなろうってきめたんだ。
覚悟をきめたんだ。何があっても強くいよう。


そんな思いをこめて繋いでた手にもう一度小さく力を入れたら、そんなあたしの手ごとすっぽりと自分のジャケットのポケットにいれて、家光さんは笑った。


「でもアレだな」

「なに?」


ポケットの中では指が絡まって、人に見えない場所で更に人目につかない場所で恋人繋ぎで。
嬉しいんだか悲しいんだか空しいんだかわかんないけどやっぱり幸せな温度で。


「場所に関係なく、お前とこうしてるだけで幸せだ」


まるで、お前の考えてることなんかお見通しだ、みたいな顔して、家光さんはあたしの額に触れるだけのキスをする。


繋いだままのあたしの左手と家光さんの右手。
家光さんはあたしといるときだって絶対左手の薬指の指輪をはずさないけど、そんな家光さんが好きなんだからいいんだよ、きっと。



不器用なひと。
いじわるなひと。

世界でいちばんすきなひと。


「だいすき」

「…なんだよ、俺は愛してんのに」


同じくらい、あたしもきっと不器用で、いじわるだってことにしとくよ。






地球儀



「すきだよ、だいすき」

「…なんだよ、俺には言わせといてお前は言ってくんねーのか?」

「今日泊まってくれたら言ってあげる」




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