「拙者は、待っていてくれる女性が好み、です」

「待っててくれるひと?深夜に帰ってきたらリビングで待ってました、なんて重くない?」

「…そうでしょうか、健気だと思いますが…」

「…待ってるのが、健気なの?」




3日間の不在のあとアジトへ向かう道すがら、なまえが好きそうなデザインのカップを見つけ、つい購入してきたその足。
そのまま俺を待っているであろうなまえの部屋に向かう途中、丁度向こうから死角に入る廊下の角から2人分の声が聞こえた。

なまえとバジル、だ。

俺のいない間に2人きりで話中。
いつだって俺はなまえに「これでも独占欲は強いから気をつけろ」なんて茶化しているのに、なんだってこんな時に。
手元にぶらさがった白い紙袋の中には、繊細なつくりのカップが二つ包まれている。


やっぱなまえも俺なんかとこんな不毛な関係続けるべきじゃねーのかもな、と思いながら、今帰ってきました、という足取りで廊下から足を踏み出した。


「仕事放って何やってんだ」

「あ、お帰りなさい、親方様」


ふわ、と笑うなまえ。
その笑顔に癒されながら、バジルを見る。


「お帰りなさいませ、親方様!」


少し思案していたその表情が和らぎ、俺にそう声をかける。

そのままバジルはそそくさと自室へ戻り、俺は当然のようになまえの部屋へと。


「なまえ、」

「はい?」

「よ、これ、プレゼント」


紙袋を受け取るなりなまえは本当に嬉しそうに中身を取り出した。


「わ!きれい!」

「こーいうの好きだろ」

「うん!大好き!ありがとう親方様!」

「こら、親方様、じゃねーだろ」

「…ありがとう、家光さん」


ニコニコしてカップを二つ手に取るなまえは、俺が言うのもなんだが本当に年齢相応の笑顔で笑う。


「あたしと家光さんで使おうね」

「おー」


かわいらいい笑顔でかわいらしいことを言うなまえ。

ふと、目に付いたのはなまえのデスクだった。


「…お前、こんなに仕事抱えてたか?」

「あ、それ全部終わってるの」

「この量全部か?」

「うん。家光さんのお仕事をね、回してもらったの」

「…なんでまた」


積み上げられた資料に、乱雑に散らばる書類。
空っぽのファイルが床に転がるその様は、既に終わっているとわかっていても頭が痛くなる。


「だって、あたしが少しでもやっておけば、家光さんゆっくりできるでしょう?」



なんだそれ。

年甲斐もなく熱の集まる顔を隠すように、左手で覆う。


「…確かに、待ってるだけより健気かもなぁ」


ポツリと呟いた言葉に、なまえが「聞いてたんですか!」と顔を赤くした。








天秤の傾き




「…にしてもこの量一人でやったのか…」

「あ、バジルくんが少し手伝ってくれたの」

「…バジルが」

「…バジルくんが、え、あれ、なんで怒ってるの」

「へー、俺がいない間に二人っきりでねー」

「へ?や、ちが!あたしは家光さんしか好きじゃない!」

「…わかってるよ、俺が妬けるだけだ」




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