煙草をくわえて火をつける。
フィルターを通ったそれは、変わらず苦い。

それでも依存して離せない、なんてこの恋に似すぎていて笑える。


換気のためにあけた窓から入り込む風が冷たい。
それでもあたしが窓をしめないのは、いつだったか家光がこの部屋に来たとき、「煙草くせーなー」と言ったためだ。
彼の口調はいつもと同じようにおどけていたし、表情も仕方ないとでも言いたげな表情だった。

それなのにあたしはいっちょまえにショックを受けてしまったのだ。


ため息をつく。
部屋の中は暖房で暖かく、窓から入り込む冷気なんてさほど気にはならない。


「相変わらずだなー」

「?!」


窓の外をぼんやり見ていたあたしは、その時になってようやく気付いた。
背後に家光がいたのだ。


「…家光」

「ぼーっとしやがって、お前らしくもねぇ」


家光が頭をがしがしと掻いて笑う。
無精ヒゲをたくわえた口元が微笑する。


「ご、めん」


くわえていた煙草を指先で摘んで、灰皿に押し付ける。
まだまだ先の長いはずだった煙草はジュ、と音を立てながら潰れた。


「いや、煙草じゃなくて」

「?」

「相変わらず部屋にモノが少ねーな、と」


でも煙草はやめた方がいいんじゃねーの?と付け足す彼は、やっぱりオトナだと思う。


「だって必要ないもん」

「客用の布団も?」

「…明日買っておく」

「嘘だよ、ベッドが一つありゃー十分だ」


いつからか始まったこのイビツな関係には、名前をつけることすら許されない。
だって彼には奥さんがいて、子供がいて、そして、奥さんを愛してる。


「今日、泊まってくの?」

「おー、…何か予定あんのか?」

「…ないけど」


彼は当たり前のような顔をしているけど、正直あたしは驚いた。
だって彼はこの部屋に来ることはあっても、この部屋に泊まることはなかったから。


「夕飯期待してる」

「…奈々さんには敵わないけど、」


あたしのローテーブルの前に胡坐をかいて座ってる。元からこの部屋の住人のようにどことなくしっくりくるその姿。
それが何故だかたまらなく悲しくなって、思わずそう口にしてしまった。


ハッとして家光の表情を伺えば、彼は予想通り複雑そうな表情で笑っていた。


「…ごめん」


俯いたあたしに、家光の手がこちらに伸ばされる気配。
ぎゅ、と目を瞑ったら、その大きな手のひらはあたしの頭をつかむ様にして撫でる。


「…お前の作ったメシが食いてーんだよ」


あいたままの窓に背中を向けたままのあたしは、そのまま彼の胸に顔を埋めた。








センセンフコク




「…覚悟しとけよ」

「、なにを?」

「んなかわいいこと言いやがって」

「は?」

「まだまだ俺も若ぇから」

「え、それってそういう、」

「とりあえずメシの後は一緒に風呂入るか」

「…オヤジ」




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