どうやら久々に覗いた晴れ間に、彼女は早起きしたようだった。
「小太郎!みて!晴れてる!」
「ああ…うん…あー」
問題があるとすれば俺自身の睡眠欲。ひたすら眠い、それもそのはずだ。夏の近い時分にふさわしく日が延びた現在、早朝5時を少し回った時間。しかし既に外は明るい。
「悪いが、俺は昨日寝付けなかったのだ」
「そう?しあわせそーな寝顔だったけどねえ」
古ぼけた畳。皺がよったシーツ。彼女の纏うのは夜巻きではなくて淡い色の着物。いつの間に着替えたのか。
「不思議な夢だったな」
「どんな夢?」
「ずっと、雨が降っていた」
ここ最近は現実でもどしゃ降りだった。雨の中を追ってくる真選組は機動力に薄い。その意味では恵みの雨だったような気もする。
「夢の中でまで雨に降られてたの?」
「そうだな」
「夢の中では何から逃げてた?」
ふふふと悪戯にへらりと笑いながら窓を開ける彼女の前髪を、吹き込んできた風が柔らかく揺らす。
「…いや、逃げてはいなかった」
「ふうん?」
「逃げられなかったんだな」
不思議な夢だった。奇妙でもあったし、愛しくもあっった。
「でもやっぱり何かに追われてたんだね」
「そうだな」
追われていた。
窓の外は晴天だ。夢に見たあの雨とは大違いの現実。
彼女はにっこりと微笑んで、そして口を開いた。
「お誕生日、おめでとう!」
逃亡者はどこへ行く
そうだ。俺は追われていた。そして逃げられなかったんだ。
自分の恋心から。
「ヅラ?」
「ヅラではない桂だ」
「いつも通りだね」
「……そうだな。…なんで、逃げてたんだろうな」
「夢の話?」
「ああ、…もう、手に入っているものなのに」
抱き締めた小さな体に、雨の気配は感じられない。