▽バレンタイン (1/1)




カチャカチャ……


「んー……?」


朝日が差し込む静かな部屋で目を覚ました。
普段うみが起こしにくるか目覚ましがなければ起きられない俺だが何故か今日は目が覚めた。

珍しいこともあるものだと思いながら起き上がると、何かの音が耳に入った。
台所から、なにか料理を作ってるような音。

……ああそうか。

うみが早起きして朝飯作ってんのか。
からかってやろうと思い台所へ向かった。


「うみ」

『総悟…あああ!』


俺が台所に入るなりうみは慌てて俺を押し返し台所から追い出した。


「うみ?」

『総悟は入ってきちゃだめ!』


どうやら俺はどうしても台所にいてはいけないらしい。
……にしても隠し事っていうのが気に食わねェ。


「なんか隠し事してるだろィ。言わねーと後でお仕置きだぜィ」

『それは嫌、だけど総悟はダメなの!』


お仕置きでも聞かない。
基本的にうみは優しいから素直に言うこと聞く、と思ってたが違った。
どうやら今回は本気みてーだなァ。


『後でちゃんと教えるから…』

「……わかった」


うみの言葉を信じ、待つことにした。





*  *  *



「…………遅ェ」


あれから2時間近く経ったが、うみが台所から出てくる気配はない。
何をやってるんだと思う以前になんかイライラしてきた……。


「うみ」


台所のドアの前に立ち、名前を呼ぶ。


「まだ出てこれないんですかィ?」


いい加減待つのも疲れた。
それに朝からうみは台所にいるからまだ顔も見てねェ。
こんな状態でこれ以上待つのはもう限界だ。

すこし強引な気もするが、うみの了承を得てないまま勝手にドアを開けた。


ガチャ


『ちょっ…総悟!?』

「何でィこのにおい…」


台所は甘いにおいでいっぱいだった。


『入ってきちゃダメって言ったじゃない!』


うみは珍しく怒っていた。
涙をすこし目に溜めて。

今更ながら罪悪感を感じる。


「悪ィ、あんまりうみが遅いから」

『だからって言うことくらい守ってよ…!』


うみは大声をあげた後、しまったという顔で口元に手をあてた。


『ごめんなさい…私、すごく待たせちゃったのに…こんなことで大声出しちゃって…』

「謝んな、元々悪いのは俺でィ」

『でも、』


ギュッ


うみが言おうとしていたことを遮ってうみを抱きしめた。


「……悪かった」

『え?』

「勝手に嫌がることして悪かった」

『ううん、私のほうこそごめんね…』


うみもそっと俺の背中に手を回し、抱きしめてくれた。


「…ところで何を作ってたんでさァ」

『……っ、えっと…』


恥ずかしそうに俯き言葉を濁すうみ。


『あの…笑わない?』

「よっぽどのことを言わなければ」

『えと…』

「…………」

『バレンタインチョコ…作ってたの』

「は?」


バレンタインチョコ?
こんな朝早くから?


『でも失敗しちゃってっ何度も作り直してたら…』

「それであんなに時間かけてたんですかィ」


うみはこくりとちいさく頷き、上目遣いで俺を見た。


『あの、失敗しちゃったけど…食べてくれる?』


なんだこの可愛い生き物。


「もちろんでィ」

『ほんと?』


この上ないくらい目を輝かせて笑ったうみ。
可愛すぎる。

うみはおもむろにチョコケーキを取りだし、俺に差し出した。


「………これのどこが失敗でィ」


正直これが失敗作には到底思えねェ。


『味は大丈夫なんだけど、形が…』


言われてみればすこし形が悪いかもしれない、それにボロボロ崩れるし。
けど、それだけで失敗したと言ううみにすこしだけ疑問を抱いた。
そんな本物のパティシエでもあるめェし、こんくらいが手作りって感じがしてちょうどいいのに。


「こんなの失敗じゃねーよ」

『失敗だよ!』


珍しくうみが引き下がらない。
そう思っていると、うみは更に俺をきつく抱きしめゆっくりと俯いた。
その後、か細い声で、


『いちばん大切な総悟にあげるんだもん…せめて私が納得出来るものじゃないと、嫌なの……』


震えながら言った。


『総悟に美味しいって喜んでほしかったの、総悟が…だいすき、だから…っん!』


うみの顔を上に向かせ、唇を塞いだ。


『っは…っ総悟…』


なにか言いたげなうみのおでこに口づけをして、また深いキスをしてやった。


「……っ、うみが可愛すぎるんでィ」


強くうみを抱きしめ、顔が紅いのを隠すようにうみの首元に顔を埋めた。


『総悟』

「?」

『ほんとに食べてくれる?』

「当たり前でさァ」



それからうみに食べさせてもらったケーキは、

超がつくほど甘かった。















飴玉色のバレンタイン


(どんなチョコでも)

(やっぱり君の甘さには敵わない)







―――――――
ハッピーバレンタイン!

← →

(しおり/一覧)

(戻る)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -