「なぁなぁなぁクラウドー。」
「…………んー?」
「いつ終わんだ、ソレ?」
「……うんー……」
クラウドは今、本の虫だった。
元来事務には向いていないザックスが、書類作成に時間が掛かってしまっため、なんとか終わらせて帰ってきた時にはすでに9時を回っていた。
そんなわけで、やはり今日も食事を一緒にとることはできなかったわけなのだが。
ザックスが帰って来たときからずっと、クラウドは本を読み続けている。
現在の時刻は既に11時過ぎ。
ザックスの帰宅に普段から”おかえりなさいザックスv”なんていってくれるわけではないが、今日はいつにも増してドライだった。
『クラウド、ただいまー』といっても
『…おかえりー……』
半分以上、上の空。
なんというか、条件反射で口が勝手に言っちゃった、みたいな。
話しかけても『今本読んでるから…』と流され、仕方なしに先に風呂に入った。
そして風呂から上がってからも邪魔しちゃ悪いか、と
テレビを見たり雑誌を読んだりしながらザックスはザックスで時間を過ごして。
「…………」
しかし、一向に終わる様子がない。
この調子だと飯だってまともに食べたか不安になってくる。
まぁ、そのへんはセフィのおっさんと違ってしっかりしてるから大丈夫だとは思うが。
どちらにしても、いい加減終わってもいいんじゃないか?
終わらずとも、キリをつけるとか。
せっかく少ない二人きりの時間なのに。
──そんなに本が好きなのか。俺より本が大事か!?
なんて、挙句に本に嫉妬まで始めて。
まぁ、本当に聞いたところで返事はあっさり
『うん』
とでも返ってくるのだろうが。
「…………」
こうなったら、とザックスは無言で行動を開始した。
ベッドにうつ伏せになっているクラウドの後ろに回りこみ、
「ま だ ?」
弱点のひとつである耳元にそっと囁く。
自分でやっていて正直気色悪いが、そこはあえて気にしない。
「───!!?」
ビクリ、と身を竦ませて、期待通りの反応を見せてくれるクラウドにほくそ笑み。
そして次の反応を待つ。
「…………」
「…………」
が。
「………………」
無反応。
一度反応を見せたきり、気持ちいいくらいの無反応。
一瞬こちらへ向いたはずのクラウドの意識はすでに本へ向かっていた。
──……コノヤロウ。
意地でもこっち向かせてやる、とクラウドの首筋に口付けてみたり、耳をかじってみたり。
その度、刺激に対する反応は返ってくる。
それでも、肝心のザックスに対する反応は返そうとしない。だんだん、クラウドの方にも”なんとしても読み続けてやる”という意地が出てきて。
なんて不毛な争い。
その間、ザックスは好き放題触りまくり。
クラウドはイラつき始め、実をいえばすでに本を読む所ではないのだが、一言”やめろ”と言ってしまえば負けのような気がして。
「……っ…」
ザックスは抵抗されない今、ここぞとばかりに楽しんでいた。
それこそ当初のクラウドが構ってくれずおもしろくない、なんて気持ちがあっさり吹っ飛ぶ程度には。
普段ならば抵抗されて当たり前、下手すりゃ蹴る殴るのお返しが来るのだ。
…まぁ、いつもというわけでもないが。
とにかく、無抵抗なんてのは珍しい。
──いつまで保つかなぁー……
こぼれてくる笑みを隠し切れず、ニヤリとほくそ笑む。
きっと、クラウドがその顔を見た日には
『うわっ、何そのヤラシイ目!?何考えてんだ!!』
とか、いってくるのだろう。
が、しかし今は必死に本へ顔を向けているのだから、見られることはないはず。
ゴソゴソと服の中へ手を忍ばせ、胸の突起を弄ってみたり、時々くすぐってみたりなんてしながら我慢し続けるクラウドへ───
「〜〜〜っっいいかげんにしろッ!!!」
と、ついにクラウドが切れた。
本を投げ出し、こちらへ顔を向けてくる。
その目は我慢も限界を迎え、怒りを湛えた目。
「ん?」
しかし、ザックスはクラウドの怒声にぴたりと手を止め、すっとぼけた声を出して。
「何考えてんだアンタ!!?」
「クラウドとヤりたい」
「──ッ!?」
すっとぼけた割には、あっさり口にされたその言葉に一瞬あっけにとられ。
それでも持ち直したクラウドは、聞かなかったことにして。
「あれか?構ってもらえないと吼えて注意を引こうとする犬か!?犬と一緒か!?」
犬にしてはタチが悪い。
しかし、負けじとザックスも言い返す。
「だってよー、俺が帰ってきてからずっと本読んでるんだぞ?俺がいつ帰ってきたかお前知ってるか??」
「…ぅ」
やっぱり、あの『……おかえりー……』は条件反射だったらしい。
そうかなーなんて思いつつ、やっぱり事実だったことにちょっと打ちひしがれながら、
「俺が9時に帰ってきてからもう2時間以上だぞ?もう11時すぎてんだぞ?」
「え、11時!?寝なきゃ!!」
やばい!、と時計を見てそのままザックスを無視してベッドに潜り込もうとするクラウドを
「コラコラコラコラ」
引き止める。
「ごめん、その話は明日ね!明日の朝早いんだ」
普段寝る時間よりも1時間以上オーバーしている現状に、怒りも忘れ、クラウドの頭の中は『寝る』一色。
クラウド曰く”育ち盛り”の今、睡眠不足は大敵。
しかも、明朝はいつもよりも早いらしい。
だからって!だからって…!!
ゴソゴソとクラウドのベッドに一緒になってもぐり込んだザックスは、鬱陶しがられながらも後ろから抱きすくめ
「な、クラウド、中途半端でつらくないか?」
「…頼むから寝かせてくれる?」
振り向いたクラウドに半眼で見据えられ。
「一回だけ」
「ヤダ。絶対一回じゃ終わらないだろ」
頼む、嫌だ、の押し問答を繰り広げ、このままじゃいつまでたっても寝られない、と時間を聞いたとたんに既に眠くなっているクラウドから、
『今度休みの前の日好きなだけしていいから、だから寝かせて』
クラウドにしてはあまりに考えなしな、そしてザックスにはおいしいお許しを得て。
したり顔なザックスは
「…その言葉、忘れんなよ?おやすみクラウドv」
下手な悪役みたいな言葉を放ちつつ、大人しく引き下がった。
が、クラウドは途中で自分が放ったセリフの恐ろしさに気づき、
「うわーちょっと待って、今のなし!」
なんて慌てて言った頃には時既に遅し。
「聞こえねー、んじゃなーおやすみー」
絶対聞こえてるはずなのに、聞こえないと言い放ち、
鼻歌交じりの上機嫌で部屋から出ていくその後姿。
そんなおいしい話の取り消しなんて取り合う気さらさらありませんよー、という空気に満ち溢れたザックスは、『おやすみー』の言葉と共にドアの向こうへ消えた。
「…く…っ……最悪だ…」
クラウドは自分の間抜けさ加減に頭を抱え、次の休みはほぼなくなったと言っても過言でないことに嘆き。
それでも、休みと引き換えに得たせっかくの安眠の時間をこれ以上減らしてなるものかと、眠りについた。
ちなみに、次の休みはその夜から数えて2日後だったりすることには、幸か不幸か、クラウドはまだ気づいていなかった。
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2005.05.28
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