16週目/スキップ/BAD ED15
>>あ、ちょっと無理だ
こういうタイプは、無理だ。
優都「ユウに触るなぁ!気持ち悪ぃんだよぉっ!!」
執事の腕を掴んでそのまま背負い投げる。床に叩きつけると、ドウッ!と、重みのある音。
執事「……ッ」
優都「はぁっ、は、っば、ばーか!」
それだけ言って窓の方へと一目散に走った。窓のロックをパチン!と外して桟に足をかける。飛び降りる間際。
ギィ。と、音がして掃除をしなくて良いと言われていた部屋の扉が開いた。そこから見えたのは、数十人の。
優都「っ!」
青少年達。一斉に、こちらを見ていた。まるで、化け物でもみるかのように。窓から落下するほんの一瞬だったのに。
全員が、見ていた。
優都「あ、ヤバッ!」
ここは二階。このまま落ちれば怪我をしてしまう。
でも、そんなミスはしない。
優都「なんてねんっ」
念の為開けておいた一階の窓。その枠に手をかけて減速し、勢いを殺しながら屋敷の中へ入る。使用人が使っている部屋に置いていたキャリーバックを回収して、入ってきた窓から飛び出した。
追ってはいない。
俺「……で、逃げてきたと」
メイドの格好のまま帰ってきた優都は、帰ってくるなりソファーの上で体育座りをした。何か嫌な事があったのだろう。嫌な事があると、優都はそうやって座る癖がある。
優都「あああもう気持ち悪い!キモい!キモい!ぞわぞわするぅ……」
自分を抱き締めながらそればかりを繰り返している。
俺(あれは……失敗したな)
そう心の中で呟くと、優都が俺に顔を向けた。思わずドキリとしてしまう。
優都「俺きゅん、ぎゅってして!ぎゅって!」
俺「……馬鹿か」
優都「だってぇ!気持ち悪いんだもーん」
涙目でそう言ってくるが、知らん。
それよりこれからどうするか、だな。
1 …………
2 ……ぎゅっ
>>……ぎゅっ
俺は体育座りをして蹲る優都の体を抱き締めた。
優都「俺きゅんっ……!」
俺「こ、今回だけだからな!」
恥ずかしくなって優都から顔を背けたが、気配で優都が笑ったのだとわかった。すぅはぁ。と、優都が深呼吸をする。
優都「もう大丈夫!ありがとう、俺きゅん」
俺「あまり無理すんな。……今回の件は、別の子に」
俺の腕からするりと抜けた優都は、ツインドリルを揺らしながら横に首を振る。それ以上は言うな。と、人差し指を俺の唇にあてた。そして、ばっちん。星が飛びそうなウインク一つ。
優都「これはユウのクエストだから、ユウが頑張るよん」
くるりと一回転。メイド服のスカート部分が、ぶわりと広がる。コツン。と、黒い小さな物体が床に落ちた。
優都「お返しするね。俺きゅんは心配性だなぁ」
盗聴器兼発信機。こっそり付けたつもりだったが、バレていたか。少しばつが悪い。
でも、なぜか優都の顔は少し嬉しそうで。
優都は髪についているリボンを締め直すと、力強く笑った。
優都「このクエストが終わったら、俺きゅんとデートしたいなぁ!」
だからユウ、頑張ってくるね。
そう言って優都は再び家を出ていった。
俺「ちゃんと帰ってこいよ」
デートはしないけどな。誰も居なくなった家で一人呟いた。
俺「っだー!引っ付くな優都!!」
あれから、一週間。俺と優都は隣町の星ヶ丘へ来ていた。
最初は、優都がこの事件を解決するのは難しいかと思っていた。一度潜入に失敗したとなると、難易度はぐんと高くなる。それでも優都は、あの屋敷で起こっていた事件を解決してしまった。
優都いわく、俺きゅんの愛のおかげ。などとふざけた事を言っていたが、実際は、大変だったと思う。家に帰ってきた優都の姿は、擦り傷だらけになっていたからだ。それ程までに、危険な領域に踏み込んだと言う、証だった。
優都「ユウの体はボロボロだからぁ、俺きゅんに支えてもらわないと、あーるーけーなーいー」
俺「ほら、もう集合場所だから腕に絡むな!」
優都「へ?」
俺達に手を振る柚葉とタナ子に手を振り返す。鞠華さんは微笑を浮かべて優雅に立っていた。
優都「えーっ!?デートじゃないのぉ!?」
俺「……探偵局で必要なものを皆で買いに行く。現地集合だって昨日の夜言っただろう?」
優都「…………」
がっくり。と、肩を落とす優都に苦笑する。
俺「しょうがないな。……ほら、行くぞ」
優都「……わ!」
優都の手を握って皆の所へ向かい、走る。
優都「俺きゅんっ!」
優都の表情が笑顔になる。
そして、皆の横を通過した。
俺「えっ!?ちょっと、優都!?」
いつの間にか俺が優都に連れられている形になる。
優都「抜け駆けしちゃえー!」
鞠華「やはり逃走を計りましたわね。追いますわ!」
俺「ちょ、優都!なんか黒スーツの人追ってきてるけどおおお!?」
優都「気にしない気にしない!」
二つの影が俺と優都の頭上を越える。タンッ!と、目の前に着地したのは。
柚葉「それはずるいよ、ユウちゃん?」
タナ子「ひとり占めはだめです!」
柚葉とタナ子だ。すっ、と立ち上がった二人から、逃がさない。と言う気迫が出ている。
優都「あっまーい!」
俺「うおっ!?」
それでも優都は二人を掻い潜り街中を走る。
探偵局のメンバーはもちろん、他の人にも迷惑がかかるから止めろと言いたい。言いたい、が。
繋いだ手。優都の手の甲にある傷を見たら、良いかと思ってしまう自分が居た。
俺「……甘いな、俺は」
楽しげに揺れる縦ロールの背中を見つめ、俺はそう呟いた。
BAD END
―ED15 街中逃避行―