16週目/スキップ/BAD ED15



>>鞠華さん今日はバイトか

俺と鞠華さんはショッピングセンターの中にある本屋でアルバイトをしている。
シフト表を取り出して確認すると、やはり鞠華さんはバイトに入っていた。

俺「でも今日は三時上がりか」

時計を見ると、時刻は一時三十分。ショッピングセンターで時間を潰せば、あっという間に三時になるだろう。
鞠華さんの都合が良ければ、行きたい所があった。あらかじめ約束をしていた訳ではないから、都合が悪ければまた今度にすれば良いだろう。そう自分を納得させ、支度もそこそこにショッピングセンターへ向かった。

俺(やっぱり日曜日はお客さん多いな)

適当に時間を潰し、三時まで後、二十分。微妙な時間だな。早めに行って裏で待機してるのも有りか。と思い、本屋に向かう。

鞠華「ありがとうございました〜。……大変お待たせ致しました。お次のお客さまどうぞ〜」

本屋も忙しいはずだが、鞠華さんの醸し出す雰囲気のせいか、どこかゆったりとしていた。かと言って鞠華さんの作業が遅い訳ではない。寧ろ、手際が良い。隣の男子高校生なんかはテキパキやろうとしている雰囲気はあるが、実際は手際が悪い為、鞠華さんより処理が遅い。

鞠華「二千六百円でございます」
俺(ん……?)

男性が中々お会計を済ませようとしない。にこりと微笑んでいた鞠華さんの表情も、若干曇っていく。

鞠華「あの〜……きゃっ!?」
俺「あっ!」

おい、嘘だろ。男性がお会計を済まさずに雑誌を持って走り出した。慌てて鞠華さんが追いかけようとしたが、隣の男子高校生とぶつかって尻餅をついてしまった。男子高校生は必死に謝っているが、それよりも道を開けた方が良いんじゃないだろうか。

俺「ったく。しょうがないな」

男性は動転しているのか、お客さんにぶつかりながら走っている。お客さんには申し訳ないが、日曜日で良かった。走りづらそうにしている男性に近付く。人の波を避けて走るのなんて、普段の侵入に比べれば簡単なものだ。

俺「それ、お会計済ませてないですよね?」
男性「ひっ!?おっ、おれはっ」

男性の手から二冊の雑誌が落ちる。

俺「…………」
男性「別におれはコレが欲しかったんじゃないっ!たっ、ただ、あの子が、これを見たらどう言う反応をするのか見たかっただけなんだ!!信じてくれ!盗むつもりは無かったんだっ」
俺「…………」
男性「実際にレジまで行ったら、いらないなんて言えなくなっちまってよ。なぁ、同じ男ならわかるだろう?なっ?なっ?見逃してくれよぉ」

こいつ、アホか。

俺「店長、エロ雑誌窃盗犯確保です」

追いかけてきてくれた店長にそう言って男性を引き渡す。

店長「ありがとうね、俺君。さ、ちょっとこっちに来てくれるかな?警察呼ぶから」
男性「だから!盗む気は無かったんだって!!あの子の反応が見たくて……」

店長が男性を連れて行く。俺は取り残されたエロ雑誌と睨めっこした。持って帰らなきゃ、まずいよな。
気恥ずかしさを押さえて拾う。

鞠華「俺くんっ!」
俺「っ、鞠華さん!?」

拾ったばかりの雑誌を動揺のあまり落としてしまった。バサバサッ!落ちただけに留まらず、中身が見えるように開いている。

鞠華「きゃあっ!?」

鞠華さんが両手で顔を覆う。

俺「うわっ!あっ!?すげぇじゃなくてすみませんっ!!」

エロ雑誌を慌てて閉じる。
あれ?でも、鞠華さんレジ通してた時は普通だったよな。

鞠華「そっ、そう言った本……でしたの?」
俺「あ……気付いてなかったんですね」
鞠華「えっ、ええ……」

恐々と指の隙間から俺を伺う鞠華さんの顔は朱に染まっている。

1 俺が片付けておきますね
2 これだからお嬢様は……

>>俺が片付けておきますね

鞠華「あっ、ありがとうございます、俺くん」
俺「いえ」

そう言って笑うと、少し落ち着いたのか鞠華さんも微笑ってくれた。

俺(…………)

俺は、あの男性と同等になりたくない。なりたくない。が。

俺(鞠華さん、可愛かったな)
鞠華「俺くん」

ドキリ。と、心臓が跳ねる。
やましい気持ちがばれたのかと冷や汗をかきそうになるが、そんな筈もなく。

鞠華「あの、今日はどうしたんですの?アルバイトは、お休みだったと……」
俺「ああ、それはですね」
鞠華「どなたかと……ご一緒ですの?柚葉さん、とか」

心なしか鞠華さんの表情が暗い気がする。

俺「いや、どちらかと言いますと、鞠華さんとご一緒したいなぁと思いまして」
鞠華「えっ?」

鞠華さんの表情が固まる。
ちゃんとしたお誘いじゃなかったから、気分を悪くしてしまったのだろうか。

俺「すみません、急に。また今度に」
鞠華「いっ、いえ!違いますの!」

鞠華さんにしては珍しく大きな声でそう言ったものだから、少し驚いてしまう。

鞠華「あの、その〜、申し訳ありませんわ。まさか、わたくしをお誘いしていただけるなんて、思っていませんでしたの」
俺「鞠華さんとじゃないと、意味が無いですから」
鞠華「まぁ……そうなんですの?」

ふうわり。と、鞠華さんが笑う。頬に朱が混じった。

鞠華「あら〜?アルバイト、もうお終いの時間ですわね」

花の細工が施されている腕時計を確認して、鞠華さんがそう言った。
その後は何の問題も無く、鞠華さんが帰り支度をし、俺はエロ雑誌を元の場所へと戻した。

鞠華「それで、どちらへ行きますの?」
俺「着いてからの、お楽しみですよ」

ざぁ。と、風が頬を撫でた。
俺と鞠華さんが来たのは、月ヶ丘の人気スポットの一つ。海の見える高台。でも、この場所の人気はそれだけじゃない。

鞠華「まぁ……。一面お花でいっぱいですわね〜」
俺「喜ぶのはまだ早いですよ。鞠華さんの夢を、叶えて差し上げます」

昔、鞠華さんに将来の夢を聞いた事があった。その時の鞠華さんは、複雑な迷路に迷い込んだような表情をしていたのを覚えている。
家柄、家督。
目的、目標。
夢と、現実。
鞠華さんにはしがらみが多過ぎた。
自分がしなければいけない事はわかっている。でも、自分が本当にしたい事はわからない。家の為に生きてきた自分なら迷わず、家督を継ぐと答える。でも、わからない。鞠華としての夢は、わからない、と。言っていた。
俺は、もう一度鞠華さんに聞いた。やってみたい事はありませんか、と。
鞠華さんは少し考えてから、一つ、やってみたい事を答えてくれた。
お花畑に埋もれたい。
そう答えてくれた鞠華さんに、それも、一つの夢ですよ。と、言うと。

鞠華「わたくしの、夢?」

僅かに震えた声で嬉しそうに言ってくれたのだが、今は。
迷いの音だ。

俺「覚えていませんか?……お花畑に埋もれたい」
鞠華「確かに言いましたわ〜。でも」
俺「お花を潰したくないから、所詮叶わない夢」
鞠華「覚えて、いますのね。でしたら、どう言ったおつもりですの?」

困惑している鞠華さんに笑いかける。

俺「鞠華さんの夢を、叶えるつもりです」

風が吹いた。青かった空は徐々に橙色になり、夕日が辺りを包み込む。

俺「ほら、もうすぐです」
鞠華「ふざけていらっしゃいます、の……」

二つの影法師が、お花畑に伸びた。
俺の影と、鞠華さんの影。

俺「どうですか?」
鞠華「くすっ。あぁ、確かに、わたくしがお花畑に埋もれていますわね」

ひらひら。と。優雅に鞠華さんが手を振ると、鞠華さんがお花畑の中で手を振る。
くるくる。と。美麗に鞠華さんが回ると、鞠華さんがお花畑の中で回る。
くすくす。と。上品に鞠華さんが笑うと、鞠華さんがお花畑の中で笑う。

鞠華「わたくしの夢、叶ってしまいましたわね〜」
俺「ははっ。ちょっと、ふざけてるかなぁ、とは思ったのですが」
鞠華「そんな事ありませんわ。わたくしの初めての夢を叶えてくださって、ありがとうございます、俺くん」
俺「喜んでいただけたのでしたら、何よりです」
鞠華「くすっ。嬉しくて、ずっとこうしていたいくらいですわ!」

夕日の中で笑う鞠華さんは清々しくて、とても、眩しかった。

俺「今日も依頼は無し、と。暇だなー」

ベッドに、ごろん。と、寝そべる。

1 普段行かない所に行くか
2 そう言えば、あの件
3 このまま寝る

>>普段行かない所に行くか

ちょっとした気分転換のつもりだった。
いつもの見慣れた景色じゃない、違う景色を見ようといつも通らない小道に入ってみた。歩みを進めて知らなかった世界を堪能する。
ちょっとした、気分転換のつもりだった。

俺「ここ、は……?」

気が付いたら、古びた神社の前に居た。月ヶ丘には有名な月ヶ丘神社があるが、そこじゃない。俺は、こんな神社は知らない。
ゆっくりと石段を上がる。古びてはいるが、きちんと手入れがされていた。ちゃんと管理している人間がいるらしい。
境内に入ると、ひやり。としたが、それも一瞬で、すぐに暖かい陽射しに包まれた。

?「……月ヶ守(ツキガモリ)神社に、何かご用でございますか?」

竹ほうきを持った巫女さんが境内に立っていた。薄水色の髪がとても綺麗だ。

俺「月ヶ守神社?」

やはり、そんな神社は知らない。が。どこかで聞いた事があるような気がする。

?「そのご様子」

巫女さんがゆっくりとした足取りで俺に近付いてくる。

?「どこかで……?」
俺「えっ、あの?」

ぴたり。と、巫女さんが止まった。その距離はとても近い。下から覗き込むかのように俺を見上げる深い青の瞳は、総てを飲み込むかのようで。
ザッ!
俺は思わず巫女さんから距離を取った。

?「ついていないようでございます」
俺「えー……っと」
?「こちらをどうぞ」

スッ。巫女さんが袂からお守りを取り出した。

1 受け取る
2 受け取らない

>>受け取る

俺「あ、ありがとうございます」

お守りを受け取ろうと一歩足を踏み出す。

俺「うおっ!?」

何かに躓いて体勢が崩れる。思わず目の前にあるものを掴んだが、それは脆くも崩れ。ドサリ。と、音を立てて地面に倒れ落ちた。
不思議な事に俺の体に僅かな衝撃はあったものの、痛くはなかった。寧ろ、柔らかい。

?「っ、う」

苦しそうな息が聞こえた。でも俺も、柔らかい何かが顔面を包んでいて息苦しい。柔らかい、何かが。柔らかい、何か、が?

俺「うっわ!?」

慌てて身を起こす。俺は何をやっているんだ。巫女さんを下敷きにした挙け句、その、むっ、胸に、事故とは言え、胸に、顔を埋めるなんて。

俺「すみません!すみません!」
?「いえ……。お怪我はございませんか?」

襟の合わせを直しながら巫女さんが立ち上がる。ぱさり。と、薄水色の髪が広がり、揺れる。

俺(……どこかで、最近見たような?)

そんな気がした、矢先。俺の瞳に袴とは違う赤が入った。巫女さんの左手を取る。かすり傷だが、血が滲んでいた。

俺「すみません、俺のせいですね」
?「大丈夫でございます。……間もなく日も暮れます故、お帰りを」
俺「手当てしたら、すぐ帰ります」
?「えっ?いえ、あの」

ポケットに入っている救急ミニセットを取り出す。
カーチャンがよくドジをやらかすから、常に携帯していたのが役に立った。簡単に消毒をして絆創膏を貼る。

?「この絆創膏……」

俺が貼った絆創膏は、男の持ち物としては不釣り合いな、ファンシー過ぎる絆創膏だった。疑問に思うのは当たり前だろう。

俺「ああ、それ。俺のカーチャンの趣味なんです」
?「貴方様の……母上の」

巫女さんが、ピンクのリボンがプリントされた絆創膏を見て微かに微笑う。やっぱり女性はリボンとかが好きなのだろうか。

俺「本当にすみませんでした。でも、貴方の言う通り俺、ついてないですね」

転ぶなんて情けない。柚葉が知ったら笑い出すだろう。

?「左様でございます。ですが、危険でございますからそちらをお持ち下さいませ」

手の中にあるお守りを大事に持ち直す。

俺「ありがとうございます。えっと……」

名前が解らない。巫女さんと、繋ぐべきか。そう考えていると、巫女さんは俺の考えを察したのか頭を下げた。

?「イザナミと、申します。俺様」

丁寧な態度に思わず俺も頭を下げる。そこで、気付く。どうして俺の名前を知っているのか。顔を上げてイザナミさんを見るが、何事もない顔をしていた。
巫女さんの、不思議な力。だろうか。

イザナミ「お手当て、ありがとうございました」
俺「いえ、こちらこそすみません。ありがとうございました」

イザナミさんに見送られながら石段をゆっくりと降りる。

イザナミ「道理で。ついていないのに、ここまで辿り着く訳でございますね」

俺の背中にイザナミさんがそう言ったが、俺の耳に入る事は無かった。

俺「今日も依頼は無し、と。暇だなー」

ベッドに、ごろん。と、寝そべる。

1 そう言えば、あの件
2 このまま寝る


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