16週目/スキップ/BAD ED15


〜三冊目〜

俺「あー……暇」

ごろごろ。ベッドの上でごろごろ。ごろごろ。
探偵局の依頼もタナ子が加わった事により効率良く依頼を解決する事ができるようになった為、未解決の依頼が無い状態だ。よって、やる事がなくて暇。

俺「うーん……」

1 タナ子と出かけてみるか
2 柚葉の家に行ってみるか
3 鞠華さん今日はバイトか
4 優都は後処理中だったか

>>優都は後処理中だったか

優都は主に男女間の依頼を受け持つ事が多い。基本は相手と別れたいとか、相手とよりを戻したいと言う依頼が来る。
確か、今回は女一人、男一人の後処理だったはずだ。別れたいと言う依頼内容だったから、もう付き合う必要が無くなった相手との関係を切る為に外出しているのだろう。

俺(暇だしな……たまには見てみるか)

優都の姿は自然公園で見付かった。大木に身を隠しながら覗き見る。優都と女がベンチの前で立っていた。
優都は男の格好をしている。どこか人目を引く華やかさがあるが、派手過ぎない格好。いい男だが、嫌味を感じさせない爽やかさも纏っている。
しかし場の雰囲気はと言うと、そんな爽やかさや華やかさとは程遠い。

俺(何やら怪しい空気だな)

女が泣き喚き、逆上している。

俺「あっ」

パァン!乾いた音が辺りに響いた。優都が女に叩かれたのだ。
優都は叩かれた頬を押さえるわけでもなく、ただ女を見つめる。女は、くしゃり。と、顔を歪めて走り去っていった。しばらくして女の姿が見えなくなって初めて、優都は頬に手を這わした。

優都「俺、居るんだろう?
俺「あー……うん、まぁ。その、ごめん」
優都「何謝ってるんだよ。これが、オレの決めたやり方だ」

優都は女が走り去った方向を一瞥してから歩きだした。俺もその後に続く。

俺「でも、毎回ぶたれてたら頬、もたなくないか?」

フッ。と、優都が笑う。

優都「バーカ。オレの顔は安くないぜ。そんな安売りはしねぇよ」
俺「え?」
優都「あの女の子は、こう言う嫌な事をバネにして強くなるタイプだ。彼女は、もっともっと、綺麗になる」

それこそ、別れた男が悔しがるくらいの、な。
そう言って優都は口角を上げた。

優都「……女の子が綺麗になるんなら、オレの頬くらい、幾らでも叩いてもらって構わないさ」

不覚にも、ちょっと格好いいとか思ってしまった。この時だけは。この時だけは、な。

俺「本当に、日中の格好良さはどこにいったんだよ」

夜の街で女装している優都が一人の男を見送った。俺もそれを建物の影から見送る。本当に、日中は少し格好いいとか思った自分に吐きたくなる。

優都「このまま自然消滅、かしらねん?」

ぽそり。と、優都が呟く。都合が良い事に、男は出張で数ヶ月は月ヶ丘に帰って来ないらしい。

男「おい、ユウじゃねぇか!?」

若干酔っていそうな男が優都の腕を引いた。

優都「きゃあんっ!ちょっと、何するの、よっ……あ」
男「暫らくぶりだなぁ。最近は、全然連絡くれないからよぉ」

ススッ。と、男の手が厭らしく優都の体を撫でる。

優都「ちょっ、ヤダ!止めてよっ」

1 ユウ!
2 優都!

>>ユウ!
男「オマエ、こういう服の趣味もあったんだな」
優都「えっ、どこ触っ、嫌だってばぁ!!」
俺「ユウ!」

俺は、何をしているんだろう。

優都「俺、きゅん……?」

男が、優都に触れているという事にとてつもない不快感と、怒りを感じた。気が付けば俺は優都を男から引き剥がし、男の頬を殴っていた。

男「ッテェな!何すんだよテメェっ!?」
優都「やっ、俺きゅんっ!」

男の拳が飛んでくる。
でも、遅い。遅い、とても遅い。
軽く避けると、男が意表を突かれたような顔をした。そのまま無様に伸ばされた腕を掴み、背負い投げる。

俺「うりゃぁっ!」

ドサッ!
男が地面に伸びた。

警官「おいそこ!何をしているっ」
俺「あっ、やべ」
優都「俺きゅん行くよ!」

優都に腕を引かれながら街中を走る。景色と共に流れる建物の光が星みたいだな、なんて思っていると頭に痛い衝撃。くらっ。と、一瞬視界が揺れて星が飛んだ。

優都「馬鹿っ!」
俺「優、都……?」

涙目の優都が右手を押さえながら俺を睨み付けている。

優都「危ないでしょ?怪我したらどうするつもりだったのっ?」
俺「…………」
優都「ユウなら、大丈夫だから。どうにでもできるから、あれくらい」

本当に、自分でもどうしてこんな事をしたのかわからない。
確かに優都の言う通り、冷静になれば優都ならどうにでも出来たはずだと思える。あの男の手を振り払うくらい、訳無いはずだ。
なのに、なぜか。男が優都に触れているという事に我慢がならなかった。衝動的な行動だったと、思う。

優都「でも……ありがとう。嬉しかったよ、俺きゅん」

そう言って穏やかな顔で微笑む優都に、俺の胸が知らない音を出した。

俺「今日も依頼は無し、と。暇だなー」

ベッドに、ごろん。と、寝そべる。

1 タナ子と出かけてみるか
2 柚葉の家に行ってみるか
3 鞠華さん今日はバイトか
4 このまま寝る

>>タナ子と出かけてみるか

俺「タナ子、外に出かけるか?」
タナ子「はいっ」

外に出て歩く。思わずタナ子と手を繋ぎそうになるが、思い止まる。タナ子はあまり子供らしさを出さない。手を繋ぐのは、嫌かもしれない。

タナ子「…………」

そう思考を巡らせている俺を、タナ子が微かに悲しそうな顔で見上げる。

俺「どうした?」
タナ子「いえ……あっ」

とんっ。と、タナ子に走り去る幼女がぶつかった。ぐらり、と体勢を崩したタナ子を受け止める。

俺「大丈夫か?」
タナ子「はっ、はいっ」
幼女「ないよぉっ、ないよぉっ」

俺とタナ子は顔を見合わせた。小さく頷く。

タナ子「どうしたんですか?」
幼女「ねこちゃんのピンがないのぉ〜」
俺「今日はどこで遊んだ?」
幼女「えっとねぇ、こうえん!あとねぇ、いっぱいおさんぽしたよ?」
俺「そうか。一先ず公園に」

そう言いかけた俺を、くいっ。と、タナ子が俺の服を引っ張って止めた。

タナ子「わたしに、任せてくれませんか?」

そう言ったタナ子の瞳には迷いが無かった。

俺「わかった。お前に任せるよ」

タナ子がくるり。と、俺から幼女に向き直る。ぱぁっ、と明るい笑みを浮かべた。

タナ子「そのお洋服かわいいですね」
幼女「えへへ。いちばんすきなやつなの」
タナ子「さわってもいいですか?」
幼女「うん!ふわふわしててきもちいいんだよ」

そうっ。と、タナ子が女の子の洋服に触れる。タナ子の瞳が揺れた。

幼女「おねぇちゃん?」
タナ子「……ふふっ。ふわふわですね。あなたにとっても似合ってます」

洋服を褒められて嬉しかったのか、幼女が頬を赤らめて笑うが、すぐに陰る。

幼女「ねこちゃん、みつかるかなぁ?」
タナ子「だいじょうぶですよ。わたしがみつけます」
幼女「ねこちゃんね、おにぃちゃんがくれたの。だから、すっごぉくだいじなの」
タナ子「そう、なのですか。……だいじょうぶ。みつかりますよ」

タナ子の自信はどこから来るのか。辺りを見回す訳でもなく、ただ真っすぐ歩いている。まるで、ねこのピンがある場所を解っているかのように。

タナ子「……ありました!」
幼女「ねこちゃんー!ありがと、おねぇちゃん、おにぃさん」

大事そうにピンを両手で持つと、女の子は走っていった。

タナ子「声が、聞こえるんです。わたしには」

俺の疑問を察したのか、タナ子はそう言った。

1 声?
2 は?

>>声?

タナ子「わたしが望もうと望むまいと」

伝えたいと言う意思があるのならば。

タナ子「存在するもの総ての声が」

聞こえるんです。

俺「そんな事が……」

ありえてしまうというのか。
それは、きっと素晴らしい能力だ。それなのに、そう言ったタナ子の顔は暗く。どこか、幼く。

俺「タナ子」
タナ子「……?」
俺「話してくれて、ありがとうな」

そう言って小さな手を握った。
俺の最初の心配は杞憂だったようで、タナ子は俺の手を振り払う訳でもなく寧ろ、しっかりと握り返してくれたのだった。


うるさかった。世界はうるさかった。
うるさいうるさい。
聞こえる音は望もうと望むまいとわたしの中に入ってくる。
ふさぎたかった。でも、ふさぐ術がなかった。
どうしてわたしに聞こえるのか。だれも教えてはくれない。だれも理解してはくれない。

?「お前、凄いじゃないか!」

そう言ってなでてくれた手は温かかった。いっぱいなでてくれた。

?「それってさ、俺の知る事のできない幸せの声も聞こえるんだろう?凄いよな!」

うるさかった。冷たかった。痛かった。
でも、聞こえる音が変わった。
心地よかった。温かかった。痛く、なかった。

?「無事依頼を解決できたな」

凄いぞ、タナ子。そう言って、ぎゅうっ。と抱き締めて、頭をなでてくれる。それがだいすきでした。だからわたしは、がんばりました。
何度も、何度も。何度も。
がんばり、ました。
それなのに。


俺「どっ、どうした?」
タナ子「っう、ぁ……ひっく」

いきなり泣き出したタナ子にどう接して良いのかわからなくなる。
握り返してきた反応は、子供らしいと思った、矢先の事だった。

俺「タナ子?」
タナ子「……ごめん、なさい」

ぴたり。と、泣き止む。
その顔は冷静で、落ち着きを払った顔。
何事もなかったかのように歩きだす。纏う空気は酷く大人びていた。

俺「今日も依頼は無し、と。暇だなー」

ベッドに、ごろん。と、寝そべる。

1 柚葉の家に行ってみるか
2 鞠華さん今日はバイトか
3 普段行かない所に行くか
4 このまま寝る

>>柚葉の家に行ってみるか

柚葉の家は飲食店を営んでいる。昼は食堂だが夜は居酒屋になる為、結構人気だ。
今は午前中。お店の前に行くとおいしい匂いがした。

俺「こんにちはー」

お昼時に間に合うよう仕込みをしているおじさんとおばさんに挨拶をする。おばさんが、柚葉ならいつも通り部屋にいるよ。と、言ってくれた。
小さい頃からの付き合いだからか、おじさんもおばさんも俺に良くしてくれている。だが、一応俺も男だ。正直、年頃である娘の部屋にほいほい上げても良いのかと思ってしまうが、相手が俺だし柚葉だしなぁ。と思い、小さく笑う。

俺「ありえないか」

実際の所、おじさんとおばさんは俺と柚葉が結婚すればいいと思っているなんて、俺が知る由もなく。

俺「柚葉、入るぞー?」

見慣れたドアを形だけのノックをして開ける。

柚葉「あ〜?俺ぇ?どうしたのさ、こんな夜中にぃ」
俺「あー……」

面倒臭い時に来てしまったようだ。
へらぁ。と笑う柚葉の顔は、疲労と楽しさが混ざった顔。手にドライバーを握ったまま、ぶんぶんと俺に手を振った。
柚葉は昔から工作とか料理とか、何かを作るのが好きだった。出来上がりもかなり良く、柚葉はあくまでも趣味。なんて言っているけれど、特技と言っても差し障りは無い。が。

俺(柚葉の徹夜モードか……)

一つの事に熱中するタイプだからか、一度集中すると基本的には完成するまで止めない。徹夜なんかも平気でする。が、それが結構問題で。

柚葉「こっち!こっちだよ俺っ」

座りなさいな。と、柚葉は床をぽんぽんと叩いた。散らばっている部品や工具を踏まないように避けて歩き、柚葉の指定した場所に、柚葉の隣に座る。徹夜モードの柚葉には逆らわない方が良い。好きにさせるのが一番だ。

俺(こう言う時くらいは、な)

柚葉は普段世話焼きで、我儘を言わない。他人に甘えると言う事もあまりしない。全部一人でやろうとしてしまう。もう少し俺を頼ってもいいんだぞ、と、いつも思う。
でも、徹夜モードの柚葉はちょっと緩いと言うか、わりと素直と言うか、頼ってくれるから嬉しかったりもする。ぐずると面倒だが。

俺「もうすぐお昼だぞ」
柚葉「ウソだぁ。だって外明るくないじゃん」

それは、作業に集中出来るように。って、自分で部屋に遮光カーテンを付けたんじゃないか。

俺「寝るか?それともご飯食べるか?」

にへらぁ。と、柚葉が笑う。俺の話を聞いてないな。

柚葉「次にどこか侵入する時にこの子を連れていってあげてよ」

柚葉が差し出したのは小型の、ねずみを模したメカだった。

俺「本当に柚葉は凄いな」
柚葉「ほんとー?」
俺「ああ。こいつの機能はどうなっているんだ?」
柚葉「それはねー……」

こて。と、俺の体に重みが加わる。柚葉がもたれかかってきたのだ。
コトッ。ドライバーが手から落ちた。作り主は電池切れか。と、苦笑する。

俺「また来るな」
柚葉「……や。かえら、ないで……よ」
俺「柚葉……」

これは困ったな。寝言に近いものだろうが、そう言われると帰りにくい上に、柚葉の手は俺の服をしっかりと掴んでいる。

1 また来るから、な
2 帰る

>>また来るから、な

柚葉「いー、やぁ……」

ぎゆっ。と、柚葉の手に力が入る。俺は溜め息を吐いてガシガシと頭を掻いた。

俺「わかったわかった。まだ帰らねーから布団で寝ろ。な?」
柚葉「はぁーい。俺はねー、柚菜(ユズナ)の次に好きだよぉ」

握られていた手が力なく落ちる。

俺「……っ」

柚菜。柚葉の、姉だ。

俺「ゆっくり、休めよ」

いつも通り柚葉を抱き上げて布団に寝かせる。

俺(柚菜ねーちゃん、か)

元気過ぎる柚葉と違って、柚菜ねーちゃんは体が弱かった。柚葉の世話焼き癖は、柚菜ねーちゃんが由来だ。幼いながらに良く病弱な姉の世話を焼いていたと思う。でも、あの頃の柚葉はちゃんと甘える所は甘えていた。

俺「柚菜ねーちゃんが亡くなってから、甘えなくなったよな」

俺達がまだ中学生だった頃。
柚菜ねーちゃんは亡くなった。
その時の柚葉の痛々しい慟哭は、今でも印象に残っている。
それから柚葉の世話焼き癖が強くなり、他人には頼らなくなったし甘えなくなった。

俺「その反動、か」

微かな寝息をたてて眠る柚葉の顔は、穏やかだった。
ふと時計に目をやると、俺が柚葉の部屋に来てから七時間が経っていた。そう言えば、おばさんが作ってくれたお昼ご飯を食べた後の記憶が無い。お腹がいっぱいなのと、やる事が無くて暇で。

俺「俺、寝ちゃったのか」
柚葉「んっ……」

微かに柚葉の顔が顰められ、薄く瞳が開いた。

柚葉「あれ……俺?」
俺「起きたか、柚葉」
柚葉「うん、あ、えっ?」

枕元の時計を掴んで覗き込むと、柚葉が深く溜め息を吐いた。

柚葉「もう夜じゃないか。あー、またあたし徹夜しちゃったのか」
俺「こいつ作ってたぞ」

ねずみを模した小型のメカを手渡す。

柚葉「うん。完成した所までは覚えてるんだけど、俺いつ来たの?」
俺「今日の午前中」
柚葉「……だめ。思い出せないや」
俺「いつもの事だろう?気にするなよ」

ごめん。そう言って柚葉は髪を縛り直した。

柚葉「ちょっと俺、服汚れてるじゃないか。洗っとくから脱いで」

言われて見てみれば、ソースの染みがついていた。お昼にこぼしたのだろうか。

柚葉「替えの服はいつもの場所にあるから。あと……お夕飯はどうする?食べてく?あたし作るよ」

ああ、すっかり普段の柚葉に戻っている。俺はそんな柚葉に苦笑した。

俺「今日も依頼は無し、と。暇だなー

ベッドに、ごろん。と、寝そべる。

1 鞠華さん今日はバイトか
2 普段行かない所に行くか
3 このまま寝る


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