14週目/探偵局ルートまでスキップ/BAD ED 12
〜二冊目〜
正直俺は困っていた。
ハッキングをやらせれば鞠華さんとタナ子はほぼ互角だった。
正直俺は、困っていた。
鞠華「俺くん!わたくし、良い考えがありますの」
何枚か書類を抱えた鞠華さんが、探偵局の活動場所である俺の部屋に入ってきた。書類をテーブルに広げて見るように促してくる。
俺「我が家の家宝を取り返してください」
鞠華「この家宝を盗み――取り返せるようにバックアップを上手くできた方が勝ち。と言うのはどうですの?」
俺「良い案だとは思います」
ぺら。と書類を捲ると、依頼主の情報とターゲットの情報が纏められていた。ターゲットである家宝とやらは、日本刀らしい。
俺「鞠華さんがこの依頼を通したと言う事は、またどっかの狸が無理やり奪った感じですか?」
鞠華「ええ。けれど、今回は女狐みたいですわ。お金と権力に物を言わせて盗ったそうですの」
俺「依頼主は由緒ある家柄の女性のようですけど……」
鞠華「二年前に落ちぶれてしまいましたの。落ちぶれたと言っても一般庶民の暮らしぶりはできる程度のはずですけれど」
依頼主は家屋を売り払っても家宝である日本刀は売りに出さずに守ってきた。しかしある財閥の女性がその日本刀をとても欲しがった。が、守ってきた日本刀を依頼主が譲る訳もなく。
鞠華「欲しいから強盗擬いなんて、不粋ですわね。わたくしが奪い返す事も社会的地位を無くす事もできますけれど……」
さらり。と言われる言葉が恐ろしい。鞠華さんなら本当にやってしまうだろう。本物のお嬢様は、やっぱり住む世界が違う。
鞠華「ここはやっぱり、俺くんに審判も兼ねて盗ってきてもらうのが良いと思いますわ」
両手を合わせて名案とばかりに鞠華さんが微笑う。大体無くし物や盗られた物を取り返す系の依頼は、鞠華さんが俺のバックアップで俺が取ってくるんだよな。
でもまぁ、事前に情報を集める作業と実際に現場でバックアップする作業は、俺がちゃんと取り返す事ができるかどうかに繋がる。バックアップしてくれる人の力量にかかっていると言っても過言ではない。打って付けといえば打って付けだろう。
俺「解りました。タナ子と鞠華さんの勝負はこれにしましょう」
鞠華「くすっ。お願い致しますわね」
普段ならば自分でも侵入先を調べたりするのだが、俺は純粋に二人の情報を頼る為に下調べはしない事にした。
1 タナ子から下調べを聞く
2 鞠華さんから下調べを聞く
>>タナ子から下調べを聞く
走る。走る走る。
潜入先は知っている。行った事がある。
タナ子「はぁっ……」
大きなお屋敷の広い庭に立ち並ぶ木々。そこにある一本の大木を選んで登ると、お屋敷が良く見えた。
タナ子「一、二、三、四、五……ぁ、守衛さん、すく、ない?」
どくん。と、心臓が跳ねる。
手が震える。
足が震える。
体が震える。
どうして、どうして。
タナ子「ちがうっ」
とんっ。大木にもたれかかる。体に力が入らない。心臓がどきどきとうるさい。落ちればただではすまない高さ。無理に動くのは得策ではない。
落ち着いて、落ち着いて。冷静に。
タナ子「……ぁ」
声が聞こえる。人では無いものの声。以前は怖かった声。でも、今は怖くない声。すごいと褒めてくれた、わたしの能力。
タナ子「そうなのですか?」
大木にそっと手を這わせる。また助けられちゃいましたね。少し心が落ち着いていく。
何か一つでも変われば小さく連鎖していき大きく結末は変わる。身を持って知っている事だ。嫌と言うほどに。
タナ子「お外の守衛さんが少なくて中の警備さんが少し多いんですね。ありがとうございます」
今では使われていない脱出口からお屋敷に侵入して内部を確認する。確かに警備さんの数が守衛さんより少し多い。ざっと数えて十人。お外の守衛さんも合わせたら十五人。
それでも前よりは少ない。それが吉と出るか凶と出るか。どう、変わってしまうのか。
タナ子(今度は教えてもらうんじゃない。わたしが、教える)
脱出口から出てお屋敷の外に出る、間際。
タナ子「っ!?」
見下ろす瞳。知らない警備さん。凄まじい圧力。
逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ。
バンッ!
俺「タナ子?」
荒々しく扉を開けて部屋に入ってきたタナ子は、擦り傷だらけだった。
俺「どうしたんだよそれ!大丈夫か?」
タナ子「だいじょうぶ、です」
乱れた呼吸を整えるように深く、ゆっくり酸素を吸ったタナ子は屋敷の警備について話し始めた。
外の守衛が五人。中の警備が十人。屋敷への侵入には脱出口が使える事。
俺「ありがとう、タナ子。でも無茶はするな」
タナ子「……はい」
そう言って俯いたタナ子はいつもより幼く見えた。
1 鞠華さんから下調べを聞く
2 突入だ!
>>鞠華さんから下調べを聞く
カタカタカタ。リズムカルにキーを叩き、わたくしにとってはなんの意味も持たない壁を突破していく。
お屋敷の内部構造を探るついでに女狐の会社も探ってみれば、出るわ出るわ悪事の数々。後で柚葉さんの叔父様――警視総監に伝えないといけませんわね。
タンッ!と、終わりの音を叩く。必要な情報は手に入った。後は俺くんが探偵局女子の部屋へ取りに来るのを待つだけ。と言っても俺くんの部屋の隣だからすぐに来てくれるだろう。
鞠華「……似すぎていますわ」
キーを指でなぞり思い出すのはタナ子さんとの最初の対決。
ハッカーとしての技術が、クラッキングの手口が、わたくしのそれと酷似していた。信じられなかった。誰から教わったのかと聞けば、優しいおねーさんが教えてくれた。としか言わなかった。
わたくしと同等の技術を持つ人間がいる。と言うよりも、わたくしがもう一人いるかのような感覚。それほどまでに能力が似すぎていた。キーから奏でられる音が、似すぎている。
鞠華「考えてもわかりませんわね〜」
溜め息を吐く。今まで出会したハッカーの中でここまでの技術を持った人はいない。だからこそ自分のこの能力は誇りであり、自信だった。でも、今は少し怖い。自分の立ち位置を脅かす存在が。
鞠華(でも、俺くんのバックアップなら)
負けませんわ。
どんなに技術があったとしても、幾つもの依頼を一緒に解決してきたと言う経験は埋められない。否、埋めさせない。
手にいれた情報をプリントアウトして纏める。
カチャン。
俺「鞠華さん、いいですか?」
俺の部屋の隣にある扉を開けると、鞠華さんが書類を作成している所だった。握られているホチキスを見る限りでは、もう出来上がったのだろう。
鞠華「こちらがお屋敷の見取り図ですの。赤い印の所にターゲットは保管されていますわ」
俺「ありがとうございます」
受け取った情報を手早く頭に叩き込む。
屋敷は四階建て。ターゲットが保管されているのは三階の北から三つ目の部屋。セキュリティは存在するが、鞠華
さんが居れば問題無いレベルだ。
俺「今回もお願いしますね、鞠華さん」
鞠華「もちろんですわ」
そう言った鞠華さんは花が綻ぶような微笑を浮かべた。
1 突入だ!
>>突入だ!
午前一時五十分。月ヶ丘探偵局のメンバーは某屋敷の近くに集合していた。月明かりの元、いよいよ屋敷に突入だ!と言いたい所だが、ちょっと待て。
俺「おい優都!なんだこれはっ」
優都「きゃはっ!俺きゅん似合ってるよん!かぁーっこーいーいー」
俺「マジふざけんな」
優都「だって地味だったんだもんっ!」
もん!じゃねぇよ。俺の黒を基調とした潜入用の服が優都の手によって改造されていた。
シンプル・イズ・ザ・ベスト主義の俺にとってこのコスプレのような衣装は鬱陶しい。無駄にバサバサしていたりベルトが付いていたりする。機能性の無い装飾なんて無意味だろ。
優都「俺きゅん素材は良いんだから、もっとかっこいいお洋服着れば良いのにぃ」
俺「だとしても、だ。何も今じゃなくて良いだろう」
今回は秘密裏に盗むのだから、見た目は重要じゃない。と言うより、見られると困るのだ。
タナ子「午前二時です」
鞠華「時間ですわね」
鞠華さんからいつも通り小型通信機を渡される。それを右耳に付けていると、鞠華さんが一歩俺に近付いた。
鞠華「闇ルートで違法物の取り引きも行っているみたいですわ。……お気を付けくださいね」
俺「ありがとうございます、鞠華さん」
軽く体を伸ばしてリラックスさせる。よし。行ける。
俺「行って来る」
柚葉「いつでも応戦できるように待機しておくから」
柚葉が愛用の刀を持ち直した。心強い。
俺「ありがとう。それじゃあ、鞠華さん、タナ子、バックアップよろしくな」
そう言って俺は駆け出した。
闇夜に紛れて、飛ぶ。
タナ子から教えてもらった大木から屋敷を見下ろすと、守衛の位置が丸分かりだった。
タナ子「あのっ」
俺「タナ子……!どうした?」
身軽な動作で登ってきたタナ子に少し驚きつつも、守衛の動きを目で追うのを忘れない。
タナ子「普通の警備さんと違う警備さんが一人います。気を付けてくださいです」
俺「そうか。わざわざありがとうな。皆の所に一人で戻れるか?」
こくん。と頷いたタナ子は静かに、また身軽な動作で降りていった。視線をタナ子から屋敷に戻す。
脱出口付近に守衛はいない。今がチャンスだ。素早く脱出口に入る。四方の石壁からひやりとした冷気を受けた。暗闇を僅かな光で照らす。
俺(ターゲットのある部屋は……)
1 三階の南から三つ目の部屋
2 二階の東から三つ目の部屋
3 三階の北から三つ目の部屋
4 二階の西から三つ目の部屋
>>三階の北から三つ目の部屋
脱出口を通り屋敷の内部に侵入する事ができた。警備の目を盗み、ドアの前に立つ。確か鞠華さんの情報ではこの部屋にあるはずだ。
ドアノブに触れようとした所で微かな機械音が耳に入った。手袋を外してドアノブに落とす。と。バチィッ!!青白い光に一瞬目が眩む。
俺「電流……」
鞠華『セキュリティをネットで管理しているのが運の尽きですわね〜。解除しますわ』
俺「お願いします」
ネットで管理しているのが運の尽きと言うが、今の時代ある程度の財力がある所のセキュリティはそう言う仕組みになっている。そのおかげで俺達はやりやすいが、一長一短な防犯だと思う。まぁ、鞠華さんの能力が桁外れと言う事もあるだろうが。
俺(しかし何が酷いって今のセキュリティシステムを築いたのが鞠華さんって言う点だよな)
鞠華『もう大丈夫ですわ〜』
俺「ありがとうございます」
手袋をもう一度手に馴染ませる。機械音はしない。ドアノブを回して部屋の中に入ると、埃っぽさにむせ返りそうになる。
俺(手入れが行き届いていないな)
無造作に置かれた品々は一目で素晴らしい作品だと解ったが、輝きを失っていた。ここの主人は恐らく作品を愛している訳ではなく見栄や質の悪い自己満足からの収集だろう。
比較的埃の被っていない日本刀を手に取って写真と照らし合わせる。間違いない。ターゲットだ。
俺「ターゲット入手」
鞠華『了解ですの』
後は屋敷から脱出するだけだが、まだ気は抜けない。ここで緊張の糸を解けば失敗へと繋がる。
警備「ここのセキュリティ、解除致しましたか?」
警備「いや、してないはずです。……こちら警備I班」
俺「――!」
まずいっ。まずいぞ。気付かれたかっ。ドア越しに警備達の声が聞こえる。
警備「中に入って確認をうぐぁっ!?」
バチチィッ!!扉の向こうで手袋を落とした時よりも激しい音がした。特殊加工を施してある俺の手袋ですらあの様だったのだから、素手で触ったらどうなるか。
俺(って、今は他人の心配をしている場合じゃないな)
取り敢えず鞠華さんがセキュリティを再始動してくれたおかげで今すぐここに警備が入ってくる事は無いだろうが、時間の問題だ。
タナ子『その部屋の左下に通気孔に似せた空洞があります。そこから脱出口に行けるはずです』
俺「了解っ」
脱出口に身を隠した所で、ドアが開いた音がした。足音を数えると四人分位だろうか。
俺(危なかったな。そう言えば警備の数は……)
1 何人だ?
2 確か十人だったな
>>確か十人だったな
人数を把握していたので警備の状況を掴みやすかった。脱出口を通りながら気配を伺う。
警備「あの部屋のセキュリティ、誤作動だったんじゃないか?」
警備「それならいいけどよ、もし泥棒とかだったら……」
警備「大丈夫だろ。何か盗まれたって気付かないさ。手に入れたら興味を無くすお方だ」
よし。そのままそう言う事にしてくれ。
しかし、警備が聞いて呆れるな。もっと良い人材を雇えば良いのに。と思うが、あの部屋の品々を思い出すとそれこそお金の無駄遣いかと思う。
俺(……別れ道だな)
1 このまま脱出だ!
2 三階の南から三つ目の部屋に行く
3 二階の東から三つ目の部屋に行く
4 二階の西から三つ目の部屋に行く
>>二階の西から三つ目の部屋に行く
このまま脱出する事もできるが、ちょっと気になる事もあるのでもう少し屋敷の中を探る事にした。
俺(普通の警備と違う警備か……)
タナ子がわざわざ俺に伝えてきたその人物がどんな人間なのか。少しの恐怖と、大きな期待を抱えて侵入した屋敷。けれど実際は、拍子抜けだった。
素人。とまでは言わないが、気配を消す事もできない平均的な能力の警備達。
俺(この部屋は……)
なぜが気になったのは、セキュリティがかかっていない部屋。とは言え何があるかわからない。俺は慎重にその部屋へ入り込んだ。
薄暗い部屋に幾つもの淡い光。それは、ぎっしりと立ち並ぶ。と、表現して良いくらいのおびただしい数のモニターだった。屋敷の中や周囲が映し出されている。
幸いな事に存在を忘れ去られていた脱出口や、皆が待機している場所は映し出されていない。
俺「ッ!」
空気の流れを感じ取り横へ飛ぶ。人の気配はしなかった筈だが、俺の頬を何かが横切った。予想外の出来事に焦りと期待が生まれる。
薄暗い、モニターの発光だけが頼りの部屋では相手を捉えにくい。それでもわかったのは青い制服と帽子。警備の人間だろうか。
タナ子『逃げてください!』
俺「いきなりど、くっ」
軽く、重い蹴り。その動きと抑えながらも滲み出る気配は、只者ではない。
俺(こいつは……)
1 逃げる
2 タナ子の言っていた警備か!?
>>タナ子の言っていた警備か!?
俺(まさか会えるとはな……)
本来ならば会わないのが得策だ。素性が知られる可能性が高まってしまう。だが、俺は会ってみたかった。
タナ子の言っていた普通じゃない警備。
帽子を目深に被っている為、表情は窺えない。
知りたい。どれ程までの能力を持っているのか知りたくてしょうがない。男か、女か。年齢は幾つくらいなのか。どの能力が秀でているのか。
?「…………」
タンッ!と、警備が床を軽く蹴り、俺との間合いをつめる。軽い身のこなし。それと同時に重い圧力が俺を襲う。ビリッ。とした緊張が皮膚に、脳に、俺に、走る。
俺(タナ子が感じたのは、これか)
確かに、普通じゃない。
面白い。面白い、面白い。体の内側から沸き起こる久しぶりの感覚。俺の興味を引く位のプレッシャーを放つ人間。どんな顔をしているのか見てやろうじゃないか。
俺(俺の間合いに入った!)
蹴り出された足を掴んだ瞬間。無線通信のようなノイズが入った。
無線『監視(ウォッチャー)!』
監視。恐らく目の前に居るこいつの事だろう。
無線『エリアEの状況報告をお願い致します!』
監視が足を引こうとする。が、そうは行くか。グイッ!と、そのまま足を引っ張る。
監視「くっ!?」
俺「あれっ?」
体勢を崩した監視が俺に倒れ込んできた。それを受け止めた。はずが、どうして、俺まで倒れるっ!?
後ろへと倒れる過程で監視の帽子が落ちる。ぱさり。と、広がる薄水色の髪。露になった瞳は深い青。背中が床に打ち付けられる衝撃と、顔を包む二つの柔らかい衝撃。
無線『監視!何か問題でも』
監視「エリアEは問題ございません!それよりそちらの新人指導はどうなっているのでございますかっ」
監視は素早く俺から離れて間合いを取ると、いつの間に拾ったのか帽子を深く被り直した。薄水色の髪は出たままだが、先程までの圧力は消えている。
起き上がりながら先程の二つの柔らかい衝撃を思い起こす。多分、合っているだろう。そして今聞いた声質。多分、合っているだろう。
俺「お前、女かっ!」
監視「それが、新人警備の態度。で、ございますか?」
俺「え……?」
監視「処罰致します。お屋敷の外周を七十三周」
俺「……え?」
監視「早くお行きなさい!」
ぽい。と、部屋の外に出された。
俺「なんか勘違いされたな」
しかしまぁ、何というか。ここは都合良く利用させて貰うか。
俺(胸、柔らかかったな……)
1 このまま脱出だ!
2 三階の南から三つ目の部屋に行く
3 二階の東から三つ目の部屋に行く