12週目/婚約者・イザナミルートまでスキップ/イザナミ ED 1


〜三冊目〜

あれから俺は外出する時に何かしらのお菓子を持ち歩くようになった。それはクッキーだったりチョコだったり蒸しケーキだったりと様々だが、総ては、またあの女性と会えた時の為。
雨が降って同じ場所で雨宿りをする確立なんて低いと解っておきながら、俺はそんな事を繰り返していた。

俺「変態か、っての」

自分でもちょっと気持ち悪いな。とは思う。名前もわからないあの女性に会えないかと期待する日々。
やはり期待は期待で終わり、その度にカーチャンと優都、柚葉が俺の作ったお菓子を食べる事になるのだが。

俺「今日は……」

1 図書館に行く
2 ぶらぶらする

>>図書館に行く

歩く度に水が跳ね踊る。鉛色の空からは、大量の水が降り注がれていた。

俺「……っと。休館日かよ」

図書館に着いたが、どうやら休館日だったようだ。仕方ない。家に帰るかと思ったのだが、誰かに呼び止められた。
その声は、会いたかった女性のもので。

女性「お久しぶりでございます」
俺「今日は一段と凄い雨ですね」

雨音が周囲の音を拾いづらくしている。女性に近寄ろうとした時、どこからか誰かの話し声が聞こえた。

?「マスターは渡しませんっ!」
?「貴方の使命を今一度、よくお考えなさい。ワタクシに構っているお暇がございますか?」

その声は、図書館の裏にあるテラスから聞こえた。けれど、どういうことだろう。二つ聞こえる声の内一つは、目の前の女性と同じ声じゃないだろうか?

俺「あの……」

じわり。女性の白い衣装が赤に染まる。右腕から、赤が広がっていた。

俺「どこか怪我してるんですかっ!?」
女性「大丈夫でございます。大したことはございません」

女性はそう言うが、この出血の量はただ事じゃないだろう。

女性「ッ!こちらへ。動かないでください」

ぐいっ。女性は俺の腕を掴むと、背中へと隠した。まるで、護るかのような。

女性「……このような時にっ」

そう言った女性の姿は、無くなっていた。否、空へと舞踊った。
幾つもの鈍い音がした後、体躯の良い男達が地面に落ちる。
ドサドサ、ドサリ。
八人の男達が一角に詰まれた。
すとっ。と、女性が俺の目の前に着地する。

女性「お怪我はございませんか?」
俺「俺は大丈夫です。それよりも」

女性の方が酷いだろう。
けれど、今の男達から受けた傷とは思えない。どこでこんな怪我を。

?「先程から集中していませんね?わたしを甘く見てもらっては困ります!」

大分興奮しているのか、はっきりとした大きな声がテラスから聞こえた。

女性「ッ、……く」

じわっ。と、女性の左腕からも赤が滲んだ。
これは、一体。

1 テラスに行く
2 テラスに行かない

>>テラスに行く

俺「これは……」

雨が降る中、女の子と、女性がそこには居た。

女の子「どうして、本気を出さないのですか」
テラスにいる女性「本気を出す相手を間違えているから、ではございませんか?」

テラスにいる女性も、俺の隣にいる女性と同じように怪我をしていた。女の子の手には青い短刀が握られている。きっと、あれが女性の怪我の原因だろう。

女の子「わたしでは、本気を出すに足らないと?」
テラスにいる女性「もう一度言いましょう。今一度、よくお考えなさい」

俺様を護る事。それが貴方の使命でしょう。ワタクシがいなければ、今頃俺様は隣国に渡っていた事でございましょう。
テラスにいる女性が、俺を見た。俺の名前を、呼んだ。この女性は、一体。

女の子「え……マス、ター?それに、イザナミが二人?」

イザナミ。それが、この女性の名前なのだろうか。
隣の女性とテラスにいる女性は瓜二つ。双子と言うよりは同じ人間と言う風にしか感じられない。

俺「イザナミ、さん?」

女性「はい。お呼びでございますか、俺様」

コツン。隣に居た女性が一歩、俺に近づいた。スッ、と、置き去りにしてきた俺の傘を開いて差し出す。
この靴音は、この声は、この顔は、覚えている。確かに女性のものだ。

イザナミ「申し遅れましたが、ワタクシはイザナミと申します」
俺「あ、俺と申します。あの、あちらの方は……」

テラスに居た女性の輪郭がぼやけて、消えた。
思わず受け取った傘を落としそうになる。イザナミさんとテラスの所に居た女性が居た場所を繰り返し見る。が、狐に摘まれた気分だ。

イザナミ「そちらもワタクシでございます。これからも、雨に宿りて先程のように俺様をお護り致しましょう」
女の子「先、程?」

女の子は、ぼぅ。としたかと思うと、はっとした顔付きになりイザナミさんを見た。

イザナミ「解りましたか?貴方の相手はワタクシではございません。けれど、百分の一のワタクシと言えども傷を付けた事……」

腕を上げましたね。
フッ。と、優しくイザナミさんが微笑った。女の子も微笑う。

女の子「イザナミ……」
イザナミ「でも、甘い」

イザナミさんの手が俺に伸びる。

1 マスター!
2 えっ?
3 イザナミさん?

>>イザナミさん?

ぎゅっ。と、抱き締められた。
思いがけない事態に体が硬直する。耳元で、小さく囁かれた。

俺「……えっ?」

体を離される。俺の疑問には答えてくれないようだ。

イザナミ「貴方は、もっとワタクシを警戒なさい」

イザナミさんは女の子を真っ直ぐ見据えてそう言った後、その視線を空へと向けた。
気が付けば大雨は小雨に変わっていた。今すぐにでも止んでしまいそうな程弱々しい雨になっている。何となく、この雨が止んでしまったらイザナミさんはいなくなってしまう気がした。

女の子「イザナミ?」
イザナミ「必ず、俺様をお護り致しなさい」

イザナミさんは女の子にも何か耳打ちをすると、優しく頭を撫でた。

イザナミ「お別れでございます」

ぼんやり。と。イザナミさんの姿が薄れて揺れる。
直に雨も止むでしょう。イザナミさんのその言葉通りに雨が止む。
そして、イザナミさんの姿は無くなっていた。

女の子「マスター……」

女の子が遠慮がちに近寄ってくる。俺は目線を合わせようと屈んだ。瞬間。
ゴッ。と、鈍い音がして額に痛みが走った。

俺「痛っ!」
女の子「だっ、大丈夫ですかっ?」

女の子も痛かったのか、額に両手をあてている。最近の子は挨拶代わりに額をぶつけてくるのだろうか。なんて思っていると、妙に頭がすっきりしてきた。
そして、一気に情報が頭の中を駆け巡る。

俺「……どうして、俺は忘れていたんだ」

目の前にいる女の子の事。そして、俺が現在置かれている筈の状況。忘れられるような、簡単な出来事では無かったはずだ。

女の子「マスターが、望んだから」

そうだ。俺は逃げたんだ。自分の世界が変わるのが怖かった。
そのせいで。

女の子「でも、わたし、だめですね……」

隠し切れませんでした。
そう言った女の子は、いつか見た時のように小綺麗な格好。ではなく、何もかもがぼろぼろで。俺がそうさせたのかと思うと許せなかった。

俺「ごめん……ありがとな。もう十分だよ」

逃げるのはお終いだ。
俺は選ばなきゃならない。
女の子と一緒に家へ帰ると、カーチャンは総てを察したのか話し始めた。

1 ごめんなさいね
2 その子、だけど
3 イザナミに、会ったの?

>>イザナミに、会ったの?

俺が頷くと、カーチャンは瞳を細めて笑った。イザナミさんとはどういう関係だったのだろう。

俺「イザナミさんとカーチャンって……」
美琴「イザナミは私にとってお母様で、お姉様で、お友達だったの」

そして、私の憧れだった。
そう言ってカーチャンは自分の髪を撫でた。少し、イザナミさんの雰囲気に似ている気がした。

美琴「私のお母様は、私を産んですぐに亡くなってしまったのよ」

でも、イザナミが私の事をお母様のように育ててくれて、時にはお姉様のように指導してくれて。ある時は良いお友達のように相談に乗ってくれたわぁ。

美琴「だから私は、寂しくなかった。イザナミが居てくれたから」

そうか。俺がイザナミさんにどこか懐かしさを感じたのは、どことなくカーチャンに似ていたからか。って、待てよ?なんかおかしくないか?

俺「なぁ。イザナミさんの年齢って……」
美琴「ああ、ヒューマノイドは人間より寿命がうんと長いのよぅ。そうね……実際は見た目の年齢かける五くらいじゃないかしらぁ?」
女の子「ふふっ。わたしはマスターよりおねーさんなのです」
俺「マジかよ」

目の前の女の子が俺より年上だなんて信じられない。

女の子「でも、わたしはずっと眠っていたので、実際の稼働時間は九年と六十七日です」
俺「ならお前は俺より年下だな」
女の子「そうなのですか?」
俺「そうだ」

はっきりと言うと、女の子は納得したのか何も言ってこなかった。実際はどういう扱いになるのか知らないが、取り敢えず俺より年上と言うのは嫌だ。

美琴「そう言えば、この子は命名付けがまだだったわねぇ」

命名付け。
女の子は俺の事をマスターと呼んで従っていたが、実際は名前を与える事によって正式に主従関係が結ばれるらしい。

美琴「愛称と、他人に知られてはならない本当の名前を、愛名(マナ)を付けてあげなさい」

主では無い人間が愛名を呼んでしまうと、主従関係が移り変わってしまうらしい。

俺「愛称は……本棚から取ってタナ子だな」
美琴「愛名は、二人っきりの時に付けてあげるのよぅ?」

愛名を付ければ正式に主従関係が結ばれる。それは、この女の子を俺に縛り付ける事にならないか?

俺「ああ。良く考えて付けるよ」

これは、嘘だ。俺は、この女の子。タナ子から自由を奪いたくない。

俺「なぁ。一つ良いか?俺とイザナミさん。昔会った事無いよな」
美琴「無いわよぅ」

これも、嘘だ。俺は、イザナミさんと会った事がある。記憶じゃない。心がそう言っている。

俺「そっか……。ありがとう、カーチャン」

俺は自分の部屋に戻るなりベッドに身を投げた。
コツ。何かが窓に当たった音がした。視線を向けるが、何も見えない。

1 無視して寝る
2 誰だっ!?
3 ねこか?


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