11週目/婚約者・美琴ルートまでスキップ/イザナミ ED 4


>>ぶらぶらする

今日は特にする事もない。家に居ても暇だしぶらぶら散歩でもするか。
外に出ると暖かい陽の光が体に染みた。
どこに行こうかな。何て考えながら歩いていると、ぽとり。頬に冷たいものが落ちてきた。空を見上げる。

俺「げっ。雨かよ」

いつの間にか鉛色へと変えていた空からは、幾つもの雫が落ちてきている。とりあえず雨宿りをしようと近くの建物へと向かった。
そこは通いなれた図書館だったが、生憎今日は休館日。中には入れないが、入り口で雨が止むのを待つ事にした。ただ雨を見つめていると頭が、ぼーっとしてくる。
コツン。
靴音にはっとすると、女性が横に立っていた。薄水色の髪が印象的だ。

1 雨宿りですか?
2 こんにちは
3 ……。

>>雨宿りですか?

俺と言う先客が居たからか、女性はやや驚いた後、微かに微笑った。

女性「雨宿りでございます」

冷たい印象を受けていたが、微笑うと柔和な感じがした。ちょっと安心する。
女性を見てみると、現代ではあまり見慣れなくなった和装をしていた。和装と言うか、もろ巫女服みたいだったが、コスプレと言う感じはしない。そうだ。この女性から感じたのは正確には冷たさじゃない。
神聖さだ。

俺「あのー、巫女さんか何かですか?」
女性「その様な職分もございますが、ほぼ趣味でございます」

もしかして、ちょっとやばい人だろうか。

女性「主の趣味でございまして」

ああ、何だ。神主さんの趣味か。
まぁ、やっぱり神社と言えば巫女さんだし巫女服だよな。
優都が巫女服を着てた時は吐き気がしたが、この女性は綺麗だと思った。
俺、巫女服好きなのかもしれないな。

俺「寒くないですか?」
女性「問題ございません」

何だろう。待っている間暇だし、ただ黙っているのも気まずいからつい話しかけてしまうが、会話が続かない。
無音。にはならない。
降り止む気配を見せない雨を見て苦笑すると、女性が首を傾げた。

女性「何か粗相がございましたでしょうか」
俺「いえ。雨が止みそうに無いな、と」

女性は僅かに瞳を丸くすると、雨を見つめる。

女性「止んだ方がよろしいでしょうか?」

1 まぁ、そりゃあ
2 いや、そうでもないかも

>>まぁ、そりゃあ

そう答えると、女性は視線を斜め下に落とした。
俺は何かまずい事を言っただろうか。

女性「左様でございますか」
俺「いや、その、止まないと俺も貴方も帰れないじゃないですか」
女性「そうでございますね。直に止みますでしょう」

まるで、雨が女性の言葉を汲み取ったかのように弱まっていく。やっぱり巫女さんには不思議な力があるのだろうか。程なくして雨が止んだ。
喜びを分かち合おうと俺は視線を女性に戻す。と。

俺「あれ?」

雨が止んでいく様子に夢中になっていたとでも言うのか。
巫女さんの持つ不思議な力が働いたとでも言うのか。
女性はここに存在していなかったとでも言うのか。
そこに女性は居なかった。

俺「さっさと帰っちまった、ってか」

一時の雨宿りの仲だ。親しい訳では無いが、少し寂しさを感じてしまう。
不思議な人だったな、と思いながら俺は家へと帰った。

美琴「あら?俺ちゃん、不思議な香りがするわねぇ」

帰るなりカーチャンは俺を見てそう言った。

俺「ちょっと不思議な人に会ったんだ」

カーチャンは、じっ。と俺を見つめていたが、特に深くは聞いて来なかった。
とりあえずカーチャンが用意してくれたお風呂に入り、その後はいつも通りに過ごした。明日は何をしよう。そんな事を思いながら眠りに就けば、すぐに明日はやってきて。

俺「今日は……」

1 図書館に行く
2 ぶらぶらする

>>ぶらぶらする

特に予定も無いので気ままに散歩をする事にした。
ぶらぶらと適当に歩きながら、俺は心のどこかでまたあの女性と会えないだろうかと思っていた。たった少しの間雨宿りをした間柄。特に会話が弾んだりした訳でもなかったが、あの女性は俺の中に強い印象を残した。
ふと空を見ると、青々とした世界が広がっていた。雨が降る気配はない。

俺「そう言えば、今日15日だよな」

商店街にあるケーキ屋さんで15日を苺とかけ、苺のショートケーキ半額セールをやっているはずだ。

俺「よし。行くか」

暇を持て余してぶらぶらしているだけだったが、ケーキ屋さんに行くという予定ができたな。

店員「ありがとうございました」
俺「ありがとうございます」

ケーキ屋さんから出た俺の手には白い箱が一つ。
中身を崩さないように水平を保ちながら歩きだすと、スウッ。影が落ちた。
太陽が灰色の雲に飲まれている。一雨来そうだ。走りたいが、箱の中身の事を考えると走りたくない。

俺「うわ、降ってきたか」

俺もケーキも濡れるのは御免だ。
一先ず雨宿りをしようと屋根のある場所を目指す。確かここからだと月ヶ丘公園が近いな。あの公園には、木で造られた屋根椅子テーブルのトリプルセットがあったはずだ。少し歩みを速める。と、すぐに目当ての場所に着いた。
ケーキをテーブルの上に置き、空の様子を伺う。

俺「通り雨っぽいな」

コツン。
雨音の中、はっきりとした靴音が響く。
振り返ると、薄水色の髪の女性が立っていた。

1 また、雨宿りですか?
2 奇遇ですね
3 雨女ですか?

>>奇遇ですね

そう声をかけると、女性は靴音を響かせながら近寄って来た。
また出会えるとは思っていなかった。嬉しくて緩みそうになる頬を引き締める。コツン。靴音が止んだ。

女性「奇遇ではございません」
俺「えっ?」
女性「雨宿りでございますから」

女性はさも当然と言う感じで、どこかつまらなさそうにそう言った。
確かにこの公園で屋根があって雨宿りができるのは、この場所だけだ。だとしても俺と女性が同じ日に同じ場所で再び雨宿りをする確立はとても低いんじゃないだろうか。

俺「いや、本当奇遇ですよね」

女性はただ立ち、雨を眺めている。
しん。無言の時が流れた。無音にならないのがせめてもの救いか。なんて思いながら雨が止むのを待つ。

俺「良かったら座りませんか?」
女性「どうして……は立ち座……拘……のでしょう」

雨音が一層強くなり、女性が何を言っているのか聞き取れない。聞き返すと女性はただ首を横に振り、それから静かに腰掛けた。
これはお近付きになれるチャンス。の様な気がする。何か、女性を引き留める事ができるものは無いだろうか。

俺(そう言えば、さっきケーキ買ったよな)

白い箱を見る。あの中には、苺のショートケーキと、キルシュトルテ。あと、プリン・ア・ラ・モードが入っている。
苺のショートケーキは、苺の甘酸っぱさが生クリームとスポンジの甘さを引き立てていて絶妙。
キルシュトルテは、さくらんぼの酸味とチョコレートの苦味が堪らない。
プリン・ア・ラ・モードは、プリンに生クリーム、果物と甘いものが色々食べられて文句無し。

俺(どれが良いかな……)

1 苺のショートケーキ
2 キルシュトルテ
3 プリン・ア・ラ・モード

>>苺のショートケーキ

ここは苺のショートケーキにしよう。無難だしな。
白い箱を開けて苺のショートケーキと、プラスチックのフォークを取り出して女性の前に置く。女性はケーキを見た後、俺を伺うように視線を向けた。

女性「こちらは?」
俺「良ければ召し上がってください」
女性「ケーキ、でございますよね」

まじまじと色々な角度から眺めた後、女性はそう言った。
もしかして、どこぞの宗教のように巫女さんにも食物制限とかあるのだろうか。

俺「食べられませんか?」

女性は暫く逡巡していたが、ゆるゆると首を横に振ると少しだけ笑ったように見えた。
ざぁ。と雨音が強くなる。

女性「有難く頂戴致します」

礼儀正しく頭を下げてから、女性はフォークを真っ白な面に刺し込む。それを見てから俺も、もう一つある苺のショートケーキにフォークを入れた。

女性「甘い……」

スポンジと生クリームを口に入れた女性がそう呟いた。
大人な女性だから、甘いのはあまり好きじゃないのだろうか。そう思ってちらり。と見てみると、口角が僅かながら上がっていた。良かった。と思い見ていると、苺を含んだ女性の柳眉が微かに。ほんの微かに寄った。

俺(そんなに酸っぱいか?)

自分の苺を口に含むと、生クリームの甘さには劣る。が、甘かった。ここの苺は酸味が強いはずだが、今日のはいつものより甘く感じる。
女性は苺をまるで処理をするかのようにさっさと食べると、スポンジと生クリームを食べ始めた。表情が和らいでいる。もしかして。

俺(人は見かけによらないって言うしな)
女性「有難うございました」

俺の考えを打ち消すかのように女性が凛とした声でそう言った。
すっ。と女性が立ち上がる。

女性「間もなく雨も止むでしょう」

女性の言葉に反応したかのように雨が弱まった。

俺「お別れですね。今度雨宿りする機会があったら、またお菓子を用意しておきます」
女性「そんな事をしていただくわけには」

女性が言い終わる前に俺は自分の言葉を押し付ける。

俺「甘いお菓子を、用意しますから」

そう言うと女性は少し瞳を見開いた。微かに頬が色付く。

女性「流石、ご聡明でございますね」

俺はそれに笑って返す事にした。
雨が止んで雲が晴れる。眩しいくらいの陽が公園に降り注いで目が眩んだ。

俺「晴れましたね。って、あれ?」

目が慣れて辺りがはっきりと見えるようになった頃、女性の姿は無くなっていた。

〜二冊目終了〜



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