10週目/婚約者・美琴ルートまでスキップ/優都 ED 16
〜三冊目〜
雨の音が廃墟内に響く。激しく地面を叩く音の反響。
廃墟と言っても窓とかはちゃんと付いているし、不況の煽りを受けて作り途中で終わった建物。と言うイメージを受けた。所々鉄骨が見え隠れしている。鉄筋の壁が酷く俺を威圧した。
俺「寒いな……」
ぐっしょり。衣服から水が滴る。軽く絞って辺りを見回してみる。
何回見回しても廃墟だ。
1 下に降りてみる
2 上に昇ってみる
3 このフロアを探索してみる
>>このフロアを探索してみる
一先ず自分の居るこのフロアを探索してみる事にした。
だだっ広いだけで、特にこれといったものは無い。
俺「あれは……」
隣の廃墟が邪魔でよく見えないが、洒落っ気全開の塔のような建物が遠くに見えた。あれは俺が住んでいる月ヶ丘にあるものだ。
俺「もしかして、隣街か?」
塔との距離からして、恐らく隣街と踏んで間違いないだろう。ここは、星ヶ丘だ。
俺「よくもまぁ走ってここまで連れてこれたもんだ」
カーチャンが、俺が居なくなったと気付いたとしても隣街に居るとは思わないだろう。助けを望めそうにない。
俺はどうしてこんな所に連れてこられたのか。
俺「さっぱりわかんねー……ん?」
灰色の床に一枚のカードが落ちていた。
俺「THE FOOL?」
それは、タロットカードだった。
タロットカードと言えば女装趣味の兄、優都くらいしか思いつかないが。
俺「まさか、な」
一先ずタロットカードを持ったままフロアを探索する。
行き止まり。否、横に階段があった。
奇妙な事に、またタロットカードが落ちている。
上に行く階段には、THE EMPERORのカード。
下に行く階段にはTHE EMPRESSのカード。
俺「俺の手にはTHE FOOL」
1 上に行く
2 下に行く
3 他の道を探す
>>下に行く
なんだか順番が違うような気がするが、大丈夫。カーチャンが付いていてくれるような気がして俺は階段を降りていく。
俺「って、マザコンかよ」
思わず笑ってしまう。でも、否定する気もない。
いや、でも、やっぱりマザコン。の域ではないと思う。カーチャンは大事にしたいと思ってはいるが。
とーん。とーん。自分の足音が反響する。
俺「そう言えば……」
前にタナ子が、俺を捕まえ、指定の場所まで連れてきた者を正式な婚約者にする。とか言っていたが、まさかここがそうじゃないよな?
俺「だとしたらタナ子が婚約者?」
いや、違うな。
今朝、タナ子が俺に忠告した言葉を思い出す。
誰が婚約者かわからないから、無闇に他人についていかないでください。と言っていた。
そんな事をわざわざ言ったタナ子が、こんな事をするとは思えない。
俺「お前が俺を連れ去ってどうするんだよ」
今一度冷静にタナ子の様子を思い出してみる。
確かにあまり喋る方ではなかったが、俺の言葉を無視した事など無かった。
それに、名前を読んだ時に一瞬だけ何かを言おうとしていた。けれど、何かに阻まれているような感じではなかっただろうか。
俺「手段を選ばないって事は使えるのならタナ子を使っても問題無いわけだよな」
つまり、婚約者である人間がどうにかしてタナ子を使って俺をここに連れてきた可能性が高い。
そこまで導きだした所で下のフロアに辿り着いた。
俺「THE WORLD」
お決まりのタロットカード。
1 扉を開ける
2 扉を開けない
>>扉を開けない
俺は手元にあるカードを見てみる。
THE FOOL、THE EMPRESS、THE WORLD。
昔、優都がタロット講座をしてくれた事を思い出す。
気になるのはTHE FOOLとTHE WORLD。
確か、こいつは始まりと終わりだったはずだ。俺が居たフロアに始まりが落ちていて、このフロアに終わりが落ちていた。多分、この扉が最終目的地だと暗示しているんじゃないだろうか。
あの時は適当に受け流していたけれど、もうちょっと真面目に優都の話を聞けばよかったな。
俺「……探すか」
俺の仮定があっているとすると、間のカードが足りない。改めて廃墟を探索する事にした。
俺「とりあえずこのフロアを探すか」
喋る相手もいないから無言か独り言の繰り返し。
雨の音は激しいままだ。
フロアを歩いていると、箱とカードを見つけた。
俺「THE MAGICIAN」
そのタロットカード一枚と、恐らくタロットカードをしまう箱が置かれていた。
タロットカードに箱があるのは当たり前の事だが、この箱は。
俺「優都のじゃないか……!」
だとすると、これは優都の愛用しているタロットカードになる。そんな、まさか。
優都が婚約者かもしれない。
そんな事よりも、俺は優都の相棒と言えるタロットカードがこんな扱い方をされていると言うのが信じられなかった。
あいつは、こんな扱い方をしない。
俺「けど、優都のだよな」
こんな扱い方をする必要があるのだろうか。
俺「…………」
1 カードを集める
2 戻って扉を開ける
>>カードを集める
嫌な予感を抑え、カードを集める。
順番を辿るとすると次は、THE HIGH PRIESTESSのはずだ。
そのままフロアを進むと階段に着いた。上に昇る階段には、THE HIGH PRIESTESSのカード。
拾って階段を駆け上がる。
俺「あった!」
次いでTHE EMPERORのカード。となると、THE EMPRESSはもうあるから一先ずここまでの道は揃った事になる。次のカードを目指して階段を駆け上がる。
駆け上がって駈け降りて。
建物を一周した所で、俺の手元には21枚のカードがある。
足元にはJUDGEMENT。このカードを取れば22枚。そして、目線の先にはTHE WORLDが落ちていた扉。
俺はカードを拾って箱にしまうと、扉を開けた。
俺「優都!」
雨の音だけがするその部屋に、優都の姿は無かった。
代わりに、薔薇の封筒と優都がいつも付けていた髪飾りが置いてあった。封筒の字は優都のものだ。開けると、便箋から微かに優都の香りがした。それは、今し方まで優都がここに居たと言う証拠で。
俺「なんだよ、これっ……」
俺きゅんへ。
きっと、俺きゅんがこのお手紙を読んでいる頃には、ユウはもう日本に居ないと思うなぁ。
ユウね、レイ爺に国なんて継がないって言ったの。そうしたら俺きゅんにその役目が行っちゃったんだよねぇ。
俺きゅんは、今まで通り過ごしたかったと思うのに、ユウのわがままでごめんね?嫌な思いしたよね。
ユウも俺きゅんも継がない。って改めてレイ爺に言ったんだけど聞いてくれなくってぇ。
どっちかが国に来るまで刺客?を送り続けるわい。とかふざけた事言ってね。
ユウの所にも人がいっぱい来た。その度にタイプHちゃんががんばってくれたんだけど、あの子が傷つくのも嫌だし、倒れていく人を見るのも嫌になっちゃったんだ。
何より、ユウのせいで俺きゅんに迷惑かかってるのも嫌だったの。
だからね、ユウが国を継ぐよ。最初からそうすればよかったんだけどねん!
国に行ったらもう二度と俺きゅんには会えなくなっちゃうから、ユウの大事なタロットカードと髪飾りを置いていくね。
寂しくなったらいつでもこれを見てユウの事思い出していいからねん。捨てたりしたらユウ怒っちゃうんだからねっ!
俺きゅんごめんね。でも、ユウの事、嫌いにならないでほしいなぁ。
俺きゅんのユウより。
俺「何勝手に決めてんだよ……」
恐らく、タロットカードを拾わせたのは国からの迎えが来るまでの時間稼ぎ。
冗談じゃない。
俺「馬鹿優都……っ」
冗談じゃ、ない。
美琴「俺ちゃん!」
タナ子「マスター!」
カーチャンとタナ子が走ってくる。
美琴「俺ちゃん、無事でよかったわぁ」
タナ子「申し訳ありません、マスター」
カーチャンとタナ子が何かを言っているが、俺には雨の音しか聞こえない。ずっと降り続ける雨の音しか。
世界が、真っ暗になった。
優都「早く起きないとユウのお目覚め攻撃しちゃうぞっ」
雨の音が止んだ。あれから降り続けていた雨の音が。
でも、優都は、もう居ない。だから、これは俺の夢だ。
せめて夢でくらい、優都に会わせてくれ。
優都「あっれぇ?本当にしてほしいのかな、俺きゅんは」
みしり。俺の体に重さが加わる。
リアルすぎる夢だな。
優都「それじゃあ、ユウがとぉっておきなやつをしてあげようかなっ」
ふに。唇に柔らかい感触。って。
俺「えほぁ!?」
優都「あっ。起きちゃった」
俺の上にしっかりと乗っかっている優都。夢じゃ、無かったのか。
優都「きゃはっ!俺きゅんお姫サマみたぁい」
なんで、どうして。聞きたい事はいっぱいあるのに言葉は声にならず音にならず。間抜けな鯉のように口をぱくぱくさせる事しかできない。
優都「俺きゅんがぁ、ユウが居なくなっちゃったショックで寝込んで目を覚まさないっていうからぁ」
優都がにっこりと笑う。
優都「ユウがちょぉっとレイ爺ビンタしたらやる気出ちゃったみたいでぇ、もうちょっと王様がんばるから帰っていいぞいって!」
だから帰ってきちゃった。
俺「馬鹿優都っ……」
優都が笑う。
俺も釣られて笑う。
部屋に入ってきたカーチャンも、俺と優都を見て笑う。
美琴「おかえりなさい、優ちゃん、俺ちゃん」
きっと今、俺は泣き笑いな顔をしているだろう。
Yuuto END ―ED16 王子サマ優都のビンタ―