10週目/婚約者・美琴ルートまでスキップ/優都 ED 16


〜二冊目〜

夢か、現実か。
俺と、カーチャンと、女の子。女の子の顔は、もうよくわからない。
俺が言う。

俺『俺はできれば今まで通りに過ごしたいなぁ、みたいな』

馬鹿だ俺。こんな事が起こって今まで通りになんて行くわけないだろ。

美琴『そうね。そうよね。それが良いわ』

カーチャンが哀しそうな顔をする。どうして、なんてあの時は思ったけど。
そうだよ。カーチャンはお爺ちゃんの国のお姫さまだ。だから、その息子の俺が国を継ぐ権利がある。

俺(カーチャンのせいじゃねぇよ……)

カーチャンは自分のせいだと、思ったのか。
確かにカーチャンの産まれが関わってはいるが、カーチャンが望んだことじゃないだろうが。

女の子『マスター、失礼』

女の子が動く。何を、なんて思う前に背後に回られて。

俺「……夢、か」

時計を見れば深夜2時26分。
今のは確かに夢だ。
でも、あの出来事が夢だとは俺に断定する事はできない。否、今はする気もない。
ドンガラガッシャーン!
深夜だと言うのにリビングの方から物音が鳴り響いた。

俺「おいおい夜中だぞ?」

1 怖いけど行くか
2 俺は何も聞いていない
3 寝る寝る

>>怖いけど行くか

こんな夜中に起きているやつなんて俺か優都しかいない。が、優都は今家にいないし俺も寝ていた。そうなると必然的に第三者の登場となってしまう。
強盗、ならまだ良い。凶悪殺人犯とかだったらどうしよう。いや、実際そうだったらどうしようなんてレベルの話じゃないが。
そろり。成るべく物音を発てないようにしてリビングへ向かう。
リビングの電気は点いている。扉を、開けた。

俺「……あれ?」
美琴「あら?」

そこに居たのは、なぜか未だにエプロン姿のカーチャンだった。
ある意味第三者と言えば第三者だが。

俺「何、してんの」
美琴「あらあら、起こしちゃったかしら?」

なんとカーチャンはダイエットをしていたらしい。痩せる必要なんか無いだろうに、本人はお腹周りが気になる。とのこと。
そして少々激しく動き過ぎて食器棚にぶつかってしまったらしい。

美琴「ごめんなさいね。気を付けるわ」

カーチャンは片手を頬にあてて申し訳なさそうに謝った。

俺「いや、カーチャン痩せる必要無いだろう、に」

そこまで言って俺はリビングに違和感を覚える。
リビングで動いて、カーチャンの事だから体勢を崩してキッチンに傾れ込んで食器棚にぶつかった。と言うのはわからなくも無い。
でも、だとしてもテーブルが引っ繰り返ってるのはおかしく無いだろうか。

俺「……カーチャン」
美琴「やっ、いたぁい!」
俺「えっ?ちょ、何やってんだよ!」

事もあろうに、カーチャンは割れた食器を片付けようと素手で拾い集めていた。

1 ああもう馬鹿っ!俺がやるから!
2 カーチャン……
3 コトン

>>コトン

背後から物音がして振り返ってみれば、引っ繰り返っていたはずのテーブルが元に戻っていた。ここには、俺とカーチャンしかいないはず。
おかしい。ありえない。
これは第三者の存在をほのめかしてはいないだろうか。
そこまで広くは無いリビング。ざっと見回してみても、やはり人影は無い。

美琴「俺ちゃん?」
俺「あ……って!カーチャン血だらけじゃないかっ」

じわじわ。カーチャンの指先が赤に染まっていた。
俺は簡単に手当てを済ませて再びリビングを見渡す。カーチャンは自分の部屋へ戻ったから、ここには俺一人のはずだ。
カキン。
日中に聞こえた音がした。外。それもすぐ、庭の方から。

俺「行ってみるか」

深夜の庭は日中とは違ってぽっかりと穴が開いているかのように真っ暗だ。
音はするが何も見えない。せめて厚い雲に覆われている月が出てくれれば少しは見えるかもしれないのに。

俺「何も見えないな……」

すぐそこにあるはず。
でも、届かない。俺には何かが足りないと言うのか。

俺「くそっ……」

俺は為す術もなく部屋へと戻った。
そして翌日。

俺「今日は……」

1 リビングに行く
2 図書館に行く
3 ぶらぶらする

>>図書館に行く

気晴らしに図書館へ行く事にした。
図書館は俺のお気に入りの場所だ。今日はどんな本と出会えるのか。そう考えるだけでわくわくしてくる。

俺「っと、あれ?」

休館日。
おかしいな。今日は休館日じゃない筈なのに。でもしょうがない。しっかりと休館日と言う札が掛かっているからな。
さて。どこに行くか、と踵を返す。

俺「あれ?」

1 あの淡い茶色の髪は……
2 あの子……!
3 おっ?

>>あの子……!

思わず振り返る。図書館の裏に続く細道を走り去る子供。はためく外套とあの小さなシルエットには確かに見覚えが合った。

俺「待ってくれ!」

休館日だが、無視して図書館の敷地内に入る。
カキン。断続的にあの音が聞こえる。この音は、あの子が発てている音なのか。
細道を抜ければ、図書館のテラスに出るはずだ。

子供「しつこいですね」

声が聞こえた。凛とした声。

子供「マスターは、渡しません」

金属音に混じる声。
どきり。とする。マスター、って、誰だ。

俺「……俺だ」

霞みがかって思い出せなかった女の子の顔。今なら、わかる。この声の主も。
テラスに入ると、幾人かが荷物のように地面に積まれ、女の子が冷たく見下ろしていた。

女の子「わたしが、護るから」

ぱさり。外套が取れた。と言うよりは切れ落ちた。
露になった女の子は、夢の中。否、始めて会った時の様に綺麗では無かった。それは容姿うんぬんでは無い。
髪は乱れ、顔は泥で汚れ、傷だらけだったのだ。

俺「おいっ!」

思わず駆け寄ると、女の子は瞳を見開いて俺を見た後、くるりとその身を翻す。

俺「待ってくれっ」
女の子「あっ」

ぱし。女の子の腕を掴む。

1 お前は、あの時の
2 手当てしよう。な?
3 どうなっているんだ?

>>お前は、あの時の

女の子「……思い出してしまったのですか、マスター」

やはり、あれは現実で良いんだな。

俺「一体どういう事なんだ?」
女の子「どう、とは」

マスターが望んだのではありませんか。
女の子が言う。

女の子「レイシス様は、婚約者を選ぶおつもりの無いマスターを見てルールを変えたのです」
俺「ルール?」

こく。女の子が静かに頷く。

女の子「マスターを捕まえ、指定の場所まで連れてきた者を正式な婚約者にする。その為の手段、状態は選ばないと」

俺は積まれている人を見る。これがきっと、手段を選ばずに俺を捕まえようとした人達。
背筋が凍る。俺の知らない所でこんな事が行われている。けれど、きっと。あの時から女の子は俺を護ってくれていたのだろう。

女の子「でも、マスターは平穏な日常を送りたいとお望みでした。ですから、ミコト様は内密に処理なさるおつもりでした」

俺は、カーチャンに、この子に、作り護られた世界で過ごしていたのか。
きっとあの夜も、カーチャンは俺を護ってくれていたのだろう。
そして今も、女の子はこんなになるまで俺を護ってくれたのだ。
なのに俺は、その行為を無駄にしてしまった。でも、知ったからには俺もしっかり受け止めたい。
そして、立ち向かいたい。
勝手すぎるお爺ちゃんやそのルール、俺は認めない。

女の子「でも、わたしは、失敗してしまいました」

俺が決意を固めている前で、女の子は沈んだ声を出す。

女の子「わたしは、マスターの日常を護れなかったのですね」

1 もう、日常なんて無かったんだ
2 そうだな
3 そんな事は無い。ありがとな

>>もう、日常なんて無かったんだ

俺の言葉に女の子が唇を噛む。自分を殴りたくなる衝動を押し殺して言葉を続ける。

俺「あの時から、もう。それなのに、俺の為に普通の日常を作ろうと、護ろうとしてくれてありがとな」
女の子「マス、ター?」

ボロボロの体を抱き締める。人間じゃない女の子の体はとても冷たかった。
もう隠れなくていいから。俺の知らない所で、俺のせいで。

俺「傷つかないでくれ……」
女の子「それが、お望みなら」

逃げない。俺はもう、逃げないよ。
帰り道。もう隠れてついてきてくれたりはしない。女の子は、俺の少し後ろを歩いていた。
家に帰り、カーチャンと女の子と話す。カーチャンは女の子と一緒に帰ってきた俺を見て少し驚いていたが、きっと何もかもわかったのだろう。微笑んで、おかえりなさい。と言ってくれた。

美琴「そう……ごめんなさいね、俺ちゃん」
俺「いや、俺こそ、俺のわがままでごめん。カーチャン」
美琴「わがままなんかじゃないわよぅ」

困ったようにカーチャンが笑う。
でも、子供はわがままなくらいが母親としてはちょうど良いのよ。と、続けた。

美琴「でも、これでやりやすいわぁ」
女の子「そうですね。マスターに隠す必要がありませんから」
美琴「それで……」

俺ちゃんの気持ちは?

1 よく、わからないよ
2 自分の人生は自分で決める
3 流れに身を任す、みたいな?


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