9週目/最初から/BAD ED 17
>>なんだか、おかしい
今朝から続くこの奇妙な感覚。
俺は、何かを知らないでいる。
家に帰るまでにカーチャンと幾つか会話をしたが、覚えていない。家事を手伝って、と言うカーチャンのお願いを断り、俺は再び外に出た。
夕暮れになりつつある空。
ふつふつと燃えるように浮かぶ疑心。これは、日常に見せ掛けた日常。ではないだろうか。
行くあてなど無い。無いけれど、俺は走る。見えない非日常の尻尾を掴む為に。
カキン。音がした。
日中とは違う音だが、同じ種類だと直感が告げる。
今度はどこから音がするんだ。近いのに遠いような感覚。
まるで俺の異常な行動を嘲笑うかのようにカラスが鳴いた。空を見る。カラスが夕日に向かって飛んでいく。黒いカラスが民家の屋根の上を飛び踊る。
俺「……は?」
違う。屋根の上で人と黒猫が争っていた。
黒猫が踊るかの様にその身を翻す。
違う。黒猫じゃない。小さいが、人だ。黒い外套を纏い、フードを目深に被っているため顔どころか性別もわからない。でも、人だ。しかも、あの背丈は子供だろう。
俺「――!」
屋根から大人が落ちる。お前も道連れだと言わんばかりに子供の腕を引っ張った。もつれ会う二つの影。
タンッ。大人の体を踏み台にして子共が蹴り上がる。
宙で一回転した後、ととん。と屋根の上に着地した。その拍子で子共のフードが落ちる。
俺「あれは……」
さら。長い髪がなびく。
夕日で顔は見えない。が、俺はどこかで見たことがあるような気がする。
1 追い掛ける
2 追い掛けない
3 どこで見たんだ……?
>>どこで見たんだ……?
最近見たような気がするのに思い出せない。どこで見たのか。
俺が見ている事に気が付いたのか、子供はフードを目深に被り直すと屋根伝いに飛び走って行く。
俺「待っ!」
俺も慌てて走り出すが、スピードが違い過ぎた。まるで、人では無い。
幾らか走ったものの、子供の姿は見えなくなってしまった。
けれど、一つ確信する。
これは夢では無い。そして、日常は非日常へと確かに変わっている、と。
ならば、俺が夢だと思っていたあの出来事は夢では無いんじゃないだろうか。
真偽を見定める為にも俺は家へと走り帰った。
俺「カーチャン」
夕飯もお風呂も済ませ、普段なら部屋でまったりしている時間だ。だが、俺は部屋でまったりなんてできず、リビングに居るカーチャンに話し掛けた。
美琴「なぁに?俺ちゃん」
微笑むカーチャンに、俺は出かかった言葉を飲み込む。でも、それじゃあ駄目だ。今、言わないと。
俺「話を、聞いてほしいんだ」
俺の、夢の話を。
夢の話だなんて、馬鹿げている。でも、カーチャンは馬鹿にするわけでも、笑うわけでも無く俺の話を真剣に聞いてくれた。
俺の話が終わっても、カーチャンは真剣な表情を崩さない。
美琴「俺ちゃんは、何を望んでいるの?」
俺「俺……?」
夢の中で、平穏な日常を願った。
けれど。
現実では、非日常を追いかけた。
1 俺は、平穏に過ごしたい
2 俺は、真実を知りたい
3 俺は、気持ち、悪いんだ
>>俺は、気持ち、悪いんだ
何かを望むと言うのならば、俺はこの気持ちの悪さをどうにかしたかった。
たった一日しか感じていないのに、正直気になってしょうがない。
美琴「そう……わかったわ」
俺「カーチャン?」
美琴「音が聞こえたりするのが気になるのよね?俺ちゃん疲れているのよ」
カーチャンは柔らかく微笑うとキッチンに引っ込んだ。
俺は、疲れているのだろうか。
美琴「はい」
コトリ。俺の前にマグカップが置かれる。
白い液体が湯気と共にゆらゆらと揺れる。カーチャンのホットミルクだ。
美琴「これを飲んで寝ちゃいなさい。きっと明日からは気にならなくなるわ」
口の中に甘い優しさが広がった。
温かさが体に染み渡るのに合わせて力が抜けていく。いつの間にか肩に力が入っていたようだ。
これなら、よく眠れる気がする。不思議な夢など見ないくらいに。
俺「ありがとう、カーチャン」
次の日から、俺はあの気持ち悪さを感じる事は無かった。カーチャンの言う通り、疲れていたのだろう。
いつも通りの生活。唯一気になる事と言えば、カーチャンが転んで怪我をする頻度が前より多くなった事だろうか。俺が直接見ているわけじゃないが。元々ドジなカーチャンだからな。
俺「あー、今日も平和すぎるくらい平和だなー」
俺は今、平穏な日常を送っている。
BAD END
―ED17 隠された出来事―