9週目/最初から/BAD ED 17


>>9週目/最初から

本棚を組み立てたはずが女の子ができあがった。

「いや、意味わからん」

組み立てていたのは何の変哲もないホームセンターで買ったスライド式本棚だったはずだ。

「取り敢えず…」

1 話しかけてみる
2 不気味だし無視で
3 カーチャンを呼ぶ

>>カーチャンを呼ぶ

この状況は理解できない。
ここはちょっとカーチャンを呼ぶか。
俺は部屋を出てリビングの方へ声を投げた。

俺「カーチャン!ちょっと来てくれ」
美琴「んもぅ。カーチャンじゃないでしょう?美琴ちゃんっ」

そう言いながらもカーチャンは俺の所へ来てくれた。
さすがにいきなり女の子を見せるわけにはいかないからな。

美琴「それで、どうしたの?俺ちゃん」
俺「その……」

俺は本棚を組み立てたはずが、女の子ができあがったことを伝えた。
すると、やはりと言うか、なんと言うか。カーチャンは怪訝そうな顔をしている。
ここはやっぱり見せないと駄目か。

俺「じゃあ、まぁ、見てよ」

部屋に入ると、カーチャンはちょっと戸惑ったようだった。そりゃそうだよな。俺もそうだったし。

美琴「あの、ね。俺ちゃんもお年頃だから、しょうがないと思うわよ」

ん?なんだ?
カーチャン、勘違いしてないか?

美琴「だから、止めたりしないわよ」

安心して。と笑うカーチャン。
いや、待ってくれ。違うんだって。

美琴「零都(レイト)さんもいないから、そう言う相談もできないのかもしれないけど……」

零都――どこをほっつき歩いてるのかわからない俺のオヤジだ。
だから、そう言う相談は優都とか友達としてたな。ってそうじゃなくて。

美琴「言ってくれれば聞くわよ、俺ちゃん」

待て待て待て。待って。
本当に違うんだよカーチャン。これはいかがわしいモノじゃないんだって。
しかし無情にも、カーチャンは微笑みを残して俺の部屋を出ていった。

俺「……最悪だ」

1 カーチャンに弁解する
2 こうなったら自棄だ
3 気分を変えよう

>>カーチャンに弁解する

このままここで過ごすなんて居たたまれない。居たたまれなさすぎる。
これから俺を見る目が哀れみか蔑む目だったらまだ良い。でもカーチャンはそんなことをしない。きっといつも通りだろう。
逆にそれはそれで辛い。ここはなんとしても弁解しなければならない。

俺「カーチャンっ!」
美琴「あらあら。もしかしてもう相談?零都さんともお話してないし心の準備が……」
俺「違うって!だから」

俺は再度説明したが、カーチャンは困惑している。
まぁ、その、あたり前だろうけど。

美琴「わかったわ。俺ちゃん、今は明るいから、後で、ね?」
俺「違うんだってカーチャン!!」

敗北した。
しかも夜の約束付きって俺もう死にたいんだけど。
部屋に戻って女の子を見る。
触ったらやっぱり本棚みたいに木の感触なのか。材料が木だからいくら見た目が人間の様でも柔らかくはないだろう。
頬に恐る恐る触れてみる。

俺「噛み付いたりしない、よな」

ぱちり。

俺「うああぁうわあっ!?」

女の子の目が開いた。

女の子「おはようございます。マスター」

しかも喋った。

女の子「わたしは、ヒューマノイド、タイプTです」

幼さを感じるけれど、抑揚の無い淡々とした声が告げる。

女の子「マスター、ご命令を」

1 これならカーチャンに弁解できるだろ!
2 詳しく話を聞かせてくれ
3 頭痛い、な

>>これならカーチャンに弁解できるだろ!

俺「ちょっと来てくれ!」

俺は女の子の腕を掴むとカーチャンが居るであろうリビン グへと向かった。
流石に動いて喋ればいかがわしいモノでは無いとわかってくれるはず。

俺「カーチャン、聞いてくれ!」
美琴「俺ちゃん?あら、その女の子……」

カーチャンはまじまじと女の子を見ると、感心したような息を吐いた。

美琴「最近のはよくできているのねぇ。これなら私のお手 伝いもいらないわぁ」
俺「だから違うって!」
女の子「…………」

パン!と、リビングと庭を繋ぐ窓が割れた。強盗か、と身構える。
女の子が窓の方へ行こうとしたが、カーチャンがそれを制した。

美琴「うふふ。わかっているわよ」

そう言うとカーチャンはエプロンの下から何かを取り出した。
ひゅん。カーチャンの手が銀の軌跡を描く。その軌跡は飛んできた何かを掴み、カーチャンの手の中に落ちる。
そこで俺はカーチャンが何を手にしていたのかやっと気付く事ができた。
あれは、時代劇とかで見たことがある。確か、十手とか言うやつだ。カーチャンのらしくリボンとかが付いてはいるが。そしてもう一つは黒い箱のような物だった。

美琴「この箱、壊しちゃおうかしら?」
女の子「だめです」

女の子が俺の想像以上に素早い動きでカーチャンに近寄る。あんな勢いで近寄られたら、いつものカーチャンなら 驚いて転んでしまう。はずなのに。
ひょいひょいとカーチャンは女の子を避けている。 こんなカーチャンを、俺は知らない。

美琴「貴方、レイシスから――あら?」

カーチャンの体勢が崩れる。その隙にと言わんばかりに女の子が飛び掛かった。

1 やめろ!
2 カーチャン!
3 これは夢だな

>>カーチャン!

俺はぺたんと尻餅をついているカーチャンと女の子の間に間一髪、と言った所で滑り込んだ。
ぴたり。と女の子の動きが止まる。

美琴「俺ちゃん!」

俺「カーチャン……」

俺を見上げるカーチャンの顔は、いつものどこか抜けているカーチャンの顔だった。俺の知っているカーチャンで少し安心する。

美琴「危ないじゃないのよぅ」
俺「それはこっちの台詞だよ」

ピシッ、と額を弾くとカーチャンは肩を竦めた。ことん。その反動でか、カーチャンの手から黒い箱が落ちる。
ヴゥン、と黒い箱から機械音がした後、人が映し出された。

俺「おっさん!?しかも立体映像っ!」

やたら長い白髭。
ころんとした体型。
そしてまばゆい頭部。

美琴「お父様……」
俺「えっ」

このおっさんが、カーチャンのオヤジ?
つまり俺のお爺ちゃん!?

爺「ミコトちゃんや。元気にしとるかの?ミコトちゃんが国を出奔してからガガッ年。やっと居所を突き止めたぞい」

落とした時の衝撃でか、機械の調子があまり良くないみたいだ。所々にノイズが交じっている。

爺「どうやら子供が二人居るみたいじゃのぉ?男の子がガガッガー。そこでな、我が国もそろそろ王の交替をしたくてだの」

国?王?まさか、カーチャンはどっかの国のお姫様だったとでも言うのか?

爺「俺君にだな、国を継いでほしいのじゃ」
俺「は……俺っ!?」

いやいやいや。なんで俺なんだよ。
普通は長男の優都だろうが。

爺「そう言うわけでの、婚約者を用意したから好きなおなごを選んで国に帰ってくると良いぞぅ」

婚約者?
いや、ちょっと、俺まだ結婚とか考えてないんですけど。第一付き合ったりとかも……。

1 なんで俺なんだよ!
2 夢だろこれ

>>夢だろこれ

お爺ちゃんのお話を聞き終わって、暫く放心してしまった。
どうにも、はい。そうですか。とすんなり受け入れるには俺の今までの世界から飛躍し過ぎているし、非現実すぎた。
そこで俺は一つの仮定と言うか確信を得る。
そう。夢だ、夢。

俺「これは夢だ」
美琴「俺ちゃん……そうよね」

そんな事いきなり言われても信じられないし困るわよね。
カーチャンは軽く瞳を伏せながらそう言った。
俺の夢ながらカーチャンの表情はとてもリアルだ。

俺「あ、うん。ちょっと信じられないというか、今までが普通だったからこの夢展開についていけないと言うか」

ごく普通の家庭に産まれて育って学校に通って。
ごくごくありふれた日常を送って。
それなのに、貴方は今日から一国の国を背負う存在です。婚約者を見つけなさい。なんて、そんな非日常に世界が変わるなんて夢でもない限りあり得ない。例え現実だとしても実感は愚か、信じる事もできない。

俺「俺はできれば今まで通り過ごしたいなぁ、みたいな」

夢とは言えこう物騒な世界は心臓に悪い。

美琴「そうね。そうよね」

それが良いわ。
カーチャンがどこか哀しそうに笑ったのが印象的だった。
そこで、俺の意識は途切れた。

俺「……夢、か」

ぱちり。瞳を開けると見慣れた部屋の天井。体を預けているものも馴れ親しんだベットだ。視線を部屋の隅に向けるとあの女の子も本棚も無い。
やはりあれは夢だったのだろうか。

1 すげぇ夢だったな
2 ……夢、だったのか?
3 …………?

>>……夢、だったのか?

自分でこんな展開はあり得ない。非現実的過ぎる。とは言ったものの、妙な感覚がした。
確かに内容は夢みたいだったが、感触や記憶がリアルだ。
一先ず考えるのは止めにして起き上がるか。と、体を起こした時、首筋にピキリと痛みが走った。

俺「っ、てぇ……」

寝違えでもしたのか。俺は首を擦りながら起き上がる。着替えを済ませてリビングへと行くと、思わず窓ガラスを見てしまった。やはり窓は割れてなどいない。

美琴「おはよう、俺ちゃん」
俺「あ、おはよう、カーチャン」
美琴「んもぅ!カーチャンじゃなくて美琴ちゃんっ」

こんな当たり前のやり取りをして俺は安堵する。ああ、いつものカーチャンだ。
やはり夢だったのだろう。
俺は朝食を済ませ、この纏わりつく夢を払おうと外へ出た。特に用事があるわけでも無いが、気ままに散歩と言うのもたまには良いだろう。
空を仰ぎ見る。快晴。だったらこの言いようの無い不快感も晴れただろうか。俺の心と同じようにどんよりとした空は何も答えてはくれない。
キィン。最近聞いたような音が聞こえて振り返る。何ら変わりの無い道。いつも通りの日常。の筈なのに。
どこか違うような気がしてならない。

俺「……なんだよ、これっ」

日常とは、一体なんなのだろう。俺は今日常を送っているじゃないか。
キィン。また、音が聞こえた。

1 辿ってみるか?
2 耳鳴りか?

>>辿ってみるか?

俺は日常を望みながら、日常の裏側を知りたいとも思っているのでは無いだろうか。
不快感が好奇心に変わる。
キィン。三度目の音。確かに、聞こえた。

俺「こっちか?」

細い路地裏。普段なら気にも止めないその道から、音が聞こえる。
ヤンキーの喧嘩だったらどうしよう。そんな考えも一瞬過ったが、きっとそんなものでは無いと言う確信があった。
この音が消えない内に、その音の元へ辿り着きたい。知らず知らずの内に足の歩みは速くなり、走っていた。息があがるのは走っているせいか、興奮からか。

俺「ここかっ」

道を抜けると商店街の通りに出た。
シン。何の音もしない。
俺の周りを流れるのは日常だった。

美琴「俺ちゃん?」

声がした方を向くと、買い物かごを片手にぶら下げたカーチャンが居た。
このカーチャンは、俺の知っているカーチャンだろうか。日常の。

俺「カ――」

ドキリ。カーチャンの手が俺に伸びる。その手は一体何を。
俺はそんな考えが恥ずかしくなった。
カーチャンは、優しい手つきで俺の額を白いハンカチで拭ってくれた。

美琴「どうしたの?すっごく汗かいているわよ」
俺「あ、いや、なんでも無い」

俺はどうかしてしまったのだろうか。
俺は、どうしてしまったのだろう。
汗は拭えたが、この感じは拭えない。
誤魔化すようにカーチャンの買い物かごを取った。

俺「買い物付き合うよ」
美琴「本当に?うふふ。嬉しいわぁ」

ちょ、恥ずかしいから商店街で堂々とスキップをしないでくれ!

美琴「あのお店に行きたいのよぅ」

1 八百屋さん
2 お肉屋さん
3 魚屋さん

>>八百屋さん

野菜と果物が所狭しと置かれている。
カーチャンが野菜を選んでいる間に、俺は果物を物色する。あの林檎がおいしそうだな。とか、あっちのメロンがおいしそうだな。とか思いながら見ていると、エプロンを付けた女性が苺を差し出してくれた。
ここの八百屋さんに行くと昔からのよしみからか、何かしら果物を食べさせてくれるんだよな。
見た事の無い人だが、格好からしてアルバイトの人だろう。俺が手を伸ばした瞬間。

?「みゃーお」

猫の泣き声がした。次いで黒猫が物凄い勢いで俺と女性の間を通過する。黒猫の通った道にあったはずの苺は無くなっており、思わず目だけで黒猫を追う。

俺「猫……?」

曲がり角を曲がる寸前に見えたのは黒猫。だが、本当に猫だろうか。四足歩行の体制だったが、猫にしては大きい気がする。
俺は、猫の鳴き声が聞こえたから猫だと思い込んではいないか。
視線を女性に戻すと、いつの間にか居なくなっていた。お店の奥に戻ったのだろうか。
俺は馴れ親しんだ八百屋のおばちゃんに声をかける。

俺「おばちゃん、苺ありがとな。でも猫が」

そこまで言い掛けた所で、おばちゃんの表情が不思議そうに俺を見ている事に気付いて言葉を切る。
なで。俺の頭を誰かが撫でた。

美琴「うふふ。ごめんなさいねぇ。この子ったら三ヵ月前に頂いた苺を偉く気に入っちゃったみたいで」

カーチャンがなでなでと俺の頭を撫でる。

八百屋「なんだいそうかい。なら、今日は梨じゃなくて苺にしようか!ほら、持って行きな」
俺「あ、ありがとうございます」
八百屋「いやだねぇ!急に改まっちゃって」

八百屋のおばちゃんは笑いながらバシバシと痛いくらいに俺の背中を叩く。やはりおばちゃんは最強だ。
けど、その痛さは、夢ではなく現実だと俺に告げる。

俺(この違和感はなんなんだよ……)

1 カーチャン、そろそろ帰る?
2 なんだか、おかしい
3 はいはい。これも夢


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