6週目/最初から/BAD ED 16


〜三冊目〜

タナ子が風邪を引いてから早数日。
すっかり元気になったタナ子は俺と、時々優都を交えて色々な所へ遊びに行っていた。

タナ子「俺にい、今日はどこに行きますか?」
俺「そうだなぁ」

近場の所はここ数日で行ってしまった。ここはちょっと遠出するか。
そう言えば、タナ子とまた水族館に行く約束をしていたな。

俺「今日は水族館に行くか?優都いないけど」
タナ子「行きたいですー!」

即答するタナ子に小さく笑いながら支度する。ちらり。とタナ子を見るとご機嫌だ。

俺「よし。行くか!」
タナ子「はいっ」

水族館に着くと、以前来た時よりは空いていた。

タナ子「ふふっ。今日は、俺にいと二人だけですね」
俺「そうだな、ぁ……?」
水族館は空いていた。と言うよりは、一ヶ所に人が集まっていた。

タナ子「ユウおねーちゃん……」
俺「げっ」
優都「はぁーい!ミスティック・ユウ、出張占いイン水族館だよぉ」

仕事で居ないと思ったら仕事先が水族館かよ。

タナ子「俺にい」
俺「タナ子?」

1 ドボォン!
2 ユウ……!
3 ユウおねーちゃん……
>>ユウおねーちゃん……

きゅう。とタナ子の細い眉が寄る。

タナ子「元気ないです」

タナ子にそう言われて優都をよく見てみる。いつものふざけたような笑みを振りまいてはいたが、確かにちょっと元気が無いというか、疲労の色が見えた。
そう言えば、優都は最近仕事が忙しいのかあまり家にいなかったな。帰ってきたとしても夜中だったりと遅かった気がする。

タナ子「心配です……」

しゅん。と落ち込むタナ子。
俺はそんなタナ子の頭をくしゃりと撫でる。

俺「心配しなくても大丈夫だよ、あいつなら」
タナ子「でも……」

むむむ。タナ子は暫らく何かを考え込んでいたが、不意に俺を見上げた。表情が明るい様子からして、何か良い考えでも浮かんだのだろうか。

タナ子「わたし、ユウおねーちゃんのためにうどん作りたいです!」
俺「うどん?」
タナ子「はいっ。わたし、ユウおねーちゃんがうどん作ってくれて、うれしかったのです」

うっ。きらきらとした瞳が俺を見つめる。
タナ子をここまで嬉しがらせた優都が若干憎いが、良いだろう。ここはタナ子の願いを叶えようじゃないか。

俺「よし。じゃあ軽く見て帰るぞ。帰りはショッピングセンターに寄ろうな」
タナ子「はいっ」

それから水族館を少し回ったものの、タナ子はもううどん作りの方に意識がいっているようだったので早々に切り上げた。
そして今は、ショッピングセンターの食品売場にいる。

タナ子「ユウおねーちゃん、何が好きですか?」

うどんの具の事を言っているのだろう。

1 んー?それはなぁ、俺だ
2 ちくわぶ
3 納豆

>>んー?それはなぁ、俺だ

ぱちくり。タナ子が瞳を見開く。

タナ子「俺にいですか……」
俺「冗談だよ。信じるなって」
タナ子「びっくりしました」

胸に両手を当ててタナ子が息を吐く。

タナ子「ふふっ。でも、ユウおねーちゃん、俺にいのことすきだから」

両思いですね。
屈託の無い笑みでタナ子がそう言う。しかしそれはすぐに少し陰り、でも。と続ける。

タナ子「わたしは、その……なんでもないです!」

本当にわかりやすい子だなぁ。俺はタナ子の頭を撫でる。

俺「だったら、俺も優都もタナ子と両思いだな」
タナ子「っ!」
俺「違う?タナ子は俺達の事嫌いか?」

ぶんぶんぶん。面白いくらいに一生懸命首を振る様子が面白くて、俺は噴き出した。それに釣られたのかタナ子も笑う。

?「二人でお買物とかずるぅーい!楽しそうだしぃ」
タナ子「ユウおねーちゃん!」
俺「え?……優都!」

振り返ると、頬を膨らませた優都が立っていた。ショッピングセンターに居るという事は、仕事は終わったのだろうか。

優都「二人だけでお出かけなんてずるいぞっ!ユウも一緒じゃなきゃ嫌ぁ!」
俺「はいはい悪かったな。で、優都、仕事は?」

終わったのならこのまま三人で一緒に帰っても良いが。そう思い優都を見ると、残念そうに肩が落ちた。

優都「今度はここで占いみたいなぁ?」
俺「そうか、あまり無理するなよ?」
優都「俺きゅんとたぁちゃんが応援してくれたらぁ、がんばれるみたいなぁ?」

ばっちん。優都がウインクする。しょうがない、今日くらいは良いだろう。

俺「もう少しだ。がんばれよ、優都」
タナ子「ユウおねーちゃん、がんばってくださいね」
優都「うんっ。ユウがんばっちゃうよん!今日はもうここで終わりだから、早く帰るよぉ」

そう言うと優都は手を振りながら人混みへと混じっていった。恥ずかしいやつだが、本当の所は嫌いじゃない。

俺「よし。材料買って帰るぞ、タナ子」
タナ子「はいっ」

うどんに必要な具材を買い、家へと帰った。
さて、と。うどんを作るといっても茹でて切るだけだが。

俺「タナ子はこれを頼む」

1 クッキーの型
2 玉葱
3 チョコレート

>>玉葱

外の皮を向き、半分切った玉葱をタナ子に渡す。

俺「これを切ってくれるか?」
タナ子「はいっ」

小さい包丁をタナ子に手渡してあれやこれやと指示を出す。正直な所、俺がタナ子に付きっきりになってしまうから効率は悪い。
でも、今はタナ子に色々な事をさせてあげたいし、優都への思いも大事にしてあげたい。

タナ子「……んっ」
俺「駄目だ!その手で目を触るなっ」
タナ子「えっ?」

言うのが少し遅かったか。
タナ子の瞳が薄い水に覆われた。じわじわ。と、それはタナ子の気持ちとは裏腹に溢れていく。ぎゅっ、と細い眉が寄った。

タナ子「っう、俺にぃ、いたい、です……っ」
俺「馬鹿っ、あ」

タナ子の涙を拭おうとした手を止める。俺もタナ子の手と同じだ。

俺「…………」
タナ子「ふぇ……俺にい?」

塩っぱい味と、玉葱の香り。俺の口内と鼻腔に広がる。

タナ子「んぅ、くすぐっ、たい、です」

溢れる涙を唇と舌で掬い、受け止める。
痛みが引いてきたのか、タナ子の涙はだいぶ納まっていた。

優都「……何やってるんだよ」
タナ子「ユウおねーちゃん!」
俺「あっ、あ、お帰り、優都」

別に、いや本当にやましい気持ちがあったわけでは無かったのだが、この光景を見られたとなると恥ずかしい。と言うよりは気まずい。

優都「たぁちゃん、ユウのお部屋にお菓子があるから取ってきてくれるかな?」
タナ子「はいー」

とてててて。待ってくれ、今は置いていかないでくれ、タナ子。

優都「さてと、話を聞こうか。俺?」
俺「えー、あのですね」

1 うどん作ってました
2 やましい気持ちはありません
3 えー、嫉妬ですか

>>やましい気持ちはありません

パコン。軽く頭を叩かれた。

優都「当たり前だ、馬鹿」
俺「ごもっともです」

優都が溜め息を吐く。

優都「一度はっきりさせておこうとは思っていたが、俺」
俺「はいっ」

しゃきり。自然と背筋が正しくなる。

優都「お前はタナ子チャンの事をどう捉えているんだ?」
俺「どう、って」

タナ子は、確かにここに来た経緯はわからないが俺達の家族として迎え入れて、俺の妹になった。
俺は、タナ子を妹として捉えていた。

俺「妹、だけど」
優都「なら、ああいう事は止めてやれ」
俺「ごめん」

よくわからないが、ここは謝っておくのが吉だろう。

優都「元々血の繋がりが無いんだ。それにタナ子――」

ぐっ。優都は自分の中で何かを噛み殺すように押し黙った。

俺「優都……?」

1 どうしたんだよ?
2 タナ子?
3 言って、くれ


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -