6週目/最初から/BAD ED 16


>>6週目/最初から

本棚を組み立てたはずが女の子ができあがった。

「いや、意味わからん」

組み立てていたのは何の変哲もないホームセンターで買ったスライド式本棚だったはずだ。

「取り敢えず……」

1 話しかけてみる
2 不気味だし無視で
3 カーチャンを呼ぶ

>>話しかけてみる

話し掛けてみることにした。

俺「おーい。起きろー」
女の子「…う…ん……」

ふるり、と長い睫毛が揺れて瞳が開いた。
黒曜石のような瞳だった。
黒い本棚だったからか、女の子は黒い瞳に黒い髪だった。

女の子「ここ、は…」

1 お前がこれから住む家だよ
2 お前が俺の下僕となる家だよ
3 やべぇ喋った。カーチャン!

>>お前がこれから住む家だよ

どうして本棚が女の子になったのかわからない。でも、確かに俺は創ってしまったのだろう、この女の子を。
だったら俺が責任をとらなければならない。

俺「お前がこれから住む家だよ」

俺はなるべく優しい声で柔らかくそう言った。

女の子「…………?」
俺「えっ?ちょっ!」

ぽろぽろ。女の子はいきなり涙を流した。俺は何かまずいことを言っただろうか。
何せ男兄弟の中で育ったからか、女の子の扱い方はよくわからない。

俺「ごっ、ごめんな?急にそんなこと言われても嫌だよな?」

女の子はふるふると首を横に振る。
俺の言葉が嫌ではなかったみたいで一先ず安堵する。
落ち着いて女の子を見てみると、泣いてこそはいるが、きょとん。としていた。
まるで、なぜ泣いているのかわからないかのように。

俺「どこか痛いのか?」
女の子「…………」

ふるふる。また首を振る。
どうしていいかわからず、とりあえず涙を拭ってあげようと思い、指で拭ってやる。と、女の子の唇が薄く開いた。

女の子「……ごめんなさい」

女の子は一言そう言うと糸が切れた人形の様に崩れ落ちる。

俺「――!」

1 抱き留める
2 よける
3 仕掛け人形?

>>抱き留める

俺は女の子が床に打ち付けられる前に抱き留める。
ドサッ。軽いが、確かにある程度の重さがあった。

俺「この子は……生きてる?」

微かに伝わる鼓動と呼吸音。自分もよく知っている音だった。
これは自分一人の問題ではないな。俺はカーチャンに相談する事にした。

美琴「不思議なこともあるのねぇ」

カーチャンは未だ眠っている女の子を見てそう言った。
俺は信じてもらえないだろうがこの子の経緯と、この家の子として住まわせたいと話した。
カーチャンは疑いもしなければ否定するわけでも無くあっさりと了承してくれた。だから後はこの子が目を覚ますのを待つだけなのだが、目を覚まさない。

美琴「俺ちゃんのお話が本当だとすると、この子は俺ちゃんが創ったのよねぇ?お名前はどうするの?」
俺「名前……?」

ああ、そうか。名前が必要だよな。
俺は……。

1 タナ子だな
2 カーチャン何が良い?
3 か――
4 柚葉か鞠華か……

>>カーチャン何が良い?

名付けのプロと言えばやっぱり親だろう。

美琴「そうねぇ……。姫華ちゃんとか、桜子ちゃんとか、美雨ちゃんとか――」
俺「うわごめんなんでもない」

出るわ出るわカーチャンの少女趣味全快のキラキラした名前の数々。聞くだけでぞわぞわしてしまう。

美琴「うふふ。俺ちゃんが付けてあげるのが良いんじゃなぁい?」

確かに、このままカーチャンに付けてもらったら恵利座部澄とか脚沙凛とか真理杏縫とか言い出しそうだ。
俺は眠る女の子を見る。

俺「……タナ子」
美琴「それが、この子のお名前?」
俺「ああ」

カーチャンは俺の付けた名前に異議を唱えなかった。それどころか、小さく笑って俺を見る。

美琴「そう……」
俺「駄目?」
美琴「ダメなんかじゃないわよぅ。俺ちゃんがこの子の為に付けたお名前だもの」

さらり。カーチャンは女の子――タナ子の前髪を分ける。

美琴「早く目が覚めると良いわね、タナちゃん」
俺「……うん」

本棚から取った名前。
本棚になるはずだった女の子。
もしくは、本棚になれなかった女の子か。
はたまた、本棚ではない存在なのか。
俺にはこの子がわからない。
でも、どこか、一緒に居たいと思ったのだ。

俺「目を覚ましてくれ、タナ子……」

俺はタナ子の頭を撫でた。
気が付けばだいぶ時間が経っている。
さて、どうするか。

1 タナ子の傍にいる
2 カーチャンは何してるかな
3 メールするか

>>メールするか

カーチャンに話したとは言え、まだちょっと抱えきれないな。
こう言う時は誰かに話してみて整理するのが良いだろう。
まぁ、本棚を組み立てたはずが女の子ができあがった。なんて、笑われるだろうが。

俺「携帯、っと」

カチカチ。電話帳を開く。

1 あいつ何してるかな
2 そう言えば明日は
3 あっ、忘れてた

>>あっ、忘れてた

そうだ、明日は優都が帰ってくるんだったな。
鞠華さんから借りてた本を明日返すって約束してたけど、次のバイトの時でも良いか連絡しないとな。
ついでにタナ子の事も話せる流れだったら話したい。

俺「すみません、鞠華さん。明日は兄が帰ってくるのを忘れてまして、お茶はまた今度でも良いでしょうか?」

よし。こんな感じだろう。
送信して暫くすると返事が返ってきた。良かった。今は稽古中じゃないみたいだ。
鞠華さんは俺のバイト先の先輩だ。だが、お金欲しさにバイトをする必要は無いはずの大手企業のご令嬢である。
以前、そんな鞠華さんのスケジュールを聞いてびっくりした事がある。あまり空き時間と言うものは無かったはずだが、メールをする時間があるみたいで良かった。

俺「えーっと……」

大丈夫ですのよ。
お兄さまを大事にしてくださいね。
わたくしも、明日は用事が出来てしまいましたの。ですから、お気になさらないでくださいね。
また俺くんとのお茶を楽しみにしていますわ。

俺「鞠華さん……」

明日用事があるなんて嘘だ。
鞠華さんはこの約束をした後、明日スケジュールをあけるために前倒しで色々済ませたと、嬉しそうに言ってくれたのだから。
俺に気を遣わせまいとした鞠華さんの心遣いが胸に染みる。

俺「すみません、鞠華さん」

俺は鞠華さんに再度丁寧に謝り、お休みなさいと返信した。さすがにタナ子の事を相談できる空気では無い。

俺「うーん……どうするかな」

1 あいつ何してるかな
2 そう言えば明日は
3 どうしてるかな
4 俺は寝るぞ

>>そう言えば明日は

俺の兄貴、優都が帰ってくる日だったよな。
レポートを纏めていた手を止める。
優都は俺の兄貴だが、女装して占い師をしていると言う変わり者だ。そしてかなり、うざったい。
あまりメールとかしたくないが、やっぱり兄貴だしな。頼れるだろう。連絡してみるか。

俺「えっ?」

メール画面にした所で電話がかかってきた。表示された名前を見てびっくりする。

俺「すごいタイミングだな。もしもし、優――」
優都『きゃはっ!ユウだよん!俺きゅんひっさしぶりぃー』

ブツッ。反射的に切ってしまった。

俺「……ですよね」

しかしめげずにかけ直すのが優都だ。

俺「もしも――」
優都『もぉーう!俺きゅんひっど』

ブツッ。俺は何してるんだろう。
いや、ほんと、遊んでいるわけじゃないんだ。手が勝手に動いちゃうんだよ。

優都「そぉんなことする俺きゅんには、お土産あーげなーいぞっ!」
俺「うわああぁっ!?」

ガタガタゴトン!ガシャ、バサッ。
いつの間にか部屋の扉は開いており、優都が立っていた。
驚いた俺は椅子から転げ落ちると共に筆記用具とレポートを床にぶちまけてしまった。情けない。

優都「ちょっと、何やってるんだよ俺」
俺「いや、だって明日帰ってくるって言ってたから」

おそらく素に戻っている優都が床にぶちまけた諸々を拾ってくれる。

優都「ちょっとな。気になることがあって早く帰ってきた。ほら」
俺「ああ、ありがとう」

優都からレポート類を受け取る。こうしてると良い兄貴なんだけどな。
女装してゴシックアンドロリータな格好してなければだが。

俺「そうだ優都。相談があるんだけど」
優都「えぇーっ!?ついに俺きゅんから恋の相談?やだやだぁ!ユウどうしよーっ。さぁさぁお話なさいなっ」

うぜぇ。

1 いや、やっぱいいや
2 あのさ、家族増えたから

>>あのさ、家族増えたから

優都「俺きゅん……ついに妊娠したの?」
俺「しねぇよ!できねぇよ!!」

ついにって何だよついにって!そんな深刻そうな顔で見るな!
まったく。どうしてそうなるんだよ。

優都「きゃはっ!冗談だよん。みこたんからも聞いてるしぃー」
俺「カーチャンから?」
優都「俺きゅんがロリちゃんを誘拐及び監禁そして猥せ」
俺「おい」

ウソウソっ!そう言って優都はまた癇に触るような笑い方をした。本当に優都と話すと疲れる。

優都「ユウねぇ、俺きゅんのこと占ってたんだけどぉ」
俺「勝手に占うなよ」
優都「そぉしたらぁ、なぁーんか不思議な感じがしたから早く帰ってきちゃったのぉ」

ばっちん。どうしてそこでウインクするんだよ。
でもまぁ、カーチャンから話を聞いてるんなら話が早い。

俺「まぁ、それでタナ子を家の子にしようと思う」
優都「じゃあ、俺きゅん一気にパピィ?」

パピィ。パパ。お父さん。
それはなんだか違う気がする。

優都「うぅーん。でも俺きゅんならおにぃたんの方が良いんじゃないかしらん?」
俺「……まぁ、そうだな」

お兄ちゃん。その方がしっくりくる気がする。パピィよりは。
優都もタナ子を受け入れてくれて安心した。しかしこうもすんなりと理解してくれると怖いような気もするが。

俺「それで優都」

1 タナ子見てみるか?
2 今度はいつまで家にいるの?
3 俺は疲れたから寝る

>>タナ子見てみるか?

俺「多分、まだ寝てるだろうけど」
優都「たぁちゃんどんな子かなっ?ユウ楽しみぃ」

タナ子はリビングに寝かせている。
俺と優都はリビングへと向かった。
リビングへ入り、なるべく物音を立てないようにしてタナ子に近付く。タナ子はまだ眠っていた。

俺「ずっと、眠ってるんだ」
優都「この子がたぁちゃんかぁ。ねぇ、元気?ユウはユウだから、ユウおねーちゃんって呼んでね!こっちは俺きゅん!俺にいって呼んであげてね!」
俺「お前っ!そんな大きな声で言うなよっ」
優都「俺にい!俺にい!を、よろしくお願いいたしまぁーす!!」

まるで選挙カーから流れる小煩い連呼のような真似までし始める。
タナ子が起きたらどうするんだ。って、そうか。起きて良いのか。
俺は、タナ子に起きてほしいんだ。でも。

俺「うるせぇよ!」

ぱこん。優都の頭を叩いた。
恨みがましそうに上目遣いで見てくるけどまったくもって可愛くない。

優都「にしてもぉ、本当に起きないんだねぇ。お姫サマごっこぉ?」

優都はそう言いながらふざけてはいるが、タナ子を見る瞳は真剣だった。

俺「まぁ、そう言うわけだからよろしく」
優都「妹ちゃんなんて、ユウ嬉しいなっ。今から何させるか考えよーっと」

そう言うと優都は自分の部屋へと帰っていった。
どっ。と疲れが襲ってくる。
そろそろ眠った方が良いな。

1 おやすみ、タナ子
2 俺の夜はこれからだ!


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