5週目/最初から/鞠華 ED 11
〜四冊目〜
朝。タナ子が来てどこに連れていかれるのかと思ったが、案内されたのはホテルの屋上だった。
屋上には巨大なモニターが置いてある。あれは恐らくホテルの物ではないだろう。
イザナミ『皆様お揃いでございますね』
モニターにイザナミさんが映し出される。
やっぱり用意された物だったか。
イザナミ『レイシス様に代わりましてワタクシ、イザナミがこの決闘を見届けさせていただきます』
スッ。タナ子が青い短刀を構える。
そう言えば、鞠華さんはどうするのだろう。お嬢様だからか、武術等も嗜んでいるとは以前聞いたことがあるが。
ちら。と鞠華さんを見るが、やはり武器らしいものは持っていない。どうするつもりなのか心配になってきた。そんな気も知らずに鞠華さんは目が合うと、ふうわり。と俺に笑った。
鞠華「イザナミさん?武器は何でもよろしいのでしたわよね」
尋ねてはいるが、有無を言わせない言い方をしている。
イザナミ『何でも構いません』
それに対してイザナミさんは表情を変えることなく回答した。
鞠華「そうですの。では、わたくし絶対に勝ちますわ」
鞠華さんの自信がどこからくるのか俺にはわからない。が、瞳が真っ直ぐだったから信じようと思った。
タナ子「準備はお済みですか?」
鞠華「大丈夫ですのよ」
大丈夫、って。準備なんて特にしてないよな。どうするつもりなんだ。
イザナミ『時間制限はございません。どちらかが戦闘不能、もしくは降参するまでおやりくださいませ』
不意に鞠華さんが俺の腕を組んだ。
いや、ちょっと、こう言うことはさすがに終わってからが良いんだが。
鞠華「わたくしの武器は、俺くんですの!」
俺「……え?」
1 俺っ!?
2 何言ってるんですか
3 はぁ?
>>俺っ!?
驚く俺を余所に、鞠華さんは優雅に微笑む。
鞠華「問題ありませんわよね?」
イザナミ『武器と、言うのでしたら』
鞠華「ですってよ?」
いや、そんな、ですってよ?って嬉しそうに言われても。
鞠華「信じていますわ、わたくしの王子さま」
ああ、そんな風に微笑まれたらやるしか無いじゃないですか。
俺「わかりましたよ、俺のお姫様」
俺は鞠華さんに笑い返した。
俺「さて、と」
タナ子「………」
タナ子の青い短刀。
あれには以前助けられたが、今度は俺を傷付けるのか。
タナ子「マスターは、国王になることをお望みですか?」
国王。ぶっちゃけ面倒くさそうだしなりたくない。
でも、俺が今鞠華さんと一緒にいる為にはその財力は必要だ。鞠華さんを家のしがらみから解放する為にも。
鞠華さんと一緒に居られるための対価だとするのならば、これ程安いものではない。
1 ああ
2 俺は鞠華さんと居たいだけだ
>>ああ
タナ子「そうですか。残念です」
カラン。タナ子は自分の短刀を地面に放り投げた。
タナ子「わたしはマスターを傷つけることができません」
イザナミ『降参でございますか?』
タナ子「はい」
呆気なく終わった決闘に唖然としていると、後ろから柔らかいものに包まれた。
鞠華「くすっ。勝ちましたでしょう?」
俺「鞠華さん……はい。これで、ずっと一緒です」
こうして俺はお爺ちゃんから国を継ぎ、鞠華さんを嫁に貰った。
今、鞠華さんと一緒に過ごすことができてとても幸せだ。
けれど普通では無いこの国。一度入れば基本外へと出る事は叶わない。
だからこそ俺はお爺ちゃんを知らなかったし、カーチャンの居場所がわかったのにお爺ちゃんはカーチャンの、娘の所へ行けなかったのだ。
鞠華「何を考えていらっしゃいますの?」
俺「んー……これで良かったのかなぁ、って」
清楚なドレスに身を包んだ鞠華さんが俺を覗き込む。
俺は、鞠華さんを鳥籠の中から出してあげたかった。
でも、実際は鳥籠から俺と言う檻の中へ閉じ込めてしまっただけじゃないだろうか。
鞠華「愚問ですわね。わたくしは、俺くんと一緒でしたら何でも良かったのですわ」
鞠華さんが微笑む。
今の俺にはその言葉が、笑顔が、ありがたかった。
俺「鞠華さん……」
寄り添う体。
聞こえる鼓動。
お互いが今、ここに存在すると確認し合う。
鞠華「ずっと、一緒ですのよ?」
大きな国の狭い世界で確かに俺と鞠華さんは、幸せだ。
Marika END
―ED11 鳥籠の中の鳥は檻の中―